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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第160章 秘盆地の資源化計画

フィルードは一連の作業を終えると、領地の管理をゾーンに任せた。

長い流浪の経験で鍛えられたこのキャラバン出身の若者は、ようやく一人で領地運営を任せてもよい水準に到達している――そう判断できるだけの成長があった。

(人材は、育つまでが手間だが……育ってしまえば何よりも価値が高い。これでまた一つ、領地の“部品”が整ったな)

半日もかからず領地へ戻ると、ケビンが慌てて迎えに現れた。

「団長様、やっとお戻りになりましたね!」

フィルードは笑みを浮かべつつ、内心では“この状況でケビンが焦る理由”を瞬時に探っていた。

「ようやく長い戦争も終わった。これからは得難い黄金の発展期だ。領地を一気に押し上げる絶好の機会になる。……私が不在の間に、何か起こったか?」

ケビンは大きく頷き、すぐに報告を開始した。

「ええ、実に多くのことがありました。まず……食糧です。援軍が滞在中に、我々の備蓄をほぼ食い尽くしてしまいまして。貯めていたドングリ粉まで残りわずかです。それに――盆地の開墾が進み、現在では二万ムー近い耕地を確保しています。ただ、最適な播種時期を逃したため、来春まで種まきはできません。数日前にあなたが送ってくださった農奴たちも全員盆地へ送り込みました。あそこは環境が良いですから、作業速度はさらに上がるはずです」

(よし。報告の仕方も洗練されてきた。わかっているな、ケビン)

フィルードは満足げに頷いた。

「よくやった。開墾速度は引き続き最大限まで上げろ。来年植える作物で収支が均衡し、できれば更なる人員募集のための余剰が出るのが理想だ。私は耕牛も買い戻すつもりだ。シャルドゥンに弟子をつけ、可能な限り多くの耕作機――すきを製作させろ。最終目標は、“全ての青壮年農奴に一頭の耕牛”。達成には時間がかかるが、一歩ずつだ」

ケビンはすぐに手帳へ書き込んだ。

フィルードは続ける。

「数日以内に、私が直接盆地の地形を調査し、アルファルファの播種区画を切る。秋には大量の牧草が必要だ。あそこは木がない分、耕作が早い。……私の仕事は多い。今の指示、すべてメモしておけ。マイクたちに商隊を率いさせ、ダービー城で牧草の種を買わせる。それから小部族へ使いを出し、油脂と交換させろ。石鹸産業を拡大する」

フィルードは息もつかず、次々に未来計画を積み上げる。

(今は“積み上げられる時期”だ。戦争が終わった直後のこの瞬間こそ、最もスピードを出せる)

ケビンはすべてを記録し、最後の指示を聞いた。

「それから、青壮年の農奴は全員組織し、訓練させなさい。月に最低十日。教官は古参兵。整列、投擲、銃剣(槍)突きが中心だ。余裕があれば分隊連携もやれ。……我々が何で成り上がったのかを忘れるな。武力こそが、領地の根だ」

「承知しました!」

ケビンを見送ったあと、フィルードは真っ直ぐ木造の小屋へ向かった。

谷を離れると、いつも精神がどこか張り詰める。

しかし、この小屋へ戻ると、初めて心の奥が静まる――不思議なものだが、事実だった。

(……豪奢な家より、自分の巣の方が馴染むということか)

小屋に入るなり、フィルードはそのままベッドに倒れ込み、深く眠りに落ちた。

深夜。

エレナが女賊の姿で忍び込み、いつものように彼の寝床を“温めさせ”にきた。

フィルードは渋々受け入れるしかない。

(毎回、ここで一線を越えられないのは……正直、微妙にストレスだが)

しかし、エレナは頑として許さなかった。

彼女の目的は“慰め”だ。過去を知ってからのエレナは、誰も信用できず、唯一安らげるのがフィルードの傍――それだけなのだ。

翌朝、フィルードはエレナを連れ、地下の暗河を抜けて盆地へ向かった。

盆地へ入った瞬間、エレナが息を呑む。

「これ……これもあなたの領地なの?」

「まあ、そうだ。他の連中が入るのは難しい構造になっている」

エレナは周囲の光景を見回し、驚愕を隠さなかった。

「本当に……運がいいわね。四方を山に囲まれていて、面積も広い。木がないから開発が簡単。全部耕したら、生産量はとんでもない数字になるわよ」

フィルードは満足げに笑った。

「もちろんだ。これは私だけのものじゃない、君のものでもある。どうだ? 心が動いたか? いっそ私についてきて、男爵夫人に――」

「はいはい、またおしゃべりを」

エレナは白目を向け、すぐ本題に戻した。

「ここ、どこにあるの? 暗河を通ってきたから方向がまるでわからないわ。それと周囲の環境調査は?」

「大まかな位置しか把握していない。獣人領に入り込んでる可能性もある」

エレナは真面目な顔で頷く。

「これほど優れた地形で、長年誰にも占拠されてないなんて……何か“知られていない理由”があるわ。この山脈、ただ囲んでるだけじゃない。あなたの言う通り、今日はやることもないし……私が手伝って盆地一周を調査しましょう。絶壁か、大河か……何か障害物があるはず」

「それを期待して君を呼んだ。まず一周だ。私は牧草の適地も探したい」

二人は大黒に乗り、周囲の山脈を走破した。

丸一日の調査の末、フィルードはアルファルファの適地を発見する。

開墾区から遠く、暗河の出口からも離れ、肥沃度も少し低い――

つまり、すぐ開発が及ばない“周辺部”。牧草地として最適だ。

フィルードはジャウェンを呼び、牧草区画の範囲を伝えたあと、エレナと村へ戻った。

ジャウェンは、かつて強盗に拉致されてきた女性たちに二人の接待を任せた。

暇を持て余したエレナは、女性たちの身の上話に聞き入り、すっかり夢中になっていた。

(今だ)

フィルードは大黒に乗り、聚魔珠のある峡谷へ向かった。

宝物庫に入ると、魔力が以前よりいくらか満ちてきているのがわかる。

(だが……まだ全盛にはほど遠い。ディオ伯爵の低級品よりも弱いとはな)

聚魔珠を再び本来の状態へ戻すには、資源の集中投入が必要だ。

フィルードは魔石を数個、聚魔珠のそばへ放り込んで“蓄え”としておく。

その後、魔薬を育てている場所へ向かうと――

植えておいた二株の魔蓮が、すでに腕ほどまで成長し、二枚の蓮葉を広げていた。

(よし……順調だ。全部、予定通りに進んでいる)

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