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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第406章盤上の勝利と、迫り来る五万の影

……勝った。

だが――これは“理想的な勝利”じゃない。

こちらは三線部隊が主力。練度も装備も足りない連中が、ただ意地だけで立っていた戦場だ。

当然、代償は重い。

守備連合軍二万。

そのうち四千が減員、戦死は二千。

数字だけ見れば「大勝」だ。

だが俺には分かる。――これは削られた勝利だ。

(……この程度で済んだ、と考えるべきか)

マイクは報告書を握りしめたまま、静かに息を吐いた。

中でも痛いのは騎兵だ。

一千――その多くが重傷。

騎兵は数じゃない。“質”だ。

一人育てるのにどれだけの時間と資源がかかるか、理解している者なら、この数字の意味が分かる。

(……だが、あの判断は間違っていない)

後半の下馬戦。

あれがなければ、歩兵戦線は崩壊していた。

結果論で否定するのは簡単だ。

だが俺は、盤面を見て最適手を打っただけだ。

(犠牲は……必要な範囲に収めた)

それが、指揮官としての最低限の責務だ。

戦場の片付けが終わると、マイクは即座に撤退命令を出した。

これ以上の滞留は無意味だ。勝ち逃げ――それが最も効率がいい。


その戦報は、すぐにフィルードのもとへ届いた。

彼は一読し、静かに机へ置いた。

(……上出来だが、特筆するほどではない)

殲滅奔襲。

規格外の要素はない、教科書通りの勝利。

だが――それでいい。

これは両国開戦後、初の「明確な勝ち」だ。

敵損害三万。

数字だけ見れば限定的。

だがボアマンはすでに疲弊している。

その三万は、おそらく精鋭の三分の一。

(あと二回……同規模で削れば、崩れる)

戦争は勢いではない。

削り合いの積み重ねだ。

フィルードはボアマンを“処理中の問題”として扱っていた。

彼の視線は、すでに別の盤面に向いている。

(問題は……キプチャクだ)

騎兵大国。

平原で当たれば、こちらが不利。

だからこそ――

(戦場は選ばせない)

この方面では徹底して守勢。

村民をダービー城周辺へ集約し、外部資源を断つ。

残存地域もすべて要塞化。

新設ではない、既存拠点の強化。

男爵城、子爵城――それらを核に防衛線を再構築。

さらに人口を集中させ、集団耕作へ移行。

(騎兵は……“奪えない土地”に弱い)

略奪できなければ補給は続かない。

すべて後方依存になる。

そして城寨を一つずつ攻略しなければならない。

放置すれば後方を突かれる。

(つまり――苛立つ)

これは“勝つ戦法”ではない。

“相手を消耗させる戦法”だ。

そしてフィルードには時間がある。

(ボアマンを潰した後、ゆっくり料理すればいい)


――一方その頃。

ドヴァ城。

五万。

すべて騎兵。

城を取り囲むその数は、もはや“圧”だった。

(……本気、か)

ポールは城壁の上からそれを見下ろし、内心で舌打ちした。

キプチャクの本気度は明白。

しかも今回は――

マジャール自ら、前線に立っている。

城門前へ進み出たその男は、堂々と叫んだ。

「ポール小僧!出てこい!」

ポールはすぐに姿を現した。

逃げる理由はない。むしろ、ここで引けば終わる。

マジャールは彼を見るなり、大笑した。

「どうだ?この鉄騎。精鋭だろう?」

典型的な圧迫。

だが――

(……古い)

ポールは内心で切り捨てた。

「賢ければ降伏しろ。身の安全は保証する。伯国を宣言すれば、以前と同じく栄華を与えてやる」

その言葉に、ポールは顔を歪めた。

そして――笑った。

「……まだそれかよ、老いぼれ」

わざとだ。

相手の神経を逆撫でする。

「飽きないのか?その手口」

さらに一歩踏み込む。

「それより――なんで攻めてこねぇ?」

城壁の上から見下ろしながら、あえて挑発を重ねた。

「俺の兵は待ちくたびれてるぞ?」

そして、核心を突く。

「それとも何か?五万の騎兵抱えて、毎日燃料垂れ流してるだけか?」

マジャールの表情が歪む。

(当たり、だな)

ポールは確信した。

騎兵は機動力の代わりに、維持コストが高い。

長期戦には向かない。

「威勢よく来て、威張って帰るだけ。ガキの遊びか?」

完全に煽り切る。

マジャールは震えた。

怒り――ではない。

“図星”だからだ。


彼も分かっている。

騎兵で攻城は非効率。

歩兵を呼べば全面戦争。

本来の狙いは、包囲による圧力と食糧の収奪。

だが今回は――

(全部、引き上げられている)

村は空。

奪えるものがない。

補給は全て後方依存。

(……クソが)

だが、もう引けない。

ここで退けば“弱さ”になる。

さらに――

(フィルード……あの男は危険だ)

アモン以上。

そう断言できる。

根を張られる前に叩くべき相手。

(ならば――やるしかない)

マジャールは決断した。

歩兵を呼ぶ。

本格攻城。


彼は歯を食いしばり、叫んだ。

「ポール!そこで吠えるな!」

「お前はただの愚か者だ!」

そして、宣言する。

「この五万は先鋒に過ぎん!ここを封鎖し、後続の歩兵で城を落とす!」

情報を“あえて”開示する。

脅しではない。

心理戦だ。

「フィルードは助けられん。最後の機会だ――降伏するか?」


一瞬。

ポールの心臓が跳ねた。

(……マジかよ)

本気の布陣。

だが――

(ここで揺れたら終わりだ)

彼は笑った。

より凶悪に。

「――盛大に歓迎してやるよ」


それで十分だった。

マジャールは踵を返す。

これ以上の会話は無意味。


その夜。

ポールは即座に動いた。

急使を放ち、さらに伝書鳩。

二重――いや三重の保険。

(絶対に、届かせる)


その頃、フィルードはすでに次の一手を組んでいた。

ボアマン攻略。

守備軍団十万を抽出。

直属五万、騎兵一万を追加。

――総力戦。

峡谷方面には最小限の守備のみ。

(リスクは承知の上だ)

戦力は有限。

どこかを削らなければ、どこも取れない。


今回の反攻は三路。

一つはマイク。

騎兵一万に加え、直属一万、守備三万。

機動と圧力のバランス型。


もう一つはブルース。

直属二万、守備三万――計五万。

(……そして残りが、本命だ)

フィルードは静かに地図を見下ろした。

すべては盤上。

駒は揃っている。

(あとは――詰めるだけだ)

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