二幕 幸と仁義 その拾
朝起きてすぐにスマホを見た。するとホーム画面に見たことのないアプリが表示されていた。
『ロンギヌス』という名前と白い背景に黄金の槍が一本あるアイコンだ。
ロンギヌスと言われて思いつくのは、ロンギヌスの槍だろう。
ロンギヌスの槍とは、キリストの死を確認するために脇腹に刺された槍だという。アダムとイブの間にできた子の長男であるカインの直属の血統であるトバル・カインが天から落ちてきた金属で打った槍らしい。
また、ロンギヌスは目の病を負っていたのだが、キリストから滴った血が目に入ると彼の死力は戻っていたらしい。そのキリストの血を浴びたロンギヌスの槍は聖遺物となり、世界を制する力を与えるという伝説がある。
―願いを叶える槍の正体はロンギヌスの槍なのか。
そう思いつつもアプリを開いた。
すると少し長いローディングが始まる。ローディングが終わるとピョコリとピエロのミニキャラが現れる。
そのピエロはこのアプリについての説明を吹き出しにて語る。
『このアプリは自分の神や《プレイヤー》との連絡が可能でぇす。まぁた、この《遊戯》についての知らせも伝えてまいりまぁす』
吹き出しが消えたと思えば、手紙のようなものが画面に大きく表れる。
その手紙が開かれると中から出てくるは招待状。
『我らが眷属たる《プレイヤー》の皆々様方、イベントへと招待いたします。
《遊戯》にて槍を探すのに必要不可欠なイベントと言ってもいいでしょう。
まぁ長ったらしいのは無しにいたしましょう。
三日後の土曜、天満屋内に槍への道を記したものが隠されております。
さぁ、探し出してください。我ら神はあなた方の歩む軌跡とその先を楽しみにしております。』
流石神の手紙と言ったモノだろう、読み終わるとそれを見透かしたように招待状は折りたたまれ光の粒となって消える。
神との連絡や《プレイヤー》との連絡を取ることが可能という説明だったため、その機能がどこにあるのかと探した。
右上にはメールボックスのようなものがあり、中央には十のブロックがスクロールでかわるがわる現れる。
そのブロックにはそれぞれ絵が描かれておりその下には文字が表示されていた。十手『町奉行』、刀『侍』、簪『花魁』、クナイ『忍』、神楽鈴『巫女』、猿『猿公』、蛇『詐欺師』、コウモリ『吸血鬼』、魔法の杖『賢者』、そして道化の面『ロキ』
絵はその者を表し、名はプレイヤーネームを示す。
―こりゃ紫苑や宗一郎さんとの連絡にちょうどいいな。
―いや、そこは普通にLIMEでいいか。
―紫苑、起きてるかな?
―紫苑と会ってちょっとこのアプリについて話すか。
遊蓮はベッドを降りて扉を開けた。
リビングへと行くと、エプロンを着た紫苑が台所にいた。見る感じ、何かを温めているのだろう。
「何作ってるの?」
遊蓮は紫苑に近づいて声をかける。すると、ビクリと肩が跳ねる。
彼女は怯えるように体を震わしながら、視線をそらす。
「あ、あの、ご、めんなさい」
「いや、いいよ。一緒に住むことになったんだし、その辺は自由にして」
そう言うと彼女は少しながら笑みをこぼす。
「これ、どうぞ」
それはお皿に盛りつけられた目玉焼きだった。それと今作っていた味噌汁を汁椀に注いで差し出す。
「僕のも作ってくれたんだ」
「うん、住まわせてもらうなら料理ぐらいはと思って」
「そっか、ありがと」
遊蓮は受け取った料理を持ってリビングの机へと持っていった。
遅れて紫苑も料理を持ってくるが、再び台所へと戻っていく。
帰ってきたと思えば、両手に茶碗を持っていた。
「こんなちゃんとしたご飯何時ぶりだろうな」
遊蓮はほとんどインスタントか卵かけご飯とかしか食べていなかったため、こういうご飯を懐かしく嬉しく思う。
「「いただきます」」
遊蓮はまず味噌汁を飲んだ。
「うまい」
その言葉は意識せずに自然と出たモノだった。ちょうどいい味で、温かさが体に心にしみた。
紫苑も遊蓮のその言葉を聞いて嬉しそうに笑みをこぼす。
―学校行く前なのに...朝早く起きてくれたんだろうな
「あ」
ある事に気が付き遊蓮は声を零した。急だったためか紫苑はその声に驚き、遊蓮を見た。
「教科書とか制服の買えとか持ってきてる?」
「―あ」
オロオロと困っているかのように頭を抱える。
その声や行動が持ってきていないことを示していた。
「えっと家に取りに行けそう?」
「お父さんが寝てたら...」
「分かった、少し早めに出て取りに行こうか」
こうして駆け足で支度をして家を出て行く。紫苑の家はここから少しながら遠いが、自転車で行けばさほど時間はかからない。
紫苑も近くに自転車を止めているらしく一緒に自転車を取りに行った。
――望月家
見た目はボロい小さなアパートだ。
階段を上ると「ぐがぁ、ぐがぁ」と男のいびきが外まで響き渡る。
しかもよりによって、紫苑の家がそのいびきの元だった。
寝ていたほうが都合がいいのだが、こうもいびきをかいていると逆に妙な気まずさと気まずさがある。
紫苑はなるべく音を立てないように入っていく。遊蓮は何かがあった時のために玄関に立って待った。
紫苑は必要そうなものを積み上げていく。男は未だに寝ている。
どうか起きないでくれと祈りながら遊蓮はそれを見ていた。
紫苑は積み上げたモノをできるだけカバンに入れて、入らない物は持って立ち上がった。
そして玄関に出ようとした矢先、教科書の一冊が束の上からポロリと落ちた。
その落ちる音をきっかけに、男はゆっくりと目を覚ました。そして、辺りをキョロキョロと見まわす。するととある一点を見て視線が止まった。
紫苑を鋭くにらみつけて、ばつの悪そうな顔をする。
「紫苑、やっと帰ってきたかぁ。お前の所有権はよぉ、誰のもんだ?」
「そ、それは...と、お......」
「あ?聞こえねぇなぁ!!」
怯える紫苑に男は立ちながら威圧的に罵声を浴びせる。
それも父親が娘に言う言葉とは到底思えない。
その上、男は拳を握り締めてそれを振り下ろすように構えていた。殴る時の構えだ。
それを見た時、遊蓮は自然と動いてしまっていた。自分の腹を刺した少女のために命を賭けようだなんて可笑しいだろうか?否、遊蓮にとって紫苑はもうかけがえのない者になろうとしていた。
出会って時間が経っていないというのに、彼女の子の境遇を直で見ると守りたいという気持ちに襲われてしまう。
男が紫苑を殴るよりも先に遊蓮が男に触れた。
―命令.止まれ
「早く行こう!紫苑」
「...うん」
遊蓮と紫苑はそこを後にした。




