第十七話 課外演習、想定外の事態
ついに始まった学期末試験。その内容は、チーム対抗の演習試合だった。
そうして、前と同じくルルミラとメイリンと組んだアタシだったが、そこに新たな仲間が増えた。それはなんと―――。
「あはは、よろしくね三人とも!」
「よろしくじゃないわよ!? アンタ馬鹿なの? 王子さまの肩入れなんて受けたら、アタシたちが迷惑なんだけど!?」
「一国の王子の胸ぐらを掴むのはさすがに不敬じゃないかなっ!?」
なんて騒がしくしている暇も実は惜しい状況だったりする。
試験開始と同時に、アタシたちは監督役の教室が展開した転移用の魔法陣で森林の中のどこかに移動させられていた。
鬱蒼と茂る木々の中を、急造の四人パーティで歩いて行く。アタシ、ルルミラ、メイリン、そしてジーク。
試験の内容はいたって簡単だった。ただ、出発地点から定められたゴールへ進むだけ。だが、その道中には様々なトラップがあり、さらには生徒同士の妨害もアリだという話だ。この試験で勝つのなら、他の生徒よりも早く、一番にゴールすることが必須というわけだ。
「で。アンタが参戦したせいで、因縁つけてきたパーティにはラヴァナが参加しちゃったのだけれど。どうしてくれるのよ」
「どうもこうも。また倒せば良いじゃないか。一度できたんだ、二度目も難しくはないだろう?」
「あれは紙一重の勝利だったわ。改めて慢心なしのアイツと戦って勝てる保証なんてないわよ」
自分でも弱気な発言だと思うが、事実だ。
同じく “五天” のヴィと共闘し、ディアナレナとは手合わせをして、改めてわかった。
彼ら彼女らは、凡百の剣士とりも明らかに上の次元に立つ勇者だ。所持している武器 “始祖武具” 一つ取ってもそうだ。あれが本当に魔王の時代から受け継がれてきた武器なのなら、背負う重みもそこに比例するはず。
だから。
「負けてはいられないのは、あるのよね」
「何か言ったかい、サクラ?」
「なんでもない。てか、気安く名前を呼ぶなってば」
この王子さまはこうすればあらやる女子が自分になびくと思っているのだろうか。舐めてもらっては困る。こちとら修行一筋の女騎士なのだから。
「ハイハイ。イチャつくのはそれまでにしーや、お二人さん。ほら、第一関門っちゅうやつが来たで!」
メイリンの指摘通り、少し開けて場所に出て瞬間に、多数の召喚陣から魔物が現れる。
昆虫型、ゴーレム型、獣型と様々だが、その数はなかなかのものだ。ざっと数えて二十体ほどはいるだろうか。いちいち切るのは少し手間かもしれない。
「ありきたりだが、試験だしね。障害といえどこんなものかな。ここは僕に任せてもうよ」
「アンタが? ま、まあそう言うなら任せるけど」
「うん。大船に乗った気で任せてくれよ、サクラ」
そう言って前に出るジークが、腰の鞘から剣を抜き放つ。
彼が己の武器を使うのをちゃんと見るのは初めてだ。外見は幅広の直剣。柄の部分には十字の意匠があしらわれており、その先端には四色の宝石がはめ込まれている。煌びやかだが、儀礼用の物とは違った戦うための鋭く重い雰囲気がある。
「さてと。僕の剣技を目にできるなんて名誉なことだ。しかと目に焼き付けると良いよ」
軽口とともに抜いた剣を右手で無造作に構えるジーク。そこに襲いかかる魔物の群れ。対多数の戦いにおいて重要なのは、一対一の状況を作り出して維持すること。
そのセオリー通り、ジークは目の前の魔物を壁にすることで、後続の魔物の攻撃を防いでいる。そのまま最後の一匹になったところで急に空気が変わる。
通常、死んだ魔物はその肉体をすぐさま魔素の粒子に変えて消滅する。そういう摂理だ。だというのに、斬り捨てられた魔物たちの死体が地面に転がっているなんてことは、あり得ない。
「……? ジーク、なにかおかしいわよ!」
「これは……!!」
気づいたときには遅かった。倒された数匹の魔物の死体が、爆ぜる。
ドス黒い霧が立ち込めて残った最後の一匹に群がり、その姿が変貌する。無数の肢を持つ蜘蛛のような胴体から人を思わせる上半身を生やした異形。通常の生物ではありえない姿。魔物同士による融合体。
【禁呪 “ユニーレ” だよ、おねーちゃん!】
「また狂信者の仕業!?」
反応は目の前の敵にとどまらない。森の中に、反応が複数。どうやら他の生徒のところでも同じことが起きているようだ。これはマズい。
「ジーク、アタシも加勢するわよ!」
「来るな!!」
「っ」
一歩踏み出そうとしたアタシの足元から、漆黒の棘が飛び出す。どうやら今回の融合体は魔素の扱いに長けているらしい。自在に形を変える霧のような魔素の粒子が辺りを蹂躙していく。早く倒さないと被害は広がり続けるだろう。
「言っただろう。任せろと」
「アンタ一人で大丈夫なの?」
「おいおい、みくびらないでくれよ。僕はこれでも “五天” の頂と言われる男なんだぜ?」
珍しく格好をつけて飄々と言ってのけたジークの剣が、輝きを放ち始める。炎のような熱は感じない。それは―――純然たる光の具現。
「開門せよ、〈始祖武具〉。其は全てを切り裂く至高の光。〈両断せし一触〉!!」
周囲を染め上げる光輝が収束し、剣を覆う。そして光の剣を携え、ジークはまったく躊躇うことなく前へ駆け出した。
振り下ろされる魔物の腕の一振りを手首だけでくるりと回した光刃が受け止め、そしてバターでも切るようにさっくりと断つ。そのまま流れるように繰り出された斬撃の一つ一つが魔物の肉体をズタズタにしていく。
【あれが聖剣。勇者の操る武具の中で最も強い力を持つ "光" の武装よ】
「光……」
「ほえ〜。やっぱさすがやなあ、王子様は」
「うんうんっ。“五天” の中でも一際強いって言われるだけあるねえ!」
光の剣なんて、いかにも勇者が使いそうな武器だ。いつも自信満々のジークにピッタリとも言える。
そんな光の斬撃は瞬く間に立ち塞がる魔物を斬り尽くしていた。立ち上がることすらできなくなった残骸はぴくりとも動かない。勝負はあったと前に踏み出そうとして、背筋を突き刺す強烈な嫌な予感が。
「避けろ、サクラッ!」
「くっ!?」
体を横に倒すのと、先ほどまで首があったあたりの空間を槍の穂先が貫通するのはほぼ同時だった。
その場から飛び退いたアタシの目に映ったのは、さらに予想外の事象だった。
「アンタは……!」
『ぐ、ぁぅあああアアアアアアアアア!!』
槍で襲ってきたのは、試験開始時に因縁をつけてきた参加生徒の一人だったのだ。




