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六本目 私、応援してるから!

◇巴


 これはまずい。非常にまずい。

 

 楓さんは、いいのだ。女将に昇格したし、翔くんもいる。でも、私は? 皇帝に愛されていた思い出を胸に、そして楓さんよりは○が大きく、いつまでも若々しいことを武器にここまでやってきた。でも! あの子の前では、私なんてただの……。いや、自分では言うまい。年なんて、年なんて……!!


 さてさて、とりあえず客室に座布団を運ばなくては。楓さんから20枚持って行くように言われたのだけれど、何に使うのだろうか?


「失礼いたします」


 声をかけると、すぐに返事があった。私は、座布団20枚重ねを一度に部屋へ運び入れる。日頃から鍛えている私には、簡単な作業だ。

 部屋の入り口では、椿くんが楓さんの接客を見学している。今日も間抜けな顔だ。まぁ、男の子でもそんな細腕じゃ、私の業は盗めないでしょうね。ふふふん♪


 本日のお客様も、普通のお客様だ。職業は『ニート』というものらしく、案外忙しく引きこもっているらしい。お越しになった時の特徴としては、お荷物が多いということぐらいだろうか。


「うん、この子達を飾るには、ちょうどいいね」

 

 お荷物とは……フィギュアである。彼は手先が器用なのか、既製品のほかに、自作の物も多い。部屋は完全に工房化していて、とてもじゃないけれど、働いている場合じゃないそうだ。


「ここ、飾るケースとか棚とかは無いけど、部屋だけは広いもんな。よし、君はここ。あなたはここ。それから……」


 一体、一体に頬ずりしながら、お座敷に並べた座布団の上に置いていくお客様。うん、気持ち悪い。ちなみに、フィギュアは全て女の子だ。彼の好みがよく伝わってくる。

 楓さんは、自分の胸元に両手をあてて、口をパクパクさせているけれど、敢えて触れないでおこう。何を考えているのか丸わかりだから。


「お客様の宝物もお客様のようなものです。座布団に座っていただけて良かったです」


 楓さん、何だかそれらしいこと言ってるけど、顔が引きつってるわよ。

 ふと見ると、椿くんは目をキラキラ輝かせている。あら、あなたもこういうのが好みなのね。


「それ……素敵です! 欲しいぐらいです!」


 欲しい?! お客様に何言ってるのよ! だいたい、彼が大切なコレクションを手放すわけないじゃない! そんな怒らせるようなこと言わないで!……と思っていたのは、間違いだった。


「ほんと?! 見てみて!」


 お客様に駆け寄る椿くん。急にぱっと明るくなるお客様。



「この足の曲線が最高ですね!」


「ここからの角度で見ると、もっといいよ!」


「ほんとだ! あ、この子の表情も好みです~」



 あっという間に打ち解けている。何なの? お世辞でも、「わかります!」みたいなこと言わなかった私は、悪い人みたいじゃない。何だか、懐の深さで研修生に負けている気がして嫌だ。

 

 そして、椿くんはこう、のたまった。


「こんなすごいの作れるなんて、家に籠もってる場合じゃないですよ! もっと皆に見てもらうべき! もったいない!!」


 その時だ。なんと、扉が現れたのだ!


「お帰りの扉が開きました。」


 いつも通り、楓さんはお客様を扉へご案内した。同時に椿くんに目配せして、フィギュアをお客様の鞄に入れるよう、指示。

 扉は、すぐに閉まってしまうからだ。お忘れ物がないようにしていただかなくては。


 しかしだ。ここで椿くんは、とんでもないことをやってくれた。


「これは、お代がわりに、いただいておきますね!」


 は? 何言ってるの?! 早くお客様にフィギュアを返しなさい!


 しかし、間に合わなかった。椿くんは、お客様がお持ち込みになったコレクション全てを腕に抱えてニヤニヤしたまま。お客様は、焦った顔のまま、扉の向こうへと消えていった。

 

 ちょっと、これ、さすがにヤバいじゃ……。あの人、またここへ取り戻しに帰ってくるかもよ?! と言うか、本当にそのフィギュア、欲しかったのね……。


「つーばーきーさーん……」


 案の定、楓さんは鬼の形相。へへへ、ざまーみろ。


 ちょっとすっきりしたところで、私は休憩させてもらうことにした。鎖鎌の刃でも磨きながら、録りためたドラマでも見ようっと!


 楓さんは椿くんにかかりきりなので、私は声をかけずに廊下へ出た。


「お帰りになったんですか?」


 私の部屋の手前で、風呂敷包みを抱えた礼くんに出会った。



「うん。研修生のおかげでね」


「巴さん、何トゲトゲしてるんですか? 顔に皺できますよ」



 その通り。私、トゲトゲイライラしているの。今日は、なんだか気疲れしたから、手は出さないでおくわ。でも、口は出させてもらうわね。


「……ありがとう。ねぇ、椿さんとはどうなの? 仲良くしてるの?」


 椿さんの名前を出した途端、礼くんの雰囲気はふわふわしたものに変化した。もし私にオーラというものが見えるならば、きっと彼は今、ピンク色のものに包まれていることだろう。



「実は……風呂掃除大変そうだから、手伝ってあげようか?って聞いたら、手伝ってほしいって言われて……」


「優しいのね。じゃぁ、掃除が終わったら、綺麗になったお風呂に2人で入っちゃえ!」



 顔を赤くして、おたおたしている礼くん。がたいの割りに、中身はまだまだ少年なのよね。だからいつまでも楓さんの弟分なのよ。


「で、でも、椿さんは……」


 さて、そろそろ爆破スイッチをポチッとな。

 


「礼くん、止まり木旅館って本当に出会いがないからね。ここ!っていう時にがんばっておかないと。気になってるんでしょ? 私、応援してるから! だから、多少強引でも、いける時にいっとかないと!!」


「そう……ですよね! ちょっと歳が離れてるけど、そんなの気にしちゃだめですよね! 俺、今夜の清掃の後、がんばってみます!!」



 いやぁ、明日の朝が楽しみだ。止まり木旅館って、なんだかんだで本当に面白い。だから私は、ここが好き。


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