ぷよひょろ、悪党にとらえられる
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はっきり内容を憶えていない。
けれどものすごく不快な夢からゆっくりと覚めて、……ベッカは気づいた。
身動きがままならないまま、硬い床の上に横たわっていることを知る。
うす暗い……いやすでに夜らしい、必死にまばたきをして視界を透かせば、知らない場所だ。木箱みたいなものが周囲いっぱいにごたごた積まれた、かび臭い場所……。納屋? 物置?
――ここは……? あ……さっきの、店の裏手……??
「ブラン君、……」
言いかけた声がくぐもる。何と、猿ぐつわの布を噛まされている!
ベッカの両手は紐でくくられていた。足首のところもだ。
ぷよん、と全身を弾ませ、どうにか起き上がってみる。
すぐ脇に、あたたかい気配をみつけた。窓からのわずかな外光に、ようやく目が慣れ始めている。
「ふはん、ふんっっ!」
同じように手足をくくられて、粗末な寝台の上、ブランが長細く横たわっている。膝でにじり寄って、肘で触れてみた。
「うーん」
かすかなうめき声が聞こえる。良かった、とりあえず少年は生きている!
「ぷはっ」
雑に巻いてあった猿ぐつわは、さっさと外すことが出来た。
と言うかこういう場合、普通は両手を後ろ手に拘束するものなのに、なぜだかベッカの両手は胸の前で縛ってあったから、太い指を使って、ぐいっと難なく布を下げられたのである。
ベッカの肩掛け革鞄も、ブランの長剣と矢筒も、身体にかかったままだ。中弓は少年の脇の床に、転がっていた。
――おかしいな! 悪党にしちゃ、やることが雑っぽすぎる!
ついでに手足の拘束も解けないか……と、絶え間なく指を動かしながら、ベッカは素早く周囲を見渡し、状況をつかもうとした。
窓の外は暗闇……樹々のざわめきが、ちらっと見える。耳を澄ます。室の隅に扉がある、その下部分からうっすら光が線にさしていた。くぐもった声――女と男が何人かいる――が、低く交わされている。
と、と、と……軽い足音が近づいてきた。扉が開いて、まばゆい光が室内を照らす。
一瞬目を閉じたベッカを見て、その人物は息をのんだらしい。
「あれぇ……もう起きちゃったの?」
手燭をかざして近くに立ったのは、酒商で給仕をしていた東部ブリージ系の女だった。床の上、座り込んだベッカの手前にしゃがみ込んで、顔をのぞき込んでくる。
「はば広だから、薬が足りなかったのかなぁ……」
「……お嬢さん」
ベッカは静かに、平らかに囁いた。
「助けておくれ。お願いだから」
「お兄ちゃん、潮野方言とってもうまいね。でもごめんね、助けてあげらんないの」
「こんなひどいことするの、誰なんだい。君じゃないんだろう」
「あたしじゃないけど、あたしの彼氏たち。言うこと聞かないと生きていけないから、こうするしかないの」
「……彼氏たち?」
「そう、皆あたしをかわいがる。北の奴隷商人が連れ戻しに来ても、あたしを守って追い返してくれるの。でもその代わり、あたしは別の人を用意するよう、手伝わなきゃいけないんだ」
ベッカは、背中のあたりがちりちりしてくるのを感じていた。




