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航空隊、出撃


 観測歴38000年 12月29日


 協商連合議会、スパーニャに対する大規模人道支援法案が可決。人道支援船団と護衛艦隊の編成を開始



















「―――さて、気持ちは分かるけどブリーフィングに入るよ」


 すっかり戦闘モードに切り替わったフレイヤが宣言する後ろで、彼女の巫女のイヴが立体映像投影装置の端末を操作し始めた。協商連合の天使の翼と天秤のエンブレムに加えて、トランス・コンチネンタル・エアライナーのエンブレムが展開するアニメーションが再生されてから立体映像が立ち上がり始める。


「突然だけど、協商連合(ウチ)の潜入調査員を回収する事になった」


「潜入調査員?」


 てっきり「押し寄せる人民戦線をひたすら空爆し迎撃する」という、身も心も躍り出すような任務かと思いきや予想外の方向から飛んできた変化球に、思わず目をぱちくりさせてしまった。


 いや、任務の重要性は分かるがそんな事やってる場合か? いつバレーシャが人民戦線(アカ)共に蹂躙されるか分からないんだから、それは他の部隊に任せて……と、そこまで考えが回ったところで軽く息を吐いた。


 落ち着け、落ち着くんだ。


 まだバレーシャが戦火に晒されると確定したわけじゃない。第一、連中はまだここまで進軍してはいないのだ。


 故郷が、孤児院のみんなが心配になるあまり随分と視野が狭くなってしまっている。これは拙い。


 落ち着けよ、落ち着けと自分に言い聞かせながら前を見た。その際にフレイヤと目が合い「気分は晴れたかな?」と言わんばかりの視線を投げかけられたので、小さくうなずいてみせる。


「……さて、人民戦線による破壊工作(サボタージュ)があったみたいでね。おかげで鉄路が封鎖。バンセレナに潜入中だった調査員がバレーシャに逃れる途上で足止めを喰らっている状態だよ。イヴ」


「はい」


 イヴの指先がコントロール用の端末を弾き、映像が切り替わる。


 バレーシャの地図から潜入調査員の顔とプロフィール画像が表示された。さすがに機密に触れるところは18禁同人誌の如く黒塗りで修正されているが。


 なんだかどこかで見覚えのある顔だな、と微かに思い至ったところでデジャヴを感じた。なんだかフレイヤと所縁のあった顔だと連想ゲーム的に思考を展開していった果てに浮上したのは、いつぞやのサン・パライソ島襲撃作戦の際に潜入してた調査員と男性の情報提供者の顔だった。


 あー、あの時のアイツらか。ここでも引き続き潜入調査をしているという事は、どうやら2人ともスパイとしての適性があったという事なのだろう。プロフィールのところにも協商連合(ウチ)のスパイ教育訓練課程を修了、正式に潜入員として雇われている旨の記載がある。


「さて、この2人だけど人民戦線の軍事計画の一部を盗み取っててね。今後のためにも必ず回収しなければならない。場所はバレーシャから北東に100㎞、あたしの艦隊からはヘリ部隊を出す」


 視線を巡らせると、やはり長身爆乳褐色銀髪獣人姉ちゃんとかいう性癖の過剰積載、人間という概念にあらゆる性癖を麻辣湯の具材の如く詰め込んだような御仁ことセロが、腕を組み背中を壁に預けながらブリーフィングに参加しているのが見えた。


 まあ、何となく察しはついた。フレイヤたちが地上戦力を投入するという事は彼女が指揮を執るという事に他ならないのだから。


「ただ、ヘリ部隊は航続距離と時間の関係から最短距離で向かう必要があるんだけど……進路上には既に人民戦線の部隊が展開、進路上に複数の偵察と航空隊が展開しているのが事前偵察で確認されている。というわけでヴォイテク伍(・)長(・)殿(・)。くまさんハウス(そちら)のスーパーエースを借りたいんだけれど」


