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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第360章 空から奪い、地で縛る――非常規襲撃の一ヶ月

捕虜たちへの食糧配給は、一日あたり半ポンド。

粥にして、ようやく命を繋ぐ程度だ。

――生かすが、満たしはしない。

フィルードは最初からそう決めていた。

彼らは捕虜だ。兵士でも、客人でもない。

当然、待遇には明確な差をつける。

最も扱いが良いのは、農奴出身で、親も妻も子もいない者たちだ。

背負うものがない者は、取り込むのが早い。忠誠の再構築も容易だ。

一方で、敵兵のうち家族持ちは配給を半減させる。

だが例外もある。

実家が近くにある者、モニーク城やダービー城周辺に家族がいる者は、むしろ待遇を上げる。

――家族が近くにいる者ほど、支配体系に組み込みやすい。

逃げ場はない。

情で縛り、利で縛る。

そして最も待遇が悪いのは、かつて高慢に振る舞っていた正規戦兵たちだ。

誇り高き職業兵は、今や最下層。

屈辱は、矯正の第一歩だ。

一通りの処理を終えると、フィルードは北へと軍を進めた。

ダービー城には二万の守備軍団を残し、城を固めさせる。

今、ドワーフたちは牛頭城近くで進軍を止め、城の建設に集中している。

その技術は確かに侮れない。

内側に粘土を詰め、外側を二重のレンガで覆う構造。

城壁は日ごとに伸び、日に日に堅牢になっていく。

――時間を与えれば、厄介だな。

フィルードは全獣人に二十ポンドの食糧を背負わせ、残りは牛群に運ばせた。

ほぼ十日をかけ、ようやく前線へ到達。

現地の十数万と合流し、総兵力は二十万を超えた。

もっとも、その大半は守備軍団。

直属の精鋭は五、六万。

その中にも獣人が多く、人間は少数だ。

――俺はずっと「借力打力」だ。

他者の力を借り、核心は自分で握る。

それでいい。

だが二十万が一気に集まれば、当然混乱も増す。

訓練期間は短く、食糧不足で基礎訓練しか積ませていない。

小規模ならまだ制御できる。

しかしこの数だ。

陣営は乱雑になり、統括だけで頭が痛む。

――烏合の衆、か。

ドワーフ側の斥候もそれを見抜いた。

ドワーフ王は報告を受け、安堵する。

「見かけ倒しだ」と。

ほぼ十万の職業戦兵がいれば、打ち破れると判断した。

……それでいい。

舐めてくれるなら、それに越したことはない。

問題は食糧だ。

二十万が一日に消費する量は、常識外れだ。

牛群を総動員しても足りない。

考えた末、フィルードは十数万を獣定城へ回した。

モニーク城から鹵獲した五千万ポンドの食糧がある。

一陣営を養うには十分だ。

自身の手元には十数万のみを残す。

ミノタウロスは全て残留。

中心は訓練の行き届いたジャッカルマン兵。

守備兵団は五、六万のみ。

嫡系軍団がその半分を占める布陣に再編。

――目的はただ一つ。消費の削減。

そもそも決戦など考えていない。

本当に攻めてくるなら――逃げる。

それが最適解なら、躊躇はしない。

この再編はすぐにドワーフ王の耳に届いた。

「戦を分かっている奴だ」

そう評されたという。

こうして両軍は一ヶ月近く、にらみ合いを続けた。

南下はない。

主戦場は、運糧隊の奪い合いへと移る。

フィルードが北方に放った劫掠騎兵は、すでに一万二千。

南から騎兵を呼び寄せ、数を補った。

もとは一万四千以上いた騎馬歩兵も、消耗で一万二千を切る。

だが質は別物だ。

騎乗技術は熟達。

騎射は鋭く、新式鞍も完全に使いこなす。

超凡小隊が尖兵として共闘し、運糧隊を次々と狩る。

最初、ドワーフ側は上位超凡者を多く投入していた。

だが数が足りない。

一隊壊滅するごとに、上位超凡者が捕縛される。

見習い級では魔法も未熟。

空から投げ落とされる爆薬缶を止められない。

――制空を取れば、地上は脆い。

上位超凡者が不足すると、運糧隊の運命は決まる。

フィルードは毎日、二人の女性を伴い爆撃へ向かった。

魔鉄砲はほとんど使わない。

爆撃。

その後、騎兵の弓弩一斉射撃。

これを数度繰り返せば、壊滅だ。

だがドワーフも愚かではない。

隊列に大型弩を増設し、防御を強化する。

結果、フィルードは爆撃回数を増やすしかなかった。

火薬の消耗は激しい。

それでも相手も限界に近い。

この一ヶ月で壊滅させた運糧隊は十数から二十隊近く。

捕虜にしたドワーフ戦士は一、二万人。

――これだけ握れば、焦るのは当然だ。

捕虜は全てガロに送られ、北方のガロ城へ。

ドワーフ側が十隊出しても、成功は二、三隊。

ドワーフ王は毎日怒号を飛ばしているという。

「恥知らずな戦法だ」と。

天から爆弾を落とすなど、彼らの常識にはない。

ミノタウロスを増やしても意味がない。

護衛を増やせば、運ぶ食糧が赤字になる。

城の建設速度も明らかに落ちた。

――目的は達した。

そして、ついに。

ドワーフ側が耐えきれず、使者を送ってきた。

赤髪のドワーフが、大角羊に跨り白旗を掲げて陣へ入る。

フィルードは幕舎で対面した。

使者は深々と礼をする。

「尊敬すべき人間の王よ。我が陛下を代表し、平和的解決を求めます」

「このまま消耗戦を続けても、双方に利益はありません。これほどの軍勢があれば、毎日の食糧消費は天文学的です」

フィルードは、興味なさげに頷いた。

「まあまあだな。消耗はそれほどでもない」

「最初は二十万以上いたが、今は五、六万まで減らした」

「どうせお前たちは南下しない。置いておく意味もないからな」

わざと軽く言う。

内心では計算が回っている。

――交渉を持ちかけた時点で、主導権は俺にある。

「本当はもう少し南に誘い出してやろうかと思ったんだが」

「追ってこないからな。こんなに軍を置いて、何のつもりだ?」

視線をまっすぐ向ける。

揺さぶり。

戦は、刃だけでは終わらない。

心理もまた、戦場だ。

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