第404章鉄と規律が喰い潰す――青銅砲と重装突撃の真価
フィルードがこの兵器を整えたのは、北方戦線という環境を前提にした結果だ。
ドワーフとの関係は最悪。
つまり敵は、潤沢な鉄装備を持つ。
……ならば、正面から叩き潰せる手段が必要になる。
火槍が普及するまでの間。
その空白を埋めるために用意されたのが――
青銅砲と、対甲鈍器。
理屈は単純だ。
硬いなら、割る。
貫けないなら、内側から壊す。
ミノタウロスたちが鉄戟を振り下ろした。
鈍い音。
そして、骨の砕ける乾いた音。
ボアマンの重装歩兵は、従来通りの戦い方を崩していない。
盾と剣。
防ぎ、斬る。
……時代遅れだ。
鈍器に対して、その理論は通用しない。
鉄戟が叩きつけられる。
盾ごと。
鎧ごと。
一撃。
それだけで、兵が崩れ落ちる。
倒れたボアマンたちの多くは、即死していない。
だが――
骨は折れ、筋は断裂し、立ち上がることはできない。
戦場からの脱落。
それで十分だ。
ガロの位置からでも、その音ははっきりと届いていた。
……いい音だ。
両翼は、もはや戦闘ではなかった。
虐殺。
押し寄せるボアマン刀盾兵。
だが、接触した瞬間に叩き伏せられる。
後方の槍兵など、前線に触れる前に崩れていく。
……質の差が出ている。
ミノタウロスたちは、すでに別物だ。
かつてのような単独突撃はしない。
血に任せて暴れもしない。
陣形。
間合い。
連携。
すべてが染み付いている。
彼らは二本の刃だ。
巨大な刃が、敵陣を正確に切り裂いていく。
中路のボアマンたちが、それを見た。
両翼の崩壊。
そして――理解。
将領の目が見開かれる。
……やっと気づいたか。
フィルードの軍は、もはや奇策頼みではない。
正面から、潰せる。
ミノタウロスの進撃は止まらない。
盾を構え、押し進み。
鉄戟を振るい、刈り取る。
まるで死神の群れだ。
ガロの頬が紅潮する。
血が沸く。
だが思考は冷静なまま。
「伝令!」
即座に命じる。
「両翼のミノタウロスに通達。前列の刀盾兵を完全掃討。速度最優先だ」
間を置かず、次。
「撃破後、即座にマイク軍団長へ合流する。時間をかければ逃げられる。すべて無駄になる」
伝令が走る。
……時間が鍵だ。
ここで止まる理由はない。
命令を受けたミノタウロスたちが動く。
中央へ。
圧縮。
挟撃。
ジャッカルマン長槍兵も、それを感じ取る。
……連携は成立している。
突撃速度が上がる。
前方のボアマン刀盾兵は、完全に挟まれた。
左右からの圧力。
逃げ場なし。
戦場は、一瞬で混乱へと落ちる。
――ここまで、十分も経っていない。
重装。
それは防御と引き換えに、体力を削る。
だが。
こちらは違う。
フィルードの軍規。
それは、戦い方そのものを変えている。
突撃しているように見えて――
常に制御されている。
呼吸。
交代。
一人の戦闘時間は三分未満。
前に出て、叩き、下がる。
後ろが入る。
循環。
……止まらない。
対する敵に、その概念はない。
結果は単純だ。
十分後。
限界を迎えるのは、敵だ。
鉄と血のぶつかり合いは、長くは続かない。
崩れる。
前線で、まず心が折れた。
一人。
逃げる。
それで終わりだ。
連鎖。
恐怖が伝染する。
潰し合い。
踏みつけ。
秩序が消える。
……来たな。
ガロはその瞬間を逃さない。
だが、敵もまだ終わっていない。
ボアマンが動く。
督戦。
逃げる味方を斬る。
……悪手だ。
恐怖を加速させるだけだ。
案の定、崩壊は止まらない。
むしろ、速くなる。
ガロは即断した。
「全ミノタウロスへ通達。体力温存は不要。全力で押し潰せ」
さらに。
「ジャッカルマン、中路――突撃開始!」
咆哮。
士気が跳ね上がる。
決着の瞬間だ。
敵陣は、もはや形を保てない。
ガロは追撃を命じる。
「ジャッカルマン、鉄甲を脱げ。軽装で追え。重装とは戦うな、逃げる敵だけを狩れ」
合理。
無駄な消耗はしない。
命令は即座に実行される。
鎧を捨てる。
軽くなる。
そして武器を持ち替える。
木叉。
銅槌。
……対重装拘束装備。
三人一組。
一人が捕らえる。
U字の木叉で押さえ込む。
動きを封じる。
そこに――
銅槌。
小型。
だが十分。
青銅製。
しなる柄。
叩く。
鎧の上から、内部を壊す。
……効率がいい。
敵はすでに戦意を失っている。
抵抗は散発的。
追撃は一方的になる。
逃げる。
捕まる。
潰される。
それが繰り返される。
一時間後。
戦場は静まった。
ほぼ一万。
四千、死傷。
うち四千近くが即死。
残りも、戦えない。
六千は捕虜。
逃げたのは、わずか。
指揮官すら捕縛。
……完全勝利。
損害は千未満。
即死は数百。
残りは負傷。
――許容範囲だ。
ガロは千を残す。
捕虜管理。
残り八千を率い、即座に移動。
……まだ終わっていない。
視線の先。
マイクの戦場。
二日間の消耗戦。
敵も、味方も、疲弊している。
だが。
外周には、すでに二万以上の連合軍。
時間的に、ガロは到着しているはず。
――来ていない。
ならば。
何かが起きた。
マイクは決断する。
待たない。
「伝令」
短く命じる。
「もう十分削った。山脈までは半日。待つ意味はない」
状況を整理する。
数は勝っている。
装備は劣る。
だが――
勝てる。
「全守備連合軍に通達。総攻撃開始」
さらに。
「手段は問わない。正面で食い止めろ。俺が騎兵で裂く」
最後に。
「勝てば――全員に褒賞だ」