「いいよ」


「軽いな」


「だってお前、行くだろ?」


「まあね」


 やるさ、やってやるさ。


 腹を括り、拳を打ち付けた。


「というわけでラウル、君の任務はあたしらの航空隊と共同でヘリ部隊を護衛、敵を撃破していくよ」


「了解した」


 その潜入調査員が持っている「情報」があれば、救われる命もあるのだろう。


 これは希望と命を、明日に繋げるための一戦。


 ならば戦わない理由など、どこにもない。


















《El Frente Popular, que inició un levantamiento armado en Banselena, está expandiendo gradualmente su territorio, y las fuerzas gubernamentales están retirando tropas para contraatacar y sofocar la rebelión(バンセレナで武装蜂起した人民戦線は徐々に支配地域を増やしており、政府軍も鎮圧のために兵力を抽出、迎撃にあたっています)》


《¡Súbditos del Reino, jamás escuchen las palabras de estos rebeldes bárbaros! Tras la consumación de su "revolución", lo único que quedará será tierra arrasada. Pretenden destruir la historia que construyeron nuestros antepasados(王国臣民の皆さん、決して野蛮な反乱軍の言葉に耳を貸さないでください。彼らの目指す”革命”の後に残るのは焼け野原だけです。我らの祖先が積み上げた歴史を、彼らは焼き尽くそうとしているのです)》


《¡Pueblo, obreros y campesinos de la gloriosa España, gente de todas las clases, uníos! ¡Derrocad al opresivo gobierno real y liberad a todos los pueblos! ¡La verdadera igualdad se forjará con nuestras hoces y martillos!(人民よ、栄えあるスパーニャの労働者よ、農民よ、全ての階級の人民たちよ、団結せよ!圧政を敷く王国政府を打倒し、全ての人民を解放するのだ!真の平等は我らの鎌と金槌で作られる!)》


 くっだらねえ、というのが正直な感想だった。


 こんな耳障りの良い言葉と薄っぺらいイデオロギーで殺される人間の身にもなれ、とつくづく思う。


 せっかく戦争が終わり、平和な時代が到来したというのにこれだ。イデオロギーが違う、なんてくだらない理由でまた戦争である。


 よく「変革には犠牲が伴う」だの「必要な痛みだった」なんてキレイゴトを言う奴がいるが、そういう連中は一列に並べて、1人ずつ顔面の原型が留めなくなるまで殴ってやりたい。


 その手の連中は結局のところ、物事を俯瞰でしか見ていない。現場に立たされる個人、犠牲になる個人、全てを失う個人―――そういった”主観”で物事を見る事が出来ない、指導者としての欠陥品なのだ。大義だけを見て、その行進で踏み潰される者たちの事まで考えが至らない、革命家を気取る社会のバグでしかないのだ。


 俺が言いたいのはただ一つ、「余計な事をすんな」である。


 この手の革(・)命(・)ご(・)っ(・)こ(・)を始めるのはいつも財産と時間を持て余した無能だと相場が決まっている。何かしていないと気が済まないのだろう。それが、そいつの存在自体が社会にとっての毒、人間社会における癌細胞でしかない事に気付かない。


 これに利権が絡み、風見鶏みたいにスポンサーの意に沿うように行動し始める奴なんかもう最悪である。背後にいるスポンサー諸共ぜひ今すぐ首を吊って欲しい。きっと死んでも誰も悲しまないだろうから。


 ソーキルの格納庫が開いた。


 クレーンアームで吊るされたF-15EX”イーグルⅡ”が、海水の付着した艦底部から外へと降下していく。バレーシャ上空を飛ぶソーキルからゴンドラのように吊るされた愛機から、視線を地上へと走らせた。


 孤児院らしき建物は見える。が、子供たちやマチルダ先生の姿までは見えなかった。残念ながらラウル君は遊牧民ではないので、俺の視力ではこれが限界だ。豆粒みたいな、あるいは唐辛子の粉末みたいにポツンと佇む孤児院の赤い屋根が辛うじて視認できる程度である。


 フルールだったら見えるんじゃないかな、と思いながらスロットルレバーを段々と倒し、機体に推力を与えていく。ソーキルの加速する勢いも手伝って、すぐに発艦できるだけの推力まで達した。


