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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第159章 過去を断つ手

フィルードは即座にうなずき、しゃがみ込んでいる数人の騎士たちへと視線を向けた。そのうち二人の顔を見た瞬間、彼の脳裏に遠い記憶がよぎる。

――フェイン、そしてウォーカー。

初陣で、自分は彼らの指揮下にあったのだ。まさかこうして逆の立場で再会するとはな。

ひどく皮肉な巡り合わせだが、これも自分が歩いてきた道の結果だ。

フィルードは表情こそ柔らかくしたが、内心では冷静に二人の価値と今後の使い道を計算していた。

「ウォーカー騎士、お久しぶりです。そしてフェイン騎士……今でも、あなたが馬上で戦った雄姿を覚えていますよ」

二人は顔を上げ、無理に笑顔を作った。

かつての部下である“自由民上がりの低級傭兵”が、今や自分たちよりはるかに高い場所にいる――その現実が彼らの胸に複雑な感情を生んでいるのが、フィルードには手に取るようにわかった。

ウォーカー騎士が先に口を開いた。

「男爵閣下……あなたのご達成には驚嘆するばかりです。かつて私は傲慢にも、あなたに私の従者になるよう命じましたが……今思えば、なんという愚かさだったか。どうか、男爵様、私のような者の言葉などお気になさらぬよう……」

隣でフェインも慌てて取り繕うように頭を下げる。

「ウォーカーは、昔から人を見る目だけはありませんでした。あの日、男爵様と戦った折、すでにあなたには凡ならざる器量を感じていたものです」

――口がよく回る。だが、利用価値はまだある。

フィルードは軽く手を振った。

「イワンクにも言った通り、あなた方にも同じ条件を与えましょう。私の軍で十年働けば自由の身だ」

三人は安堵と感激を入り混じらせた表情でそれを受け入れた。

フィルードはすぐに人を遣って牢屋を開かせ、囚われていた者たち全員を解放した。

もちろん、ルビン鎮には置かない。

――彼らには北方の開拓領を固めてもらう。防衛戦力の補充にもなる。

フィルードはすでに「どこに誰を配置し、どこまで利用できるか」を細かく脳内で振り分けていた。

立ち去ろうとしたその時、イワンクが急いで引き止めてきた。

「男爵様……この度の慈悲、心より感謝申し上げます。礼として差し上げられるものは何もありませんが……私の末娘は男爵様と同年代で、魔法の資質がございます。資源不足で未だ突破できておりませんが、もうすぐです。お傍に給仕する侍女もいらっしゃらないようですので……どうか、娘を側仕えとして、お茶汲みや水運びをさせていただけませんか」

そう言って、彼は隣の少女を引き寄せた。

フィルードは一瞥し、すぐに彼女の外見から数値を弾き出すように評価した。

――容姿は悪くない。歯は白い。肌は平民ではあり得ないほど綺麗だな。

煤で顔を汚して隠していたか……となれば、イワンクは最初から“このカード”を温存していたのか。

少女は恥ずかしそうにうつむいていた。

イワンクが自分との関係を深めようとしているのは明らかだった。

断るのは簡単だが、イワンクの忠誠心を損なうのは損失だ。

フィルードは一瞬だけ迷い、そして淡々と結論を下した。

「よかろう。今後、彼女を私の傍に仕えさせよう。できる限り、超凡者に昇格させてやる」

イワンクは涙ぐみながら深く頭を下げた。

「男爵様……! メイヴ、早くお礼を!」

少女は怯えたように、しかしはっきりと声を出した。

「あ……ありがとうございます、旦那様……」

フィルードはぶっきらぼうに手を振った。

「私の副団長も女性だ。まずは彼女について学ぶといい」

その言葉を聞いた瞬間、イワンクの目にごく僅かに失望の色が浮かんだ。

――思い通りにはいかない、と理解したようだ。

フィルードはメイヴを連れて軍へ戻った。

馬上のエレナがにやりと口角を上げる。

「フィルード様、領地を手に入れた途端、もう側室を迎えるおつもりですか?」

「まあな。これだけ苦労してきたんだ、少しくらい楽しんでも罰は当たらんだろ? それに、この娘は準超凡者だ。まずはお前が指導しろ。育てたら、私の侍女に連れてこい」

エレナは白目をむいたが、何も言わずに馬を降り、メイヴの隣に歩み寄った。

「なんて綺麗な子なの。さあ、これからは私についてきて」

メイヴは怯えながらも頷いた。

同じ女性であるエレナに対する信頼は、フィルードへのそれより明らかに高かった。

――まあ、それでいい。俺に媚びるより、まず力をつけさせる方が先だ。

二日後、兵士たちは領地をくまなく捜索し、最終的に1600人以上の農奴を発見した。

以前からの者と合わせると人口は3600人。そのうち青壮年は3割で、男は600人。

――この比率では即戦力としては薄いが……土地開拓には十分だ。

フィルードは全員に土地を割り当て、同時に領内の農地も徹底的に統計させた。

自由民が勝手に開いた畑もすべて強制的に登記させ、耕作は許可するが賦役は減らさない。

――これで“コネ”を使って好き勝手していた連中は、全員一掃だ。

イワンクの義弟、大叔母、妹婿、執事の叔父、大伯父、従弟……

いわゆる既得権層は全て切り捨てられた。

ルビン鎮は辺鄙な地だが、土地は広い。素性不明の者も多い。

合わせて三万ムーの土地があり、大半は粗悪な畑で収穫は低いが、それでも資源だ。

平均収穫量は100ポンド前後。良くても200。悪ければ数十。

作物の大半はライ麦で、少量の小麦はルビンの周辺に植えられていた。

領主府が独占する二万ムーは最良の土地で、残り五千ムーは農奴が勝手に開いた山地である。

フィルードは二日をかけ領地全体を巡り、詳細な地図を作成した。

――ここは15,000ムーだけ耕す。残りの5,000ムーはアルファルファだ。水源がない土地に穀物を植えるのは無駄。家畜飼料として活用する方が利益が出る。

耕作可能な15,000ムーは四つの地域に集中していた。

最大の地域はルビン鎮周辺で半分以上。

残りの三つのうち一つは千ムー程度、もう二つは三千ムー超で、どちらもルビンから馬車で30分以上。

――ならば二つの大きな地域に砦を築く。住民をそこへ集め、支配密度を高める。

元から村もあったが、フィルードはその中でも比較的大きい三つを選び、改築を命じた。

人的資源が少ないため、まずは木柵で応急的に囲う。

――建設速度を上げるために、ケビンにも獣人奴隷を派遣させよう。

さらに、15,000ムーの土地をすべて区画石で細かく一ムー単位で区切らせた。

脆い石材を使い、掘り返すと破壊される仕様にすることで、不正な地目変更を防ぐためだ。

――領地改革は力で押し通す。だが、それができるのは俺が強いからだ。

フィルードは冷静に、しかし確かな手ごたえを胸の奥で感じていた。

“この地は、今日を境に俺の領地になる。”

その確信とともに、彼は新たな支配体制を着々と固めていった。

PS:最近はフィルード領を一気に整えていく“領地運営フェーズ”がしばらく続きます。

基盤を固めてこその次の戦い、ということで、もう少しだけ内政回になります。

その後はいよいよ、次の戦闘シーズンへ突入予定です。

展開的にも大きな節目になるので、ぜひお付き合いいただければ嬉しいです!

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