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五本目 方法

◇翔


 気がつくと、そこは白い砂地と白い霧がどこまでも続く空間だった。止まり木旅館の外? いや、雰囲気が少し違う。なぜか、鳥肌が立った。


「ようこそ、私の館へ」


 声にはっとして、振り向いた。そこにいたのは……導きの神。まさか、さっきのは『扉』だったのか?!


「時の狭間の住人が、追い詰められたり、つらいことがあったりした場合も『扉』は開く。ただし、行き先は宿ではなく、ここだけれどね」


 今日の神は、研さん仕様ではない。全身真っ白で、神々しい。神だから、当たり前だけどな。



「もしかして、解決しない限り、止まり木旅館に帰れないとか?」


「ご名答。さぁ、悩みを話してごらん。君は何に行き詰まっているのかな?」



 神の目は、すっとこちらを見据えている。わざわざ問わなくても、全てお見通しなんじゃないだろうか。まぁ、いい。いずれ、この神とは対峙せねばならなかったんだ。少し早まっただけ。


 でも、もし、打ち明けたところで解決しなかったら……。天女達と一緒に、ここ神の館に仕えることになるのだろうか。そんなの絶対に御免だ! けれど、神と話す以外に帰る道はない。

 俺は、腹を決めた。



「俺は、仕入れ係を辞めた。楓は女将になった。俺は、ずっと楓と生きていきたい。でも、命が足りない。」


「楓と同じ、不老長寿を欲しているのかい?」



 あらためて口にすれば、禁断の望みのように響く。確かにその通りなんだけど、なんだかな。俺は、頷いた。


「神と千景さんも、命の長さがかなり違う。それでもいいのか?」


 神は、やれやれと言った風に腰に手を当てて、眉を下げた。



「相変わらず、ぞんざいな態度だね。……まぁ、いい。千景は、それでいいと言ってるよ。初めからお互いに分かっていたことだしね。それに……」


「それに?」


「命は、有限だからこそ、価値がある」



 神は、寂しそうに瞳を揺らした。神に、命はない。永遠に有り続ける存在だ。そんな彼から伝えられる言葉は……ひたすら重い。

 つまり、不老長寿は望むなということだろう。確かに、たくさんの従業員が生きて死んでいくのを見送り続けるのは、つらいと思う。



「じゃぁ、どうしたら……」


「君は、幼い頃から楓が好きだったみたいだね。親としては、いけ好かない男だが、楓を大切にしてくれていることには感謝して、君を導いてやろう。」


「何か、方法はあるのですか?」



 思わず、言葉が丁寧になってしまった。今は、これにすがるしかない。俺は、全身に力を入れて、神の言葉を待った。


「心中したらいい」


 へ? 駄目だ、こいつ。

 


「冗談だって! そんなに殺気立たなくてもいいのに」


「大人しくしてられるかっての!!」


「はいはい。じゃぁ、大変不本意だけど、言うよ?」



 今度こそ、まともな回答が出るのだろうか。俺が天女達のような存在になって、止まり木旅館に入り浸る? それとも、神になってみる? どこかの世界に行って、不老長寿の薬でも探してくる? どれも難しそうだな。いったい、どんな方法があるというのだろう。


「楓と結婚すればいい。子どもができれば、止まり木旅館は子どもに継がせる。君たちは平の従業員になって、普通の寿命をまっとうし、添い遂げる。ね? 解決でしょ?」


 ……あぁ。そうか。楓は永遠に止まり木旅館の女将だと思ってた。でも、考えてみればそうかもしれない。ちゃんと代替わりして、その都度新しい風が入って、旅館がどんどん良くなっていけばいいんだ。


 ん? そんなことより、この神、すっごく大事なこと言わなかったか?


「……認めてくれたんですね?」


 神は、明らかにむすっとしている。


「せめて、こういう時によくやる『あれ』をやってくれ」


 せっかくありがたいお言葉をいただいたんだ。ここは、大人しく従うとしよう。俺は、地面に膝をつくと、丁寧に頭を下げた。


「娘さんを俺にください!!!」


 返事はない。頭を下げてから、随分と時間が経った。神はどうしているのだろう?と思って、顔を上げると……



「痛っ……これも『あれ』に含まれてたのか」


「一発殴られて楓が手に入るなら、安いものだろう?」



 そうかもしれない。千景さんは、俺のことを認めてくれてる。後は、肝心の本人、楓だ。結局、いろいろと間が悪くて、ちゃんと話ができていない。


 意図せず準備した紋付き羽織り袴は、婚礼衣装になるそうだ。楓は、黒引きもいいけど、白無垢も似合いそうだよな。



「だらしない顔してるよ」


「すみません。嬉しくって、つい」



 別に永遠の命なんて要らない。そもそも、寿命があるのが普通なんだ。この寿命が尽きるまで、たまにふざけたり、真剣になったりを繰り返しながら、楽しく共に生活していけたら、それでいい。そして、本物の家族になれたらいいなって。



「楓と、話がまとまったら、巻物で報告しなさい」


「はい」



 俺は、もう一度、深々と神に向かって頭を下げた。楓と一緒にいられる方法を提示してくれただけでなく、結婚することも認めてくれた。導きの神っていう名前は、伊達じゃなかったんだな。


 すると、背後からふわっと風が吹き付けた。そこには、『扉』があった。これは、女将部屋の引き戸だ。


「ありがとうございます。帰ります」


 俺が扉に向かおうとすると……


「ちょっと待って! 楓が好きなお菓子とか持って帰る? お父さんと会えなくて寂しがるといけないから、私の等身大パネル作ってみたんだけど、これも持ち帰ってくれないかな? え? 抱き枕の方が良かった? ごめんね、次までに用意しておく。あ、君も何かお土産欲しいよね? これなんかどうかな? 楓写真集! 私が作ったんだけど、なかなかの出来だよ! それからね……」


 ……せっかく見直したところなのに、自分で株を下げるなよ。ほんと、大暴落。


「あの、いいです。俺は、毎日、生の楓と会えるんで」


 気持ち悪い親バカは放っておこう。俺は、痛む頬を手で押さえながら、扉の中に飛び込んだ。



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