歓迎会(二回目)
ラウル「そういえば俺のアップルパイいつ返してくれるん?」
ミカエル「お前まだアレ根に持ってたのか」
歓迎会(二度目)。
協商連合本部、浮遊大陸アルカディアの多目的ホール。普段は集会だとか会議だとか結婚式に使われているホールには、以前の歓迎会の時のようにテーブルがいくつも並び、古今東西あらゆる国や地域の料理が所狭しと並んでいて、何ともまあ贅沢なビュッフェ形式のパーティーがまた開催されている。
ミストルテインとの戦いの戦勝記念と、それからギルド『くまさんハウス』に加入した俺、クラルテ、ロザリー、ユリウスの4人の歓迎会(仕切り直し)との事だ。まあ前回はミストルテインとかいうクッソ空気の読めない上にプライドの高さと声&態度のデカさだけが取り柄の老害レギオンに邪魔されて不完全燃焼で終わってしまったので、こうしてちゃんと仕切り直ししてくれるのはありがたい。
まあ、ミストルテインとかいう以下略レギオンをぶちのめした戦勝記念という分かりやすいイベントが終わった直後なので、レギオンの士気高揚のためにもこういった催しは必要なのだろう。
大皿にみんなの分の料理を取ってテーブルに戻る。既に俺のところにも飲み物の入ったグラスが用意されていたので、それをそっと持ち上げてみんなと乾杯した。チンッ、とグラスを鳴らして飲み物を呷り、喉の奥へとしゅわっと弾けていく炭酸の刺激を楽しむ。
そういやこっちの世界に来てから初めて飲んだわ、炭酸飲料。グレープ風味の芳醇な甘みと、少し控えめな炭酸の刺激のおかげでごくごく飲める。
なんだこれ……『タンプルソーダ』? なんだ変わった名前だな。
というかこのボトルのラベルに描かれてる二頭身のキャラクター、どこかで見覚えが……。
「さあご主人様、クラリスとあちらでダンスを」
「いやあの俺まだご飯食べてr―――ぴえー!?」
ひょいー、と肩に担がれてダンスホールの方へと連行されていくレギオン代表ミカエル・パヴリチェンコ氏。転生者の序列1位という輝かしい地位に君臨する文字通りの最強なのだが、なんだろう。あの……大変申し上げにくいんだが、なんか扱い酷くない?
デカメイドことクラリス氏、ご主人様の扱いに敬意がないというか、ご主人様というよりもオモチャか何かと勘違いしてるんじゃないだろうか。
中華料理のコーナーから持ってきた羊肉の串焼きを頬張りながら遠い目で彼女を見つめる。
「あの人、きっと尊厳軽いわよ」
もっちもっちとクソデカピザを頬張りながらロザリーが言う。それはいいんだけど物を噛みながら喋るな。ああもう、頬っぺたにトマトついてる……。
テーブルに備え付けられているナプキンで彼女の口の周りを優しく拭いてあげると、ロザリーは嬉しそうに尻尾をぱたぱたと振った。やっぱりその、何というかヤンデレだけど根っこの方はこの子ゴールデンレトリバーみたいな感じなんだよな。底なしに明るくてやんちゃなところが。
「ラウル、お前もどっちかというとあっち側のキャラだぞ」
「なんでわかるんだよ兄貴」
「……なんかお前も同じ匂いがする」
あっち側のキャラって何だよあっち側のキャラって。あのな、俺はあんなちんちくりんで事あるごとに尊厳を破壊されてるような人とは違うぞ。一緒にされては困る……まあ風呂入る時とか胸元に謎の光の修正が入るんだけども。
んな事あるかい、と思いながら中華料理コーナーから持ってきた水煮牛肉の皿を手に持ってレンゲでアツアツの牛肉をパクリ。手加減ナシの辛みと牛肉の強烈な旨みにノックアウトされそうになる。
「ラウルさん、あーん♪」
「ふぇ? あ、あーん」
クラルテの声がしたのでノリであーんってやってると、口の中に放り込まれる一口サイズの小籠包。ちょっと熱いけどもちもちの皮に中身の肉、そして溢れ出る肉汁のコンビネーションが完璧すぎてぶっ倒れそうになる。
食の楽園ってこんなところにあったのか……。
これ作ったの多分チャンさんだよな、って思いながら料理の並ぶテーブルの方を見てみると、厨房からチャーハンの乗った大皿を運んできたチャンさんが何も言わずに親指を立てていた。
チャンさん、あんた神だよ……!
