大事なのは、相手を知る事
ルインさんに地下牢へ連れてきてもらった。すでに拷問したのか、わずかに血の匂いがする。
「……どうだ」
「だめですね。口を割りません。歯に毒を仕込んでやがったので、仕込まれてると思われる歯は抜きやした」
牢番のおじいさんがそう話した。喋れば殺されると思っているようだったしなぁ。あと、拷問とかで得る情報って正確性に欠けるのよね。
「名前も知らないお姉さん、こんばんわ」
「………」
「私はリーリア」
「………」
頑なに何も語ろうとしない女性。できるルインさんが、そっと女性のプロフィールを持ってきた。家族構成と特記事項を読んで、心臓がはねた。
「………ねえ、お姉さん。お母さんは貴女の主に呪われたのかもしれないよ」
この人の母は、同じだ。私の母と同じだ。
「!?」
同じ、なのだ。ある日突然、眠り続ける奇病。いかなる魔法も縫術も受けつけない病。神器がなくとも当代最高の縫術師である父ですら、時間を止めて延命するしかできなかった。
「だって、私の母と同じ病気なんだもの」
「うそ……」
お姉さんが初めて声を出した。否定しながらも、その瞳は絶望に彩られている。いやもう、敵さん本当にクソだわー。
そりゃあ人質がいたら頑張るよね。もう処分されたりは……してないのね。流石ルインさん、マジ仕事早い。惚れそう。いや、マジでリスペクトするわー。
脳内でそんなことを考えつつ、お姉さんを説得する。多分イケる。この人の大切なものを、把握したから。そして、私とこの人はとても似た立ち位置だから……なんと言えばいいかわかるのだ。
「私は、それがどんな呪いか知りたい。母を目覚めさせたい。ねえ、何かなかった?お母さんが眠りに落ちる前に貰ったものとかない??」
「もらった、もの………?」
「お姉さんと今寝込んでるお母さんは住み込みだから、変わった備品とかでもいいんだけど」
彼女は考えて……あ、と声を出した。
「ベッド……古くなったベッドを……変えました。ブローレット家が経営している病院のベッドを変えるついでに、余ったものをいただきました!そうだ、そのうちの数人が同じ症状に!でも、私はなんともないです。他にも貰った使用人がいるはずなのですが……何故……?」
チラッとルインさんを見たら頷いて部屋から出ていった。しかし、スカーレットじゃなくブローレットか。まあ、両家は仲がいいからねぇ。ベッドもそれでもらえたんだろうし、不自然ではない。
「病人のシーツは取り替えてるよね?」
「あ、はい……」
だとすれば……マットレスかな。流石にマットレスまで交換はしない。この推論に確証がほしい。
「アルスリーア様、申し訳ありません。彼女の家に行きたいです。私の予想が正しければ、この病は呪縫術によるもの。呪縫術ならば、私が解除できるはずです」
「許可しますわ。ルイン!」
「はっ!」
ルインさん、いつの間に!?マジで気配ないんだけど!!
「リーリアの護衛をなさい!わたくしの大切な縫術師にかすり傷一つでもつけたら許さなくてよ!」
「お嬢様の御心のままに」
ひざまずくルインさんの隣にチョコンとひざまずく私。
「リーリア?」
キョトンとして首を傾げる私のご主人様、天使!!期待してアルスリーア様を見上げる。
「あー、お嬢。リーリアちゃんもお嬢に命じてほしいみたいよ?」
デキる従者のルインさんが、私の気持ちを代弁してくれた。
「うふふっ、もう!リーリアったら!ならば命じてあげますわ!わたくしの縫術師、リーリア!わたくしのため、この事件を見事解決してみせなさい!」
「はい!お嬢様の御心のままに!!」
アルスリーア様からのご命令もいただいたし、頑張っちゃうぞー!!
リーリアは素敵なご主人さまに仕えたい系ヒロインです(笑)