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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第369章断崖血戦――鋼角と盾壁の死闘

ガロはぎこちない共通語で言った。

「……俺は左の山脊へ行く。督戦する。ここは任せた」

短い言葉。だが覚悟は十分だ。

ブルースは静かに頷いた。

(左は任せられる。あいつは退かない男だ)

大角羊の平地での速度は並だ。だが斜面となれば話は別。

あの蹄は岩を噛み、信じられない健脚を発揮する。今の山岳戦において、最適解の騎兵だ。

(敵将、悪くない手を打ってきたな)

直属軍団の戦士たちが両側の山脊へ登り始めた、その直後。

五、六千の大角羊騎兵が突進してきた。

密集陣形は取らない。

波状。

散開。

上に並ぶ大型弩と投石機を理解している証だ。

(密集すれば終わると読んでいるか。ならば削り合いだな)

登ったばかりの直属軍団戦士は、休む暇もなく衝突した。

大角羊の体躯は大きい。

質量、慣性、衝撃。

歩兵隊列へ真正面から叩きつけられる。

一瞬、よろめく。

だが崩れない。

ミノタウロスたちが盾を構え、両手剣を振り下ろす。

一撃。

一騎、落ちる。

後方の投槍隊も体勢を整え、的確に投げ始める。

山頂が怒号で震えた。

すぐに完全な乱戦。

登攀直後で陣形は未完成。

機動力では大角羊騎兵が上。

ドワーフ騎手が長槍を振るい、直属軍団戦士を突き倒す。

こちらも応じる。

槍で突き落とす。

数で見れば、こちらの損害がやや多い。

だが――

(相手は精鋭騎兵。価値はあちらの方が高い)

交換比は悪くない。

ブルースは山下から戦況を見つめていた。

(……まずいな)

弓弩隊の援護が途切れた瞬間。

敵弓弩隊が猛射を開始。

七、八十メートル先から木寨へ集中射撃。

矢が雨のように降る。

こちらは頭を出せない。

その隙を突き、犬頭族が梯子を掛け始めた。

登る。

だが、上に顔を出した瞬間――槍が突き刺さる。

正直、犬頭族は脅威ではない。

戦意が薄く、爆発力もない。

ただ――数が多い。

(面倒な雑兵だ。だが主役ではない)

その時。

遠方のドワーフ将軍が機を読む。

一、二万のドワーフ戦士が突撃開始。

犬頭族は道を開ける。

ブルースの背筋に冷たいものが走る。

(本命が来た)

本格戦闘。

外周を遊撃していたマイクも悟る。

(ここが山場だ)

即座に騎兵を率い、側面攻撃。

第一目標――大角羊騎兵。

山頂の部隊は届かない。

だが麓に溜まる数千なら、叩ける。

万馬奔騰。

敵陣数十メートルまで迫る。

号令。

一斉射撃。

大角羊騎兵の鎧は鉄板ではなく、鉄片を嵌めた軽鎧。

重量軽減の代償に、防御力は限定的。

しかも距離を詰めた射撃。

効果は絶大。

一斉射で大量の騎手が落馬。

山攻め部隊が混乱。

マイクはそのまま旋回し、包囲気味に削る。

(弓がある限り、主導権はこちらだ)

正面では二万のドワーフ戦士が接近。

犬頭族とは別格。

木寨を登り、直属軍団と激突。

凄惨。

特に城下の弓弩が抑え続けるため、防御側は自由に動けない。

ドワーフ中軍大帳。

将軍は報告を処理する。

騎兵が出撃し、大角羊騎兵が削られていると聞き、怒りに歯を軋ませる。

だが。

ドワーフ戦士が城壁に到達し、白兵戦に入った報告で、わずかに安堵。

(突破できる……まだ勝てる)

命令を下す。

「大角羊騎兵に伝えよ!何としても持ちこたえろ!山上弓弩を黙らせよ!

正面部隊にも伝えよ!最速で突破せよ!

突破し山中へ入れば、敗残兵は騎兵が狩り尽くす!

この劫掠隊は殲滅だ!」

伝令が走る。

戦場で叫び声が響く。

「此戦こそ勝敗の鍵だ!失敗は許されん!

敗れれば奴らは本土を蹂躙する!

王のために突撃せよ!」

怒号。

士気が爆発する。

ブルースはそれを感じ取った。

(……押されるな)

即座に対抗。

「兄弟たちに伝えろ!

侵略者を防げ!

我ら多種族連合王国は平等の国だ!

これは建国戦争だ!

功績は種族を問わず、俺が全て記録し、陛下に上奏する!」

声が峡谷に反響する。

士気が戻る。

殺し合いはさらに激化。

拳と刃が肉に届く距離。

血。

絶叫。

ブルースは、重傷のジャッカルマンがドワーフを抱えて城壁から飛び降りるのを見た。

道連れ。

ドワーフもまた、胸を貫かれながら敵を掴み落ちる。

(……ここが分水嶺だ)

マイクも理解していた。

ここで負ければ終わる。

やがて騎兵の矢が尽きる。

迷いはない。

「全騎兵、馬槍に持ち替えろ!

決死の突撃だ!

何が何でも騎兵を撃破し、弓弩隊を解放しろ!

これが勝利の鍵だ!」

弓を背負い、馬槍を抜く。

大きく回り、加速。

真正面からの突撃。

(俺たちが突破口を開く)

鋼と鋼が、激突する。

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