第43話 ヴォルスガ王国での祈り
前回のあらすじ
ユーマ達が出会った獣人の少年、クレイルの従魔はアリアと同じEXランクの魔物、フェンリルのレクスだった。
そしてクレイルがロストマジックの亜空間魔法を習得している事も知る。
その際、互いの秘密を話し合い、3人は意気投合する。
ヴォルスガ王国にやってきて1週間が経ち、僕達は武闘大会に向けて訓練したり、ギルドに行ってここまでの旅路の報告をしたりした。
ギルドでは盗賊の討伐を報告して、その討伐を証明するリーダーの所持品を提出した。
その結果、その盗賊がこの付近で現れる指名手配の盗賊だという事が分かり、僕達は討伐報酬を貰った。
その他にも道中で倒した魔物の報告もし、盗賊を合わせた合計で金貨10枚を稼いだ。
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今僕達は教会を目指している。
旅に出てから中々教会へ行く機会がなかった為、1度イリアステル様に報告をしたかったからだ。
「ようこそいらっしゃいました。本日はお祈りでしょうか?」
この教会のシスターが出迎えてくれた。
獣人の国というだけあって、シスターも獣人だった。
「はい、イリアステル様の像へのお祈りをしに参りました」
「畏まりました、こちらへどうぞ」
シスターの案内で女神像のある間へと通され、僕達はその像に祈り始めた。
次に目を開けると、そこはあの神の間だった。
足元にはいつも通りミニサイズのアリアがいる。
「こんにちは、ユーマさん」
そこにいたのは、イリアステル様だった。
「こんにちはです、イリアステル様」
『こんにちはでございます』
僕達が挨拶した時、イリアステル様の後ろに別の影があった。
「今日は、あなたに会わせたい者がいます。さあ、どうぞ」
イリアステル様が横にずれ、そこに現れたのは、真っ白な仙人の様な服に身を包んだ髭の老人だった。
「久し振りじゃな、ユーマさんや」
そう、その老人は地球で僕が手違いで死ぬきっかけを作り、僕をこのアスタリスクに転生させてくれた地球の神様だった。
「地球の神様! どうしてここに!?」
『この方がユーマの前の世界の神様ですか。前世のユーマを自分の手違いで殺してしまい、この世界に転生させたがそのドジっぷりにイリアステル様に呆れられてしまった神様というのは』
「ぐふぅ……っ!?」
アリアの容赦ない口撃に、地球の神様は膝から崩れ落ちてしまった。
しかも神様、その声、陸戦型の名前になってますよ。
「まあ、実際にその通りですね。一体どの様なドジを踏んだらそのような失敗を犯すのやらですよ」
「ぐはぁ……っ!?」
そこにまさかのイリアステル様の追い打ちで、今の神様の胸には言葉でできた短剣が刺さってる様に見える。
その光景に、僕は苦笑いするしかなかった。
それから5分程で、神様はややげっそりしながらも立ち直った。
ダメージはあった様だが、こんなに早く立ち直れるなんて、結構打たれ強いな、この神様。
「ええ……まあ……とにかく、お久し振りじゃな、ユーマさんや。かれこれ15年ちょいじゃろうか」
「はい、神様がこのアスタリスクに転生させてくれたお陰で、僕は幸せに生きていますよ。こうしてアリアという素晴らしい相棒に会えたり、ここにはいないですが素敵な婚約者も出来ました」
僕の言葉に神様はまた涙ぐんできた。
「ありがとうございますのう……1度ならず2度までも儂の過ちを責めずに感謝を述べてくれるなんて……」
その神様の背中をイリアステル様がポンポンと優しく叩いた。
「あなたは本当に素晴らしい人ですね。普通なら例え神相手でも、手違いで死なせてしまいましたと言われたら怒る筈なんですがね」
「あまり実感が湧かなかったからでしょうか。それに、神様が故意にやった訳じゃないというのはその態度から分かります。だから、こうして転生して生きているというだけで僕は十分ですから」
そしたら今度はイリアステル様まで涙ぐんでいた。
「あなたは本当に人間が出来ています……そんなあなただからこそ、私もこの神の間からあなたの事を気にかけているのでしょう……」
イリアステル様と神様は心から感動していた。隣ではアリアも感動で貰い泣きしていた。
『ユーマは本当に素晴らしいお方です……私はそんなあなたの従魔になれて、本当に誇らしく思います』
皆はそれぞれが僕を評価した。
う~ん。
というか、それらは人間として当たり前だと思うのは僕だけなのかな。
まあ、中にはあの過激派の大臣やローレンスの街の領主みたいな、自分の事やくだらないプライドで人を切り捨てるような人達を見てきたから、そういう反応をされるのもなんとなく納得だ。
それからは少し世間話に流れた。
「処で、どうして地球の神様はここにいらっしゃるんですか?」
僕は1番の疑問を尋ねた。
アリアも同じ様な意味を込めた視線を送っている。
「うぅむ……それはのぅ……」
「それには私が説明します。まず、ユーマさんがこのアスタリスクに転生して15年の月日が流れましたね?」
「はい」
「実は、ユーマさんの様に何かの事情で命を落とし、別の世界に転生したという事例は過去にも何度か存在しています。元々はこのアスタリスクや地球、その他の世界は、巨大な輪廻の輪の様な物で繋がっていて、死者の魂はその輪に乗り浄化されてからその行先となる世界で生まれ変わります。ですがこのアスタリスクでは、死者の魂に未練や怨念などがあると、魔物化してゴーストの様な魔物になる事があるますが。でも基本はその輪廻の輪に乗って魂を清算して生まれ変わりますけどね。本来その際には前世の記憶は消去されますが、中には何らかの弾みで前世の記憶が蘇ったという例もあります。また、転生者の中には極稀にユーマさんの様な予定外の死を迎えて前世の記憶を持ったまま生まれ変わる人もいます。そしてこのアスタリスクにその事情などで転生した者の過去で一番記憶に新しいのは、今から数百年前にユーマさんと同じ地球から転生してきて、この世界ではアルフレッド・ガラハドールとして生を受けた者です」
