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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第227章 戦利と人口――王が与えた刃

エドモンはフィルードの願いを聞き終え、さすがに一瞬、言葉を失った。

人口――しかも糧食付きでの下賜。

それは金銀や魔法装備とは比べ物にならないほど、扱いが難しい褒賞だった。

ここ数年、王国は連年の戦乱に晒されている。

奴隷の価格は高騰し、青壮年の農奴人口は激減。

人は今や、最も貴重な戦略資源だった。

(……上位魔薬か、魔法装備を与えるつもりでいたのだがな)

エドモンは内心でそう思った。

武勲を挙げた若き子爵に、そうした“分かりやすい報酬”を与えるつもりだったのだ。

だが、フィルードが求めたのは人口。

それも「働ける人間」と「食わせる覚悟」をセットにした要求だった。

少なすぎれば軽んじたように見える。

多すぎれば、今度は輸送と維持が重荷になる。

しばしの沈黙の後、エドモンはゆっくりと口を開いた。

「……そなたの苦境は、朕も把握しておる」

重々しい声だった。

「今や王国全体が深刻な人手不足だ。

そなたの軍に獣人が大量に混じっておることも、短期的にはともかく、長い目で見れば好ましくない」

フィルードは黙って拝聴する。

この男が“与える側”の理屈で話し始めた時、必ず裏に計算があることを彼は理解していた。

「こうしよう」

エドモンは決断した。

「王都周辺の王室直轄庄園から、青壮農奴二千名を選抜し、そなたに下賜する。

特に子の多い家庭を優先して選ぶ。生産への影響も最小限で済むだろう」

(二千……!)

フィルードの胸が跳ねた。

想定していた最低ラインを、明確に上回っている。

「連れ帰って訓練し、段階的に獣人兵を置き換えよ。

糧食についてはウェリアムに話を通しておく。可能な限り、そなたに回させよう」

フィルードは即座に深く頭を下げた。

「陛下の厚恩、誠にありがたく存じます!

臣、必ずや王国に忠義を尽くします!」

エドモンは軽く手を振った。

「当然の報いだ。そなたが功績で得たものに過ぎん」

そして、さらに言葉を続ける。

「それに、この戦が終わった後――以前の約束通り、ハロルド領内の農奴数も、ある程度は回復させてやろう。

無論、王国全体が逼迫しておる以上、完全な復旧は無理だがな」

それでも十分すぎる条件だった。

「そこから再び兵を徴募し、鍛えることもできよう。

これで、そなたの領地の人口不足はかなり緩和されるはずだ」

そう言いかけてから、エドモンの目に鋭い光が宿った。

「――それとな」

その一言で、場の空気が変わる。

「これから我々は、タロン王国領内へ本格的に侵攻する。

これは、人口を得るまたとない好機だ」

フィルードの背筋が、ぞくりと震えた。

「見逃すな。

向こうで農奴や奴隷を掳掠しても構わぬ」

はっきりとした許可だった。

「ただし、力に余ることはするな。

自領の糧食収容能力をよく見極めろ。掳掠しすぎて養えなければ、暴動の種になる」

そして、決定打。

「約束しよう。

お前が連れ帰り、養える限り――何人掳掠しようと、すべて認める」

(……これだ)

フィルードは内心で、叫びそうになるのを必死で抑えた。

直接の下賜など比ではない。

これは“将来を切り開く権利”そのものだった。

「この数年、北部の人口――特に青壮年が減りすぎておる」

フィルードは再び深く礼をした。

「陛下の洪恩、感謝に堪えません!」

エドモンは満足げに頷き、視線をウェインへと向けた。

それを合図に、ウェイン侯爵が一歩前に出る。

「陛下。今回お伺いしたもう一つの件でございますが――

今後の戦局について、ご進言がございます。主に、フィルード子爵の案でございます」

エドモンは、もはやこの流れに慣れていた。

“金の参謀”という存在を、すでに受け入れている。

「よい。申してみよ」

フィルードは、先ほどウェインに語った包囲策を、さらに噛み砕いて説明した。

地形、補給、士気、時間――すべてを踏まえた、消耗を最小限に抑える戦法。

ウェインのような軍事愛好家には新鮮な策だったが、

実戦を知るエドモンにとっては、理解可能な延長線上にある発想だった。

それでも、王は満足そうに頷く。

「朕の考えと一致しておる。

ただ、塹壕を掘るという発想はなかった。単に囲むつもりでいたからな」

エドモンは指を組み、即断した。

「障害物……塹壕か。よい。

今すぐ全軍に命じ、山を囲んで塹壕を掘らせよ。上部には簡易の遮蔽物を設置せよ」

勝利を確信した声だった。

「これで敵は完全に封じ込められる。

そのまま全員、生け捕りにしてやる。

この軍を失えば、タロン王国に何が残る?」

命令は即座に実行された。

農奴兵たちは土竜のように塹壕を掘り続け、夜になっても灯火は絶えない。

工匠たちは拒馬を量産し、外周に設置。

弓箭手は配置され、夜襲の芽を摘み取った。

五日間。

徹底的な包囲。

水も糧も尽き、士気は崩壊。

毎日のように、敵兵が山を下りて投降してきた。

六日目。

ついに敵将は白旗を掲げ、武器を投げ捨てた。

こうして三万の大軍は完全に消滅した。

だが、戦争はまだ終わらない。

エドモンは休むことなく、次の標的へと軍を進めさせるのだった。

――そして、フィルードは理解していた。

この戦いで得た最大の戦利品は、土地でも金でもない。

人。

そして、それを得る権利。

それこそが、次の戦争を決定づける刃なのだと。

PS:ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

この章では、戦場の勝敗だけでなく「勝った後に何を得るか」「次の一手をどう作るか」という部分を意識して描いています。

フィルードにとっては、戦果そのものよりも“先の選択肢”が一気に広がった局面でした。

もし「この展開、面白くなってきた」「この先の動きが気になる」と感じていただけましたら、

ブックマークや評価、感想をいただけると大きな励みになります。

皆さんの反応を力にして、ここからさらにテンポよく進めていきます。

引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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