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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第383章 英雄たちの余生――負傷老兵に訪れる静かな幸福

その光景を見て、レーガンは思わず微笑んだ。

(……ずいぶん早いな)

このジャッカルマンたち。

人間の習慣に染まるのが思った以上に早い。

贈り物の作法まで覚えているとは。

差し出された野果を断るのも失礼だ。

レーガンはそれを受け取り、大きく笑顔を返した。

そしてポケットへ入れる。

(……まあ、そのまま食べるのはやめておこう)

誰が知る。

このジャッカルマンが舐めていないとも限らない。

帰ったらきちんと洗ってから食べることにしよう。

そう考えていると――

遠くから豪快な笑い声が響いた。

「はははは!」

その声を聞いた瞬間、レーガンは分かった。

クルミの花領主。

案の定、巨体のジャッカルマンが三歩を二歩で駆け寄ってくる。

「レーガン守備官!」

満面の笑みで叫んだ。

「今日はどうして俺のところに来てくれたんだ?

さあ中へ入れ!」

肩を叩きながら続ける。

「うちの部落の根薯も大豊作だぞ!

お前が来てくれなかったら、

こんな栽培なんて一生知らなかった」

豪快に笑う。

「これで領地はもう飢えない!」

レーガンは慌てて手を振った。

「いえいえ、クルミの花領主。

そんなに気にしないでください」

軽く肩をすくめる。

「これは私の職務です」

そう言いながら周囲を指差した。

「それより……」

「あなたは本当に立派な領主です」

見張りに立つ戦士たちを見て言う。

「彼らを見れば分かります。

食糧待遇が良いからこそ、

あれだけ精気がある」

クルミの花は鼻を鳴らした。

「当然だ」

腕を組んで言う。

「若い連中が腹いっぱい食ってこそ、

力が出る」

牙を見せて笑う。

「いざという時、俺と一緒に戦ってくれるのもそのおかげだ」

そして肩をすくめた。

「まあ……そんな単純な道理も分からん連中がいるんだがな」

レーガンは静かに頷いた。

(なるほど)

(やはりこの男は頭が回る)

そして穏やかに言う。

「クルミの花領主の考えは正しいと思います」

「王国はできたばかりです。

これから功を立てる機会はいくらでもある」

少し声を落とす。

「あなたのように部下の信頼を得ていれば、

戦機が来た時に素早く動ける」

つまり――

功績を立てやすい。

「私から見ても」

レーガンは笑った。

「あなたの出世はまだ終わりではない」

「将来、もう一段上がる可能性も十分あります」

その言葉を聞いた瞬間。

クルミの花の顔が輝いた。

(……やはりそこだな)

レーガンは内心で小さく笑う。

この男が一番欲しいのは、

評価なのだ。

二人はそのまま天幕へ入った。

クルミの花はすぐ部下に命じる。

「羊を一頭屠れ!」

生活は昔よりずっと良くなった。

今はもうケチケチする必要はない。

やがて――

脂ののった丸焼き羊が運ばれてきた。

レーガンはそれを見て、口元がわずかに引きつった。

(……相変わらずだな)

羊はただ焼いただけ。

血がまだジュージュー音を立てている。

下処理もほぼ無し。

(正直……食欲が湧かない)

だが顔には出さない。

しばらく雑談を続けた後、

レーガンは本題へ入った。

「クルミの花領主」

「実は今日、お願いがあって来ました」

クルミの花は羊脚をむしゃむしゃ食っていた。

その言葉を聞き、眉を少し上げる。

(ほう)

(また儲け話か)

レーガンが頼み事をする時。

毎回かなりの利益が出る。

羊脚を机に置き、口元の血を拭いた。

「守備官」

ニヤリと笑う。

「遠慮はいらない」

「俺たちはもう仲間だろう?」

胸を叩く。

「何が欲しい?

できることなら全部協力する」

レーガンは笑顔で頷いた。

「では遠慮なく」

「お願いは二つあります」

指を一本立てる。

「まず一つ」

「最近、領地周辺にゴブリンが大量発生しています」

顔をしかめた。

「この緑皮の連中が、

あちこちで木を食い荒らしている」

「榆の樹皮採取隊の報告でも、

かなり徘徊しているそうです」

そしてゆっくり言う。

「可能なら……」

「共同で出兵して掃討したい」

その瞬間。

クルミの花は大きく手を振った。

「それだけか!」

豪快に笑う。

「もっと大事かと思ったぞ!」

机を叩いた。

「お前が言わなくても、

数日中に討伐するつもりだった」

牙をむき出しにする。

「北の草原に大量に集まっていてな」

「草皮をほとんど食い尽くしてる」

怒りの声になる。

「草を食われたら――

俺の羊は何を食う?」

拳を握る。

「絶対に痛い目を見せてやる」

そして笑った。

「大掃討はいつだ?」

「お前が声をかければ、

下の村に伝える」

「大軍で囲んで――

壊滅させてやる」

レーガンは満足げに頷いた。

(やはり話が早い)

本当は自分だけでも討伐できる。

だが時間がかかる。

その間に環境被害が広がる。

(緑の疫病は)

(最速で潰すのが正解)

少し間を置き、レーガンは二つ目を切り出した。

「もう一つお願いがあります」

「王国ができて以来」

「多くの戦士が命を懸けて戦ってきました」

静かに言う。

「彼らは大きな功績を立てましたが……

その代償も大きい」

「負傷老兵がかなりこちらへ配属されています」

そして指を立てた。

「この地域には十名います」

「陛下は彼らを非常に重視しており、

最低爵位と土地を与えています」

しかし問題がある。

「彼らは軍隊生活に慣れすぎている」

「急に暇になると……落ち着かない」

そこで王国は一つの政策を出した。

結婚の許可。

「ですが守備軍団の部落民は、

ほとんどが既婚者です」

「独身がいない」

レーガンはクルミの花を見た。

「そこでお願いです」

「あなたの部落から――」

「雌性を少し選ばせてほしい」

少し間を置く。

「多くは要りません」

「二十人で十分です」

「一人は正式な伴侶」

「もう一人は伴侶ですが奴隷身分」

その瞬間。

クルミの花の目が鋭くなった。

(人口……だと?)

彼は今まさに人口不足に悩んでいる。

外から人を引っ張ろうと考えているところだ。

そこへ――

二十人持っていく?

しばらく沈黙した。

そしてゆっくり言った。

「守備官」

「分かっているだろう」

「反逆者騒動の後」

「俺の青壮年はかなり減った」

目を細める。

「二十人持っていかれたら、

こちらも損失が大きい」

首を振った。

「他のことなら引き受ける」

「だが……これは無理だ」

レーガンは内心で少し驚いた。

(即答で断るとは)

(少し甘く見ていたか)

もしかすると――

獣人たちも気づき始めたのかもしれない。

人口こそ最大の生産力だと。

だがレーガンはすぐに考え直した。

(まだだ)

(こちらは本気の条件を出していない)

少し考え、再び口を開く。

「クルミの花領主」

「事情は理解しています」

「ですが老兵の伴侶探しは急務です」

そして言った。

「二十人が無理なら……交渉しましょう」

「十人でも構いません」

少し身を乗り出す。

「高値で買います」

「一人あたり――」

わざと間を置いた。

「根薯干し百ポンド」

そしてすぐ修正する。

「……いや」

「二百ポンドではどうでしょう」

だが。

クルミの花はまったく動じなかった。

ゆっくりと――

首を横に振った。

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