「アルフレッド・ガラハドールって、確か人族と亜人族との戦争を終結させたあの英雄王ですか!?」
「そうです。彼の場合はその戦争でこのアスタリスクが崩壊する危険があり、その際に世界を平和へ導く存在が必要で私は各世界の神に連絡を取りました。その結果、地球で事故で命を散らした者の魂を私が用意した肉体に宿らせ、アルフレッド・ガラハドールとしてこの世界に転生させ、結果彼はこの世界を平和へと導きました。そして、彼は残りの生涯を地球での食文化を始めとするあらゆる文化を伝える為に費やしました。この世界で地球の調味料があったのは、全て彼が伝え遺した物なのです」
そうだったのか。
地球出身の人が過去にいたから、このアスタリスクの食文化は地球と遜色なかったのか。
なんか、この世界の秘密の一部を思わぬ形で知ってしまった。
「話が逸れてしまいましたが、そのアルフレッド以来、このアスタリスクには前世の記憶を持った転生者が現れる事はありませんでした。ですが15年前、この神の失敗で若い命が散らされてしまい、数百年ぶりに神の力による転生者が現れる事になりました。それがユーマさん、あなたです」
「はい。そして、イリアステル様は僕の成長をこの神の間から見守ていてくれたんですよね」
「そうです。ですが、あなたとアルフレッドとの最大の違いはあなたが神の手違いで死んでしまったという事です。これは私達神にとっても大きなイレギュラーな事態でした。地球の神が私に連絡入れたとはいえ、違う世界の神がこの世界に介入してあなたを転生させたので、あなたの場合は、私アスタリスクの神と地球の神、2人の神の力が交わった存在になってしまいました。つまり、この世界の神である私の世界で生まれた身体に、別の世界の神の力で魂を入れたという事です。結果、あなたの成長に合わせて数年おきに地球の神とのコンタクトが比較的取りやすくなり、こうして一時的に彼をアスタリスクの神の間に呼べる様になったんです」
「それでここに地球の神様がいたんですか。そして今日、偶々僕が礼拝に来てイリアステル様が僕をこの間に呼んだのは」
「はい、折角ですから、ユーマさんの姿をこちらの神に1度見せてやりたいと思いあなたの召喚に合わせて、地球の神をここに呼んだのです」
成程そういう事だったのか。
つまりイリアステル様は僕達の事を考えて、この場をセッティングしてくれたのか。
「話は分かりました。今日はこの場を設けていただき、誠にありがとうございます」
「儂からも礼を言います。今日はありがとうございました」
「気にしないでください。私は良かれと思ってした事ですので」
「そうだ神様、もう1ついいですか?」
「ん? 何じゃろうかの?」
「あの、前世の僕の死体はあの後どうなったんですか?」
これがずっと気になっていた。
僕が地球で死んだという事は、あの時僕が神雷を受けたあの場所には、前世の僕の死体がある筈だ。
「ああ……それかのう……」
なんか神様の歯切れが悪かった。
何か不味い事だったのかな。
「実はの……ユーマさんの前世の死体はないんじゃ」
「ない? どういう事ですか?」
「あの時の儂が落とした神雷の威力がちょっと大きすぎて、それをまともに浴びた岩崎悠馬の肉体は跡形もなく消滅してしまったのじゃ」
「成程、そうですか。では、あの後地球では、僕の事はどうなってますか?」
「遺体は消滅したが、近くにあったお主の所持品がかろうじて無事で、それからお主の身元が分かったのじゃ。その後日にお主の葬儀が行われたのじゃ。因みに地球では儂が手を入れて落雷の事故で死んだ事になっておる」
「そうですか。それを聞いて前世の心残りが無くなりました。ありがとうございました」
それからは、僕のこの世界での出来事を地球の神様に話し、僕は幸せに生きている事を話した。
暫くして、僕とアリアがこの間にいられる限界時間が来た。
「今日はここまでの様ですね。ユーマさん、アリアさん、今からあなた達を下界に送り返します。またいつでも教会に来てください。その時にまたお話をしましょう」
「はい、いつもありがとうございます。」
「ユーマさんや、儂はいつまでもお主の幸せを祈っておる。頑張って生きるのじゃよ」
「ありがとうございます、地球の神様。それでは、またいつかお会いしましょう」
その言葉を最後に、次に目を開けるとそこは教会の女神像の間だった。
「ユーマくん、イリアステル様に会えた?」
お祈りを終えたラティが尋ねた。
「うん、できたよ。ちょっと予想外な出来事があったけどね」
「何々? その予想外な出来事って?」
「帰りにゆっくり話すよ。さ、宿に帰ろう」
僕は彼女と手を繋ぎ教会を後にした。
その帰り道、今回の神の間での出来事を話しラティはとても羨ましがっていた。
こうしてヴォルスガ王国での日々は過ぎていき、遂に僕達は武闘大会の当日を迎える。
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次回予告
武闘大会がついに開催され、ユーマ達は初戦の相手と戦う。
その際、ユーマはある提案をする。
次回、開幕




