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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第282章 喰らい尽くす者たち(ミノタウロス)

最初の目標は、北辺の要塞だった。

ここを拠点とし、山脈沿いに侵入してくるミノタウロスの劫掠隊を迎え撃つ――それが今回の基本方針だ。

フィルード、エレナ、メイヴの三人は、それぞれ大鳥に乗り、周囲の偵察を行っていた。

集結と配置にはおよそ十日を要したが、集まった四万の獣人軍団は、すべてローセイ配下の精鋭である。

その中でも、実戦で主力を担える獣人兵は一万人以上。

数だけではない。

彼らはローセイと共に幾度も血を流し、殺伐とした戦場をくぐり抜けてきた、本物の戦士だった。

(……質は、十分だな)

フィルードは上空からその陣容を見下ろし、静かに評価する。

まだ自軍には及ばないが、それでも“戦力”と呼ぶに足る。

偵察を始めて間もなく、三人は一つの劫掠隊と遭遇した。

規模は約一万人。

だが、その内訳は歪だった。

本物のミノタウロスは三百余り。

残りの大半は、ジャッカルマンの眷属兵で占められている。

彼らは移動しながら、周辺の獣人部落を次々と襲撃していた。

遭遇した部落は、ほぼ例外なく壊滅している。

だが――フィルードは、ある異変に気づいた。

「……死体が、ない」

どの滅ぼされた部落にも、遺体が一つも残っていない。

焼け跡はある。血の痕もある。

だが、肝心の“死体”だけが、きれいに消えている。

大鳥で隊列の上空を半周したとき、ようやく理由が分かった。

彼らは――

豚頭族の死体を、すべて軍糧に加工していた。

切り分け、串に刺し、火で炙る。

調理と呼ぶにはあまりにも原始的で、粗暴な方法だ。

豚頭族は人族ではない。

だが、人型の外見を持つ種族だ。

その光景は、上空から見ていても本能的な嫌悪を覚えるほどで、

エレナは思わず顔を背けた。

(……これが、ミノタウロスか)

フィルードは表情を変えなかった。

だが、内心では冷静に結論を下していた。

――彼らは交渉の相手ではない。

――恐怖で従わせる以外に、選択肢はない。

目標を定めると、三人はガロ堡塁へ戻った。

この要塞は、フィルード自身が名付けた、山脈沿いの要衝だ。

ほどなくして、エレナとメイヴも帰還した。

彼女たちも別方向で、同規模の劫掠隊を確認している。

つまり――

敵の劫掠隊は、少なくとも三隊。

いずれも一万規模だ。

ここはすでに、ボア・マン領の中枢に近い。

この位置までミノタウロスが侵入しているという事実が、

彼らの劣勢の深刻さを物語っていた。

(元を辿れば……俺が原因だな)

フィルードは内心でそう認める。

これまで数年にわたり、ボア・マンの精鋭と砲灰部隊を削り続けてきた。

その積み重ねが、今の惨状を招いている。

もっとも、これらの劫掠隊は主力ではない。

本隊は、まだ辺境でボア・マンと対峙しているはずだ。

だが――

この山脈沿いの侵入は、極めて理にかなっている。

縦に連なる山脈は、

優勢な時は焼き討ちと略奪の通路となり、

劣勢な時は、そのまま天然の防壁になる。

(要塞を先に押さえたのは、正解だったな)

フィルードは判断し、ローセイに全軍集結を命じた。

四万の獣人大軍は急行し、わずか三日でガロ堡塁に到着する。

その時点で、敵の劫掠隊は三つに分かれていることが確認された。

それぞれが、ほぼ一万。

フィルードは即座に作戦を立案する。

「まず一隊を包囲殲滅。

残り二隊は、救援に来たところをまとめて叩く」

ローセイは迷わず同意し、軍を動かした。

戦場では、すぐに距離が六、七十メートルまで縮まる。

弓兵が射撃を開始する。

これが獣人弓の、有効殺傷圏だ。

同時に、ローセイは三万の新兵に両翼から展開させ、

自らは一万の精鋭を率いて正面へ突撃する。

包囲陣形が、完成した。

フィルードは戦場から少し離れた山稜に立ち、戦況を見下ろしていた。

(四対一……いい練兵だ)

もしここで負けるようなら、

ローセイを“指揮官”として育てる必要はない。

獣人軍の一部として、再編すればいいだけだ。

傍らのマイクが、低く感嘆する。

「団長閣下……ローセイの指揮、かなり上達しています。

老兵と新兵を、うまく噛み合わせている」

フィルードは静かに頷いた。

「戦場に出続ければ、嫌でも身につく。

それに、この敵は難しくない。

――所詮、略奪目的の部隊だ」

二度の牽制射の後、距離は十数メートルまで縮まる。

その瞬間、ローセイの陣列から、無数の投槍が放たれた。

後列の敵兵が、まとめて倒れる。

装備の差は明白だった。

ジャッカルマン眷属は皮甲か無甲。

ミノタウロスも鉄甲は着けておらず、多層皮甲のみ。

防御力はあるが、限界がある。

投槍の威力を目の当たりにしたミノタウロスの将は、

思わず目を見開いた。

次の瞬間、二度目の投射。

さらに三度、四度、五度――。

ジャッカルマンの眷属は完全に混乱し、

統制を失った。

ローセイは前進を止め、

前列で防ぎ、後列で投射を続ける命令を出す。

崩れるまで、徹底的に。

十回目の投槍が終わった頃、

ジャッカルマンは心を折り、潰走を始めた。

後方のミノタウロスも形勢不利を悟り、逃走を選ぶ。

その瞬間、ローセイは冷静に命じた。

「――捕らえろ。

殺すな。価値は、生かしてこそだ」

戦いは、ほぼ終わっていた。

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