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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第407章盤石の布陣と、鉄壁に砕ける十万

――攻める。

だが、それは“賭け”ではない。

フィルードは地図の上に指を置き、静かに三本の線をなぞった。

(……三路。包囲ではなく、圧縮だ)

最後の一路は、自らが率いる。

三方向からボアマン領へ侵入し、徐々に“押し潰す”。

今回の方針は明確だった。

――堅実。

奇襲も、博打も、不要。

(最短ではなく、最も確実な道を選ぶ)

山谷と山脈沿いに進軍。

進むごとに木寨を構築し、数十里ごとに補給兼監視拠点を設置。

牛隊を絶え間なく動かし、補給線を“流れ”として維持する。

(止まらない補給線……それ自体が勝利条件だ)

最終的に三軍は山脈北側で合流し、防御陣を展開。

そこから平原への“最後の一撃”に移る。


なぜ、ここまで慎重なのか。

理由は単純だ。

(……今は、負けられない)

これまでは違った。

兵を賭け、奇襲を重ね、局地で勝利をもぎ取ってきた。

だが今は――国家だ。

数万の損失は、単なる戦術的敗北では終わらない。

威信が崩れる。

(“無敗”が、俺の最大の兵器だ)

挙兵以来、ほぼ負けなし。

それが兵の士気を支え、反乱を抑え込んでいる。

もし神話が崩れれば――

(……内側から燃える)

だからこそ。

勝つだけでは足りない。

“負けない”戦いが必要だった。


動員は、意図的に遅らせた。

焦らない。

急がない。

(兵は……数ではなく“状態”だ)

人員だけでは意味がない。

物資、補給、練度――すべてを揃えて初めて“軍”になる。

集結に十数日。

三路の軍は並行して進む。

一つは牛頭城から西進。

一つはレーガン近郊から山道へ。

一つは大花堡から北上。

一時、辺境は“人で埋まった”。

根薯、黒麦、豆。

南方からの物資が絶え間なく流れ込み、獣人民夫がそれを運ぶ。

各地に簡易営盤を構築し、補給拠点として機能させた。

(……これで、兵は“動ける”)


だが、まだ足りない。

集まった兵はすべて一箇所に統合。

再編成――そして集団訓練。

(守備軍ではない。“戦場の部隊”に作り替える)

今の彼らは、もはや守備兵ではない。

臨時募兵に近い。

だからこそ、再構築が必要だった。

編制は“地縁”を基礎とする。

同郷で固める。

(人は……知らない誰かのためには死ねない)

だが、故郷の名誉を背負えば話は別だ。

小隊単位で“地元の看板”を背負わせる。

それだけで戦闘力は跳ね上がる。

(単純だが……最も効く)


当然、欠点もある。

――軍閥化。

(だから、分割する)

規模は町単位で固定。

それ以上は強制的に分割・再配置。

指揮系統も交差させる。

大城が小城を管理し、小城が別の町を統括。

大規模会戦時のみ、附属連隊として再結集。

(固定させない。流動させる)

それが統制の鍵だ。


この編制に慣れるだけで数日。

さらに整訓を重ね――半月。

ようやく北部山谷へ進軍開始。


進軍中も、フィルードの目は緩まない。

(奇襲は……来る前提で動く)

犬頭族の偵察隊。

大角羊に騎乗し、山谷両側を監視。

小柄な体と、岩壁を登る機動力。

(……ドワーフより速い。使える)

十数里ごとに配置。

徹底した警戒。

理由は明白。

(俺がやってきたからだ)

奇襲で成り上がった者は、奇襲を最も恐れる。

小が大を喰う戦法の“怖さ”を、誰より知っている。


さらに――

メイヴとエレナも各軍に配置。

道案内と偵察。

(情報は……命だ)


フィルードの軍でも、実務指揮はユリアン。

彼は長年の戦友。

技量はすでに完成域。

(任せられる)

自分は全体を“見る”。

それでいい。


――その頃。

草原伯国。

こちらも動いていた。

(……速いな)

フィルードは報告を受け、内心で評価した。

後顧の憂いなし。

家畜による自給。

補給の制約が小さい。

わずか二十日で――十万。

ドヴァ城下に集結。

だが。

(質は……半分以下)

正規軍四万。

残りは農奴兵。

戦力は推して知るべし。


マジャールは即座に動いた。

威圧は失敗。

ならば力押し。

攻城開始。


ドヴァ城。

守備五万。

うち一万は直属軍団。

王国最精鋭。

さらに――

(火砲か)

各千人隊に配備済み。

城壁には青銅砲二十門。

完全な迎撃態勢。


号令一下。

農奴兵が梯子を担ぎ、突撃。


だが――

城内は静かだった。


(……まだだ)

チェリルは動かない。

青銅砲を並べながら、発砲禁止を厳命。

直属軍団すら前に出さない。

(使うのは……“今じゃない”)

新兵を前面へ。

老兵は補助。


守るのはポール配下の守備軍。

そして――

(育てる)

実戦で。


農奴兵が城壁に取り付く。

予想された落石も、火も――来ない。

(来ない?)

不安が一瞬、希望に変わる。

だが――

届いた瞬間。

槍。


一斉。


突き落とす。


悲鳴。

肉が裂け、骨が砕ける音。

城壁は一瞬で地獄と化した。


下では、さらに恐怖が連鎖する。

落ちる。

叩きつけられる。

死ぬ。

(……無理だ)

農奴兵は崩れた。

逃げる。


だが後方には――正規兵。

長刀。

逃亡者を斬る。

数十人を殺して、ようやく隊列を維持。


マジャールはそれを見て、眉をひそめた。

(……ここまで、とはな)

弱いのは分かっていた。

だが――これは想定以下。

しかも城は堅固。

損耗が早すぎる。

(このままでは……)

農奴兵が尽きる。

その時点で――

(攻城は、終わる)

彼は歯を噛み締めた。

(……まだだ。まだ終わらん)

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