「あーっ! クラルテばっかりずるい! ねえラウル、ほら私のも! あーん!」
「ふぇ? あーnもごー!?」
ズボッ、と口の中に突っ込まれたのはフライドチキン……うん何で?
しかもカットされていない、鶏のもも肉の塊をそのままで……うん何で?
明らかに人間の口に入るサイズではないそれを、「うふふふ美味しい?」なんてうっとりした笑顔でゴリゴリ押し込んでくるロザリー……うん何で?
「ヒュッ、ヒューッ、ヒューッ……!」
なんとかもごもごと口を動かしてフライドチキンを咀嚼。美味いんだけど、美味いんだけど! もうちょっとこう相手の事を考えて食べさせてくれると嬉しいなってラウル君思うの!
口いっぱいにフライドチキンをそのまま突っ込まれたせいで顔がとんでもない事になっているらしく、タンプルソーダのオレンジ味を呷っていたユリウス兄貴が俺と目を合わせた瞬間にブハッて盛大に吹き出した。
慌てて顔を背けるユリウス兄貴。なんだか見てて面白いので、もごもごしながらユリウス兄貴の目の前にカニ歩きで回り込んで顔を覗き込むと、ユリウス兄貴は再び吹き出し無事リスキルされた。
「ちょwwwおまwww」
「もごー?」
「バカwwwこっちくんなwwwこっち見んなwww」
「もごごんごもごごんごwww」
「てめえwwwwあwとwでwおwぼwえwてwろw」
ユリウスニキの腹筋破壊成功、帰投する。
フライドチキンを何とか呑み込んで骨を皿の上に片付けていると、唐突に声をかけられた。
「やあやあこんばんは!」
「え?」
そこに立っていたのは長身の貴公子、としか表現しようのない人物だった。
どう見ても180㎝以上はある身長にウェーブのかかった黄金のショートヘア。宝石のような碧色の瞳は強い意思を宿したように鋭く、しかし他者に手を差し伸べる慈愛に満ちた優しい雰囲気を放っている。
藍色のテイルコートに派手な赤いマント、そして腰には鞘に収まった大型のレイピアがある。多分式典とかで使う儀礼用のものだろう。真剣じゃない……よね? ここ入る時ボディチェックあったからね、儀礼用だよね?
頭からはブレード状の角が生えていて、マントの内側では藍色の鱗に覆われた竜の尾が見える。それらの身体的特徴からこの人もまた竜人である事が分かる。
頭に小さな赤い王冠を乗せているせいもあるのだろう、その服装はさながら”王子様”だ。凛々しい顔つきもあって、白馬に乗って駆け付ければ乙女のハートはたちまち鷲掴みにされてしまうに違いない。
「君がくまさんハウスに加入したという転生者のラウル君だね、話は聞いているよ!」
「は、はあ」
「おっと、自己紹介がまだだったね。ボクはクロエ。”クロエ・クロワール”。栄えある協商連合所属の冒険者にして、ミカエル様のご子息の剣術指南役を任されている者さ!」
「は、初めまして……クロワールさん?」
「ふっふっふ、クロエで構わないよ」
「いやでも、歳上の人を呼び捨てっていうのはちょっと抵抗が」
「なあに、気にする必要はない。麗しい乙女に名前を呼んでもらえるだけで嬉しいんだよボクは」
「は、はぁ」
こ の 人 俺 を 女 だ と 思 っ て る 。
いやまあ、無理もないなとは思うよ?
