表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最果ての地に追放されて七年、そこが神々の聖域だったと都の人間たちが気づいた時、私はもう帰る気はなかった  作者: 空乃ゆきこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/46

第20話: 番人の自覚

 朝、柵の一本が倒れているのに気づいた。


 夜のうちに、何か大きな獣が通ったらしい足跡が残っていた。庭の外周を囲う柵は、精霊たちの住処と、人の生活圏を緩くわける印のようなものだった。壊れたままにしておく理由はなかった。


 道具を持って、直しにかかった。体が覚えている作業だった。杭を打ち直し、縄を締め直す。七年間で、何度繰り返したかわからない。


 作業の途中、水路の方から声が聞こえた。話しかけられたのではなく、シアとソルが話しているのが、たまたま耳に入ってきた。




「番人、また柵、直してる」


 シアの声だった。


「いつも、そう」


 ソルの声が答えた。


 二人とも、こちらに気づいていないようだった。話す相手として呼んでいるのではなく、ただの呼び名として使っている響きだった。


 手を止めた。


 番人、という言葉が、思っていたよりも自然に、二人の間で使われていた。まるで、ずっと前からそう呼んでいたかのように。




「今の、なに」


 思わず、声をかけた。シアが、はっとしたように振り返った。


「聞こえてた?」


「聞こえた。番人って、なに」


 シアは、少し困ったような光り方をした。答えていいものか、迷っているようだった。


「……リナのこと」


「わたしのことを、そう呼んでるの? いつから」


「わからない。ずっと前から」


「ずっとって、どれくらい」


「たぶん、何年も前から」


 その答えに、言葉を失った。自分の知らないところで、自分を指す名前が、すでに出来上がっていた。




 ソルが、地面の中から短く付け加えた。


「柵、直す。畑、見る。木、確かめる。それが、番人」


「わたしは、ただ、必要なことをやってるだけ」


「それが、番人の仕事」


 ソルの言い方には、迷いがなかった。役目として与えられたものではなく、七年間の行動そのものが、いつの間にか「番人」という一つの言葉に落ち着いていたのだと知った。


 都にいた頃、リナは役目を与えられ、それに見合うかどうかで測られていた。役立たずと判断されて、追放された。だが今、この庭で得た名前は、誰かに与えられたものではなかった。ただ、してきたことの積み重ねが、そのまま名前になっていた。




 柵を直し終えて、手についた土を払った。


「番人、か」


 声に出してみると、思っていたより、抵抗がなかった。役に立つかどうかで判断される役目ではない。ただ、そこにいて、必要なことをしてきた結果としての名前だった。


「嫌?」


 シアが、遠慮がちに尋ねた。


「ううん。嫌じゃない」


 それは、本当だった。役立たずと呼ばれた七年前と、番人と呼ばれる今と、同じ「呼び名」でも、意味がまるで違っていた。前者は他人の都合で貼られた札で、後者は自分の足跡が積もってできた名前だった。


「番人でいい。それで、いいと思う」


 その言葉に、シアが小さく揺れて、水路の方へ戻っていった。柵の向こうに広がる庭を見渡すと、いつもと変わらない景色のはずなのに、少しだけ違って見えた。



最後まで読んでいただきありがとうございました。


第20話をお届けしました。「番人」という言葉を、リナ本人が知らないところで精霊たちがすでに使っていた、という構成にしました。誰かに与えられた役目ではなく、七年間の行動の積み重ねが、いつの間にか名前になっていた——そういう順番を大事にしたかった話です。


「役立たずと呼ばれた七年前と、番人と呼ばれる今と、同じ呼び名でも、意味がまるで違っていた」という一文は、この物語の根っこにあるテーマそのものだと思っています。


次の話では、リナのクールな表面が、ある珍しい出来事の前で少しだけ崩れます。


ここまで読んでくださって、ありがとうございました。


☆評価・ブクマ・感想をいただけると次話の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