《切り離し(リリース)》


 母艦からの切り離し―――微かな落下感と、後に続く浮遊感。それからやっと重力という束縛を忘れ、空の自由を謳歌する事を許される。


 スマホを機体に繋いで、プレイリストの中からお気に入りの曲をジャカジャカかけ始めた。


 孤児院の子供たちは気付いてくれるかな、と思いつつ、加速しながらバレルロールを3回ほど。さすがにこの距離じゃ見えないだろうけど……でも、飛行機雲は見えるかもしれない。


《―――あら、神殺しの狼(フェンリル)はいったいいつからアクロバット飛行に目覚めたのかな?》


 一足先に出撃していたフレイヤ率いる航空隊に合流するなり、先頭を飛ぶ彼女からそんな通信が入った。


「いやいや、孤児院の奴らが喜ぶかと思ってね」


《なら、この戦いが終わったらアクロバット飛行でも披露してあげなさいな。兵器の平和利用、あたし嫌いじゃないよ?》


「ああ、そうする」


 みんな喜んでくれるかな、と思いつつ、ふとフレイヤの機体を見た。


 前はイギリス海軍仕様のF-4ファントムに乗っていた筈だが、今の彼女の機体は違う。


 アメリカ製の傑作艦載機として名高い多用途戦闘機《マルチロールファイター》、航空機の歴史に燦然と輝くF/A-18”ホーネット”であった。


 すらりとした機首のフォルムは、さながら一流の鍛冶職人が鍛えた細身の剣を思わせる。しかしその主翼の下にあるパイロンには獰猛極まるミサイルや爆弾といった武装が、ペイロード一杯に搭載されているのが見て取れた。


「おー、F/A-18だ」


《”CF-18”だよ、カナダ空軍のホーネット》


「え、カナダ? なして?」


《あれ、言ってなかったかな? あたしの能力は【英連邦の兵器を召喚できる能力】。セロたちの武器も航空機もイギリスのやつだったでしょ?》


「あ……そっか」


 言われてみれば確かにそうだ。


 思い返してみれば、セロたち保安隊は全員イギリスの銃火器を持っていたし、戦闘機はイギリス海軍仕様のF-4ファントムだった。フレイヤの趣味か何かなのかな~……程度に思っていたのだが、なるほどそういう制約があったのか。


 そういや俺の能力には制約ないな……。


 同じ系統の能力の転生者でも、そういう制約がある奴もいるという事か。ヴォイテクもなのだろうか?


《―――こちらトランス・コンチネンタル・エアライナー、空母トライアンフ空母航空団所属、第4早期警戒飛行隊”ナーサリーライムズ”第10小隊”マザーグース”隊。本作戦はパイロット諸君の”眼”の役割を担わせていただく》


 うお、なんだあれ。


 F-15EXの頭上に影が出来たと思いきや、なんかすげえのが飛んできた。


 よくあるビジネスジェットの上に円盤型のレドームを乗せたような見た目の、随分と奇抜な航空機。


《”HS.125 AEW”。ホーカーシドレー社のビジネスジェットを早期警戒機に改造した機体だよ》


「えぇー……そんなのあったんだ」


《まあ史実では計画だけだったけど》


「マニアックなの持ってきたな!?」


《英国は良いよ、深掘りするとどんどん濃い出汁が出てくるし》


「言い方が」


 とはいえ、AWACSまで付けてくれるとは至れり尽くせりではないか。


 これならば負ける気がしない―――沸き立つ自信に、しかし落ち着けよと自分に言い聞かせながらも操縦桿をしっかりと握りなおす。


 F-15EXもペイロードでは負けてはいない。今回の作戦は対地攻撃能力が求められると判断した事から、とにかくペイロードの許す限りレーザー誘導爆弾を搭載してきた。サイドワインダーは4発、あとは20㎜機関砲を搭載したガンポッドを2基ぶら下げている。


 ―――故郷に牙を剥く奴は、何であろうと俺が殺す。


 落ち着け。


 でも大丈夫だ。


 それなら落ち着きながら殺せばいい。


 うん大丈夫。俺は冷静だ。












 ころす。









 

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― 新着の感想 ―
大規模作戦の前には情報収集をしていた要員の回収が必須ですよね、彼等の持っている情報もノウハウも変えの効かないものですし。痛みを伴う…ね、概ねにおいてそういう事を口にする人間は安全圏にいるもんです。勘弁…
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