顔つきはどっちかというと女っぽいし、同年代の男子と比べると声も高い方だし、トドメに髪を伸ばしているもんだから遠目に見ればちょっとワイルドな風貌で気の強そうな女子に見えなくもない(というかそうとしか見えない)。
まあこれはハニトラとか使えそうだし、女だと勘違いされれば戦闘の面で相手が油断してくれたりとかして有利になると考えたのも理由だし、何より「おっほw俺かわいいんだけどwww」と悪ノリした結果なので許してほしい。
ラウル君は悪ノリの擬人化なのである(大嘘)。
などと思っていると、クロエが手を伸ばしてきて俺の顎をクイっと持ち上げた。
え、これアレじゃない? イケメンの王子様にされると胸がキュンとする奴じゃない?
でもね、あいにく俺オスなの。ぶら下がってるの、アレが。女性よりも外見的な付属パーツが1つ多いの。
俺が男だと知ったらこの王子様どんなリアクションするのかな、と思ったところでちょっと冷静になって考える。
この人の名前”クロエ”って言ったよな?
前世の世界じゃフランスの方の随分と古い名前だったような、と思ったところで更に気付いた。
―――この人よく見たら胸がある。
そう、胸があるのだ。それもいわゆる貧乳ではない。一回りか二回り小さい下着か、サラシで無理矢理巻き付けて抑え込んでいるような感じのいわゆる”抑圧された膨らみ”が確かにそこにある。
お、王子様系のイケメス……だと……?
こういう人マジでいるんだ、と思いながら戦慄した。ミカエル氏、あんたのところにこんな隠し球があったなんて(?)。
「ラウル・エルマータ……もしよろしければ、このボクと一緒にダンスでも?」
「だ、ダンス?」
「今宵の宴の主役は君たちだ。それがこんな、会場の隅でひっそりと静まり返っているなんてもったいない。それに君のその美貌、このボクという太陽の下で存分に輝かせてみせよう。約束するよ」
ちゅ、と手の甲にキスをするクロエ氏。
王子様系のいわゆるイケメスではあるのだが、なんかこう……その、なんだ。くまさんハウスの女性陣がことごとく……というか協商連合の女性陣が軒並み残念な要素を持っている例に倣うように、この人もなかなか強烈なものを持っていた。
今の言動から漂うナルシスト感。確かにかなりの美貌の持ち主で”男装の麗人”という表現がしっくりくる御仁なのだが、自分を太陽に例えたり自信満々だったりと随分とこう、拗らせてるなぁというのが正直な印象か。
「で、でも俺ダンスなんて」
「大丈夫、ボクの動きに合わせて」
パチン、と指を鳴らすクロエ。するとそれが合図だったかのように、ホールのステージに控えていた戦闘人形の楽団が演奏を始めた。
オイオイオイマジかよ、とクロエに広間の中央へと連行されつつクラルテたちに視線で助けを求めると、「わぁお姫様みたい」とか「シンデレラを思い出します~♪」なんてうっとりしてるロザリー&クラルテ。
なんだろう、アイツらの独占欲のスイッチがONになる基準が分からねえ。
「スロー、スロー、クイッククイックスロー」
「」
「 素 敵 な ス テ ッ プ だ よ 、 ご 友 人 ! 」
「ヤメロォ!!」
王子様系イケメスことクロエ氏と一緒にダンスするマルチカム上下の上に空軍ジャケット羽織った狼獣人男の娘。何だこの絵面。
え、正装して来いって? うるせえドレスコードなかったしヴォイテクからも「好きな服装で来ればいいと思うよん☆」って言われたから俺は悪くねえ! ダンス相手がガチな服装してるだけだって!
ちなみにそんなヴォイテク氏は何をやっているのかというと……その、廊下を挟んだ向こう側のダンスホールで上半身裸になり、ウォッカの酒瓶を手にインド映画みたいなキレッキレのダンスを披露したり、酔いつぶれたソコロフの周りをミカエル氏と2人でコサックダンスしながら煽り散らかしたり(待ってミカエルさん何やってんの)と、なんかこう廊下の向こう側のノリが完全に 男 子 校 の そ れ 。
うわぁいいな楽しそう、と思いながらも「スロー、スロー、クイッククイックスロー」を至近距離で喰らいつつダンスを続けるラウル君。
結局、クロエ氏から解放してもらえたのは30分後の事だった。
※「シャルロット」や「クロエ」という名前は、今のフランスでは随分と古風な名前と見做されているそうです。




