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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第357章闇に溶ける刃――追い詰められた獲物

いま、チェリル配下の暗夜小隊は二千名にまで膨れ上がっていた。

俺が自ら選抜し、夜襲専用として叩き上げた部隊。ほぼ全員が百戦錬磨の実戦経験者だ。

数だけではない。

質が違う。

俺は彼ら全員に特製の夜行衣を支給した。闇に溶け込むための布地、動きを阻害しない軽量設計。そして一人につき小型弓弩を二挺。

この弓弩の有効殺傷射程は三十〜四十メートルと短い。

だが、重要なのはそこじゃない。

軽い。小さい。取り回しがいい。

闇の中で一瞬だけ姿を晒し、一撃で仕留める。そのためだけに設計した特注品だ。

弩矢は一人六本のみ。

十分だ。

――夜襲で何度も撃つ状況など想定していない。

基本は一射。多くても二射。

その後は刃だ。

全員が片刃の刀を主武器としている。この世界では珍しい武装だ。ほとんどの者は両刃の剣を使う。

だが俺は知っている。

刀の斬撃力は剣を凌駕する。

無駄な力を使わず、切断に特化した構造。両手剣や巨大斧と違い、長時間の戦闘でも消耗が少ない。

さらに短剣一本、小型盾一枚。

装備は極めて豪華。

――夜に暴れるには、これ以上ない構成だ。

フランク領地包囲三日目。

城外では投石車がようやく数十台完成し、双方で激しい応酬が繰り返されていた。

フランクとカルトンは落ち着いている。

俺の指示通り、農奴を交代で前線に立たせ、実戦経験を積ませていた。古参兵は後方で補助。

戦力育成と実戦を同時にこなす。

合理的だ。

カルトンは城壁上で笑った。

「今頃エドモンは発狂寸前だろうな。ダービー城を奪われた上に、この小城すら落とせんとは」

城下を見下ろしながら続ける。

「見ろ、あの兵士たち。梯子を登る力すらない。まともに食えていない顔だ。あと十日持てば、戦わずして崩れるぞ」

フランクも頷く。

「食糧不足は致命的だ。ただし油断は禁物。城壁を一度でも破られ、内部の糧庫を奪われれば逆転もあり得る」

――悪くない判断だ。

俺は二人を完全には信用していない。

だから本当の作戦は伝えていない。ただ「守れ」とだけ命じた。

これは試験でもある。

もし城を放棄し、安易に降伏するようなら――その時はそれまでだ。

だが状況は楽ではない。

五日目。

敵の投石車は数百台に達した。人員が多い分、製作速度も速い。

フランクの城壁は砲撃で崩れかけ、いつ倒壊してもおかしくない。

カルトンとフランクも、もはや余裕の笑みはない。最悪の場合、食糧を焼き払って突囲する計画まで立て始めていた。

――限界は近いな。

だが、その直前でいい。

一方その頃。

チェリル率いる暗夜小隊は、すでに敵大営の近くまで到達していた。

全員が夜行衣をまとい、足音を消し、呼吸すら揃える。

闇の中では、まるで影そのものだ。

大営の外周には大量の拒馬。騎兵対策だ。

意味がない。

俺たちは歩兵だ。

チェリルが静かに手を振る。

鋭い鼠の鳴き声のような合図が夜を裂いた。

次の瞬間、二千の影が一斉に流れ込む。

チェリルはすでに中級見習いの境地に達している。朴刀を振り抜き、居眠りしていた夜番兵の首を断つ。

周囲の古参兵も即座に動き、その十人隊は瞬時に全滅。

一人が水袋で火堆を消す。

闇が広がる。

チェリルが低く命じる。

「十人一組で動け。目的は営寨の破壊。糧庫と投石車を優先。銅鑼が鳴ったら即撤退。戦闘に執着するな」

全員が頷く。

二千の暗夜小隊が四散し、狂気のように斬り込んだ。

敵兵はすでに飢えで足元がふらついている。そこへ突然の夜襲。

一瞬で混乱。

火堆が次々と消され、視界が奪われる。

闇は最大の武器だ。

人間は、見えないものを恐れる。

チェリルは投石機陣地へ突入。まず火を消し、懐から瓦罐を取り出す。

中身は火油。

俺が用意した高級品だ。油脂は貴重だが、ここで使う価値はある。

投石機に火油を撒き、火を放つ。

炎が上がる前に即座に離脱。

火が大きくなりすぎれば位置が露見する。

再び営地へ戻り、糧庫へ。

すでに炎上している。

最後は営帳。

突入、斬撃、即離脱。

目的は殲滅ではない。

恐怖だ。

特に農奴営地。

精神的に脆い層を狙う。

わずか十数分で農奴たちは大パニックに陥った。

悲鳴が連鎖し、逃走が逃走を呼ぶ。

次に正規兵営寨へ斬り込み。

奇襲効果は絶大。

有効な反撃は組織できない。

二十分後。

営地全体が完全に混乱。

農奴の悲鳴、正規兵の怒号、燃え上がる投石機。

――十分だ。

これ以上は乱戦になる。

チェリルは即断。

傍らの伝令に銅鑼を叩かせた。

重い金属音が夜に響く。

さらに十夫長たちも小型の銅鑼を打ち鳴らす。

その音は、敵にとっては悪夢の宣告。

暗夜小隊の兵たちは訓練通り、一斉に外周へと狂奔する。

統制は崩れない。

混乱しているのは敵だけだ。

――削ったな。

俺は遠くで報告を待ちながら、静かに息を吐いた。

飢え、恐怖、混乱。

三つが重なれば、軍は瓦解する。

エドモン。

お前はもう、ドワーフに追い出される未来しか残っていない。

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