第十八話 課外演習、集う五天 (1)
さらなる混沌を引き起こしたのは、魔素のモヤに全身を侵された生徒による強襲だった。
「何が起こってるっていうのよ!」
「さあね。それより気をつけなよ、サクラ。やつらの狙いはおそらく君だ」
そんなことは言われなくてもわかっている。どうあっても、魔王の狂信者どもはアタシに干渉したいらしい。あるいはこれは先日の報復なのかもしれないが。
どちらにせよ、関係ない他人を巻き込むわけにはいかない。さっさと倒して事態を収拾しないと。
「危ない、サクラ!」
考え事をする暇もなく襲いかかってきた狂った生徒の一撃を、割り込んできたジークが受け止めてくれた。油断した、意識を切り替えないと。
「どいてジーク、アタシが斬るわ!」
「……いや、彼は僕が受け持とう」
「なんで?」
「どういう経緯があろうと、彼も僕の王国の民だからね。その罪は僕も背負わなければというだけさ」
……それは。
「どけよオラァ!」
「って、ラヴァナ!?」
戦闘態勢を取ったジークを押しのけるようにして、突然後ろの茂みから赤い長髪のエルフが飛び出してきた。すでに炎の魔術をエンチャントされた振り子が、繋ぎ止められた鎖が大きく弧を描くのに合わせて、鋭い斬撃を繰り出す。
【ぉ、ォオオオオオオ! ラヴァナ様ァアアアァア ―――】
「ッるせェ! 黙って大人しくしやがれってんだよォ!!」
炎の鞭となったペンデュラムが、魔素に蝕まれた鎧を溶かして切り裂く。だがその分厚さを削り取るには至らずにすぐ回復して、暴走し続けている。
「ちィ! どうなってんだよこりゃあ!」
「ラヴァナ、あれってアンタと一緒にいた生徒よね。なにがあったの?」
「こっちが訊きてェよクソが。魔素の爆発が起きたかと思ったら、アイツを含めた三人の生徒が魔物みてェな姿になりやがった」
人間の魔物化……。融合の禁呪がここまで無差別に使える術だとは思わなかった。だが今考察していても仕方がない。今はここを切り抜けなければ。
「ひとまずは共闘するわよ。ジーク、ラヴァナ。力を貸しなさい!」
「仰せのままに、お姫さま」
「命令してんじゃねェ! テメェらが俺についてきやがれ!」
二人ともやる気十分な様子。背後に視線をやると、ルルミラとメイリンも魔物の残党を次々に仕留めていっている。あちらは任せても大丈夫そうね。
ジークとラヴァナに呼吸を合わせる。
「我流剣技・攻術。壱の型、"一文字" !」
「燃えやがれ! フレイムファング!!」
「光よ、吼えろ。"グリトニル"ッ!」
中距離砲撃と呼べる攻撃を選んだ二人を援護するべく、彼らの攻撃がヒットするより疾く駆ける。振り下ろされた槍を跳び上がって回避し、上段から脳天めがけて〈桜鐡〉を唐竹割りに叩き込んだ。
よろめく男子生徒の魔素の鎧がゆらぎ、そこに炎と光の魔力砲が直撃する。体勢を崩してガラ空きになった胴、そこに埋め込まれている魔素を垂れ流し続ける黒い結晶体へ狙いを定める。
「はぁああああああ!」
素早く斬りつけた一閃が結晶体を切り裂き、砕いた。同時に魔素のモヤに蝕まれていた男子生徒が元の姿に戻り、地面に倒れ落ちる。
思った通り、融合させられていたのは魔物というより魔素の結晶だった。これみよがしに胴体に埋め込まれていたから気づくことができた。
気絶している男子生徒を地面に寝かせつつ、周囲を素早く見回す。幸い次なる敵は出てこない。ひとまずは落ち着けるだろうか。
『サク、ラ。気をつ、けて』
「この声、ルキ先輩!?」
脳内に直接響く声の主は、先日知り合って相対したばかりの先輩。二重人格の片割れたる少女の声だ。
なぜ、とか。どうやって、とか。そんな疑問は、次に起こった事象が彼方へ吹き飛ばした。
ゴール地点が設けられているはずの方向から、空は晴れたままなのにも関わらず、雷鳴のような破裂音が何度も何度も炸裂する。
木々が薙ぎ倒され、開けた空間を空に向けて飛翔するのは、閃光の尾を引く翼を持つ人影。
「あれって……ヴィ?」
どうやらゴール付近で戦っているのは "五天" の一人、科学を司る騎士であるヴィのようだ。
戦ってる相手は……。
「こんな状況だし、考えるまでもないか!」
そのままアタシは、混沌とした戦場と化した森の中を駆け出し始めた。




