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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第230章 関隘陥落、そして略奪の論理

エドモンの命令を耳にした瞬間、フィルードはわずかに目を見開いた。

(……これは、相当思い切った判断だな)

味方兵が鉄甲を着ているのは事実だ。しかしそれは胴体が主であり、四肢は無防備に近い。

この距離、この密度での全面覆射――誤射が出ないはずがない。

だが、フィルードはこの戦争の総指揮官ではない。

エドモンの号令が下った以上、ためらいは許されなかった。

次の瞬間、全弓箭手が一斉に弓を張り、矢を放った。

空気を引き裂く破空音が重なり合い、空は瞬く間に矢で埋め尽くされる。

黒い雨となった矢は、城壁上へと容赦なく降り注ぎ、必死に城頭へ殺到する敵兵を薙ぎ倒していった。

鉄甲を着た一部の兵だけが、かろうじて生き残る。

軽装の兵は、ほぼ例外なく射倒された。

しかし――。

(やはり、か)

登攀中の味方兵もまた、その射線に巻き込まれていた。

フィルードは自身の目で、少なくとも数十名の兵が味方の矢を脚に受け、雲梯から力なく落下していくのを確認した。

中には矢を受けたまま梯子にしがみつき、動かなくなる者もいた。

だが多くは、歯を食いしばり、血を流しながらも登り続けた。

やがて、最初の兵が城壁に到達した。

いわゆる「先登死士」――だが、その運命は古来より決まっている。

城頭に身を躍らせた瞬間、数本の長槍が胸を貫き、兵はそのまま突き落とされた。

しかし、登る兵は一人ではなかった。

次々と鉄甲兵が城壁に到達し、ついに城上で敵軍と激突する。

当初は敵の数が多く、局所的な優位を築けなかった。

だが、時間とともに状況は確実に変わっていく。

登攀する兵が増えるほど、こちらの足場は広がる。

射撃を続ける弓兵も次第に減り、腕に覚えのある者だけが慎重に矢を放つようになった。

(誤射すれば、取り返しがつかない)

城壁に登った兵と、登れなかった兵。

その価値の差は、もはや比較にならない。

フィルードはその光景を見つめながら、冷静に考えていた。

(攻城戦は、まだ最適化できる)

前世で見た戦史解説動画が脳裏をよぎる。

可動式の高台――攻城車を用いれば、一瞬で大量の兵を城壁へ投入できる。

次があれば、必ず採用すべきだ。

やがて登攀する鉄甲兵が増え、ついに城壁上で明確な足場が確保された。

その時、ウェインがエドモンのもとへ駆け寄り、深く頭を下げた。

「陛下。私に超凡者小隊を率いて登らせてください。

我々が城頭に突入すれば、一気に優位を築けます。損害も大幅に抑えられるはずです」

エドモンは、ほんの三秒だけ逡巡し、頷いた。

「よい。小叔に任せる。だが無理はするな。

超凡者は王国にとって貴重な財産だ」

ウェインは力強く頷き、即座に超凡者たちを招集した。

騎乗のまま城壁前まで突進し、下馬すると三隊に分かれて一斉に登攀を開始する。

ウェイン侯爵が先頭に立ち、戦士たちが続いた。

フィルードも、その中にいた。

厚い鎧のせいで動きは鈍いが、体力はまだ持つ。

(防御を破られる心配は、ほぼない)

ほどなく、八十名の超凡者が次々と城壁に到達した。

その光景は、まさに――

狼が羊の群れに飛び込んだかのようだった。

超凡武器で普通の兵を斬るのは、瓜を切るがごとし。

ただし彼らは魔法を使わず、あくまで通常攻撃に徹した。

(城内に、どれほどの超凡者が潜んでいるかわからない)

慎重さは失わない。

戦闘は凄惨を極めた。

味方兵は体力が尽きると、逃げる間もなく数人に囲まれ、斬り伏せられていく。

だが超凡者たちは圧倒的だった。

瞬く間に城壁の三分の一を制圧する。

フィルードは死体の山の上に立ち、胸中に複雑な感情を抱いていた。

彼もエレナも、全身が血に染まっている。

奪取した区域は、すぐに味方兵が占拠した。

時間の経過とともに、対面する鉄甲正規兵が次々と倒れていく。

最後の鉄甲兵が地に伏した時、戦況は完全に逆転した。

残る鉄板入り皮甲の二線兵など、もはや敵ではない。

瞬く間に薙ぎ倒された。

夕刻近く、味方軍はついに城壁全域を制圧し、各胸壁を掌握した。

――これで、攻城戦は事実上の勝利だった。

フィルードは、守備側の抵抗がここまで激しいとは予想していなかった。

これは、豊臣家にとっての大坂の陣のようなものだ。

(ここが落ちれば、後がない)

タロン王国にとって、この関隘は最後の底線だった。

守備兵たちは知っている。

背後には妻子や老親がいる。

ここを破られれば、その先は想像するに耐えない。

戦後、大軍は戦場を整理し、四方の城壁を巡って関隘を完全に掌握した。

城内に残った農奴兵たちは、恐怖に震えていた。

夜になったため即時突入はせず、翌朝未明、城内へ降伏勧告が行われた。

――即刻降伏せよ。さもなくば皆殺しにする。

この脅しは、驚くほど効果的だった。

主力が去ったと知った農奴兵のほとんどが、降伏を選んだ。

一、二千名ほどがなお抵抗を続けたが、大軍の電光石火の攻撃によって瞬時に殲滅された。

こうして、この雄偉な関隘は完全に掌握された。

タロン王国は戦略的主導権を完全に喪失し、もはや北進する術を失った。

関隘を落としたエドモンは一夜の休養を取り、五千の兵を残して守備に当て、

残る五万の大軍を率いて、タロン王国領内へ一直線に侵入する。

――劫掠の開始である。

軍は五路に分けられ、各一万。

戦利品は五分五分。王室が半分、貴族が半分。

フィルードは配下の兵と、カールトン子爵、フランク子爵、そしてその麾下の小貴族たちを率いて行動を開始した。

彼の主目的は人口。

次いで糧食だ。

まずは易しいところから――騎士村落を標的とする。

村の農奴の青壮は徹底的に確保し、少年すら見逃さなかった。

もっとも、これは恒久的な連行ではない。

撤退時には状況を見て、各農奴家庭に一定数の青壮を残すつもりだった。

(彼らも、生きなければならない)

青壮をすべて奪えば、残された者は生きていけない。

それでは、連れてきた青壮たちが必ず不満を抱く。

フィルードは、彼らを将来の領民、あるいは兵士として育てるつもりだ。

数年後、帰郷した際に家族が全滅していたなら、誰でも反乱を起こす。

せめて、嫌がらせくらいはするだろう。

なにしろ、実の親なのだから。

青壮を確保する一方で、騎士領の糧食はすべて没収し、農奴たちに分配した。

(……やはり、俺は甘いか)

現代人の感覚が抜けない。

この世界の貴族のように、徹底して冷酷にはなれなかった。

それならば――農奴たちに良い名を残す方が、長期的には得策だ。

去る前には、糧食を隠しておくよう念を押した。

我々が去った後、彼らの国王が清算に来る可能性があるからだ。

(生き延びろ。次に会う時は、味方であれ)

フィルードはそう心の中で呟き、次の行軍へと向かった。

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