第231章 羽を刈る者
そしてフィルードは、彼らにこう命じた。
――「この糧食は、王命によって“強制的に下賜されたもの”だと、国王に伝えよ」。
最後に、在地の貴族一家を老若男女問わずすべて引きずり出し、空になった馬車の後ろへ縄で縛り付けた。
どうせ後で身代金になる。生きていれば価値がある。死ねば、それまでだ。
一つの騎士領を掃討し終えると、次の標的は在地の男爵領だった。
フィルードのやり方は一貫している。
まず大軍で包囲し、降伏を勧告する。
従えば、城内の誰一人として傷つけない。
奪うのは農奴の青壮と財物のみ。貴族の家族は全員連行するが、あくまで「貴族としての体面」は保たせる。
あとは王国が金を積んで身請けに来るのを待てばいい。
だが拒否すれば――話は別だ。
徹底的に痛めつけた上で、騎士どもと同じように馬車の後ろに縛り付ける。
生きるか死ぬかは、天に任せる。
そうしてフィルードは、まるで小麦粉に落ちた鼠のように、わずか七日間で九つの男爵領と、およそ三十の騎士領を“掃討”してみせた。
これが可能だった最大の理由は、ひとえに配下の兵士たちの異常なまでの耐久力だ。
彼らは長時間の遠征行軍に耐え抜いた。
随行していた二人の子爵は、たった一日で音を上げた。
やむなくフィルードは彼らを後方に残し、農奴の編入と整理を任せ、自身は兵を率いて長駆奔襲を続けた。
――さもなければ、こんな短期間で伯爵領一つをここまで荒らし尽くすことなど不可能だ。
他の軍団なら、半月かけても彼の進軍距離の半分も歩けまい。
もちろん、この速度を支えていたのは肉体だけではない。
フィルードが与えた“動機”も大きかった。
「奪った人口が多ければ、帰還後、一人ひとりに女房を与える」
この兵たちは北の貧しい農奴ばかりだ。
一方、南部の女農奴たちは顔色こそ悪いが、総じて清秀。
光棍どもは目を血走らせ、地面から火花を散らす勢いで走った。
隊内の獣人に対しても、人間兵は干し肉を分け与え、「もっと速く走れ」と声をかけた。
懐柔というより、もはや共犯意識に近い。
「下痢をしても後方休息を願い出ず、人生最大の機会を逃すまいとしている者がいます」
そんな報告を受け、フィルードは思わず苦笑した。
やがて小さな城塞はすべて攻め尽くされ、彼の視線は一つの子爵城堡へと向いた。
ここは、あの貧乏小貴族どもとは違う。良いものが山ほどあるはずだ。
タロン王国北方の軍事力は、すでに壊滅している。
この大きな城堡の守備兵も、多く見積もって二、三千だろう。
この時点で、フィルードが掳掠してきた農奴青壮は、すでに一万人に達していた。
最初の不安は消え、彼らは驚くほど従順になっている。
この十数日は、彼らの人生で最も幸福な時間だったと言っていい。
もはや監視しなくても、誰一人逃げようとはしなかった。
食事の時間になると、自ら整然と列を作る。
その光景を見て、フィルードは内心で感嘆した。
――領主がほんの少しでも優しくしていれば、パン数個で心を売られることなどなかっただろうに。
タロン王国の貴族たちが、どれほど狂った搾取をしてきたかは想像に難くない。
フィルードは悟った。
平和な地域ほど、上層は底辺を容赦なく搾り取る。
安定しているからこそ、反乱など恐れない。
一方、北方の貴族は違う。
農奴を酷使しすぎれば、彼らは荒野に逃げ、野人になる。
いざという時、命を賭けて戦わせねばならない存在なのだ。
ここには逃げ場がない。
だからこそ、絞り尽くされる。
子爵領を包囲すると、フィルードは掳虜農奴たちに命じて周囲の樹木を伐採させた。
いつもの方法で高台を築き、雷霆の勢いで城を落とすつもりだ。
投石機は時間がかかりすぎる。
だが高台なら、基礎を掘り、丸太を鉄釘で打ち、縄で縛るだけで完成する。
城壁は五、六メートル。
事前に決めていた戦術通りだった。
前衛が盾を掲げて前進し、敵火力を引きつける。
続いて鉄甲を着た弓箭手が射撃。
圧倒的な弓火力の前に、敵は頭を上げることすらできない。
特にフィルードとエレナの連携は完璧だった。
まさに人形砲台。高台は瞬く間に完成した。
この戦術に、味方はすでに完全に熟練している。
半日もかからず、子爵城は陥落した。
駐屯していた子爵は骨のある男で、最後まで降伏しなかった。
領内にいた一名の上位超凡者も、味方の上位超凡者たちに包囲され、合力で討ち取られた。
子爵はエレナの矢で四肢を射抜かれ、生け捕りにされた。
城内には大量の物資があった。
糧食は山のように積まれ、フィルードは夜陰に紛れて城外へ運び出し、秘蔵した。
金貨も超凡物品も、当然見逃さない。
その後も同じ方法で、残る二つの子爵城を攻略。
いずれも降伏せず、いずれも陥落した。
こうして豊かな伯爵領は、ほぼ制圧された。
残るは伯爵城一つ。
守備兵は数千、農奴兵を含めれば一、二万に達する可能性がある。
フィルードは撤収を考えたが、すでに伯爵を刺激していた。
敵は大量の農奴兵を率いて進軍してきたが、その速度は亀の歩みだった。
三つ目の子爵領が落ちた頃、ようやく姿を現す。
フィルードはその軍勢を見て、軽蔑の笑みを浮かべた。
一万八千。だが正規軍は八千にも満たない。
こちらは八千弱。
二千の損耗を経たが、生き残りは全員が精鋭だ。
獣人輔兵ですら、もはや侮れない存在になっていた。
――だが、戦う必要はなかった。
敵は踵を返し、撤退していった。
PS:この章では、戦闘そのものよりも「戦力を削ぐ」という行為が、いかに戦局を決定づけるかを意識して描いています。
派手さはありませんが、ここまで積み重ねた判断が、後の展開を大きく左右します。
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