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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第408章影の援軍と、砕ける前哨――決戦前夜の圧縮戦

――正面からでは、落ちない。

マジャールは城を見上げながら、無言で結論を下した。

(このまま突っ込ませれば……農奴兵が先に尽きる)

それは“敗北”ではない。

だが――意味がない。

彼はすぐに隣の伝令を呼び寄せ、低く命じた。

「前線に伝えろ。攻勢を落とせ。損耗を抑えろ。少し当てては引け」

視線は城壁から逸らさない。

「この程度の攻城に価値はない。まだ転木も礌石も出ていない段階で、この損害だ。……遊びにもならん」

伝令は深く頷き、駆けた。

その日の攻城は、尻すぼみに終わる。

――試し斬り。

そう割り切るしかなかった。

(……別の手がいる)

マジャールが思考を巡らせていると――

遠方。

砂塵の向こうに“隊列”。

(商隊……?この状況で?)

あり得ない。

だが、連中は迷いなく軍営へ向かってくる。

そして――面会要求。

(……罠か、それとも)

彼は管事を呼び入れた。

「マジャール陛下。アモン王国の商隊にございます」

男は落ち着いていた。

怯えも、焦りもない。

(……ただの商人じゃないな)

「面白い品がございます。きっとお役に立てるかと」

その言葉に、マジャールの眉がわずかに動く。

苛立ちは消えない。

「戦場だぞ、ここは」

声は冷たい。

「説明しろ。でなければ――ここで斬る」

男は微笑んだ。

確信の笑み。

「誤解なさらず。我らは商隊。ただし……品が少々“特殊”でして」

わずかに間を置く。

「ご興味なければ結構。ただ一つ――」

視線が鋭くなる。

「陛下の攻城に、役立ちます」

――食いついた。

(ほう……)

マジャールの中で、何かが切り替わる。

「言え。本当なら――対価は払う」

男は周囲を見た。

“聞かせたくない”顔。

マジャールは手を振る。

将を下がらせ、護衛だけ残す。

静寂。

男は声を落とした。

「技術、でございます」

――投石機。

「フィルードの賊が始めたものですが……我が国の工匠が改良し、八割ほど再現しました」

言葉は静か。

だが内容は――重い。

「これがあれば……ドヴァ城は落ちます」

理解した。

(……アモン、か)

これは“商隊”ではない。

停戦の裏で動く――影の使者。

(直接は手を出せない。だから……技術だけ渡す)

合理的だ。

そして――ありがたい。

マジャールの表情が変わる。

一瞬で。

「見せろ」

声に熱が宿る。

「本物なら――相応の報酬を約束する」

男は頷いた。

「工匠も同行しております。見習いを付けていただければ、即座に生産可能です」

(……来たな)

マジャールは内心で笑った。

これで“崩せる”。

会話は短く終わる。

すぐに――製作開始。

――その様子を、城壁の上から見ている者がいた。

(……やはり、来たか)

チェリルは遠方の動きを見逃さない。

運び込まれる原木。

組まれていく台座。

見間違えるはずがない。

(投石機)

彼は小さく吐き捨てた。

「……アモンめ」

予想通り。

裏で手を回す。

(面倒なことをしてくる)

だが――

(想定内だ)

戦いは、むしろここから厳しくなる。

――一方。

三路の大軍は、静かに北へと進んでいた。

当然、ボアマンも黙っていない。

(止めに来る)

フィルードは最初からそう見ていた。

山谷に阻撃部隊。

簡易木寨。

狭い地形を利用した遅滞戦術。

(……悪くない)

環境に適応し、進化している。

だが――

(遅い)

ブルースは前方の寨を見て、笑った。

「へえ……寨か」

感心半分、嘲り半分。

「追い詰められてる証拠だな」

そして、即断。

「後方に伝えろ。投石機、前へ」

命令は短い。

やがて――

十数台。

本格型。

以前の粗製ではない。

構造、配分、射程。

すべてが“戦争用”。

配置。

百数十メートル。

「――撃て」

空気が裂ける。

轟音。

巨石が飛ぶ。

直撃。

木が折れる。

構造が崩れる。

(……脆い)

数発で主構造が破断。

十数分。

――ほぼ壊滅。

だが、ブルースは止めない。

「続けろ」

淡々と。

さらに石弾。

さらに破壊。

寨内は混乱。

人が飛び、潰れ、逃げる。

やがて――崩壊。

守備兵は耐えきれず、潰走。

同様の光景が、三路すべてで繰り返される。

突破。

容易。

(火薬は……使うまでもない)

フィルードは冷静に判断していた。

貴重資源を、粗末な防壁に浪費する理由はない。

――だが。

進軍が山脈中央に達した時。

“違う”ものが現れる。

前方。

再び寨。

だが――規模が違う。

内部に密集する兵。

山体両側にも展開。

(……五万以上)

視認だけで、それだけいる。

ブルースは眉をひそめた。

(……ここが、本命か)

敵も理解している。

平原に出れば終わる。

だから――

(ここで止める)

勝てば、生きる。

負ければ、終わる。

三路すべてで、同時に“壁”が立ち上がる。

各路、五万から六万。

しかも――

(半数が精鋭か)

ボアマン戦士。

主力。

手加減なし。

(……いいだろう)

フィルードは静かに目を細めた。

恐れている証拠だ。

だから、全力を出してきた。

(ならば――砕く)

盤面は整った。

次は――本当の戦いだ。

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