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10 剣は人に使われてこそ剣の本懐

次回、ロザリンド第一王女が登場します





「はい、お嬢様。少々娘の入学式の答辞を直接見てたり話したりしてたら遅くなりました。それでは、お嬢様。お嬢様に害をなす魔人狩り、特とご覧下さい」


 凄い。助けられた事よりも、何よりもアザトールに娘がいた事に驚きを隠せないっ。

 確かに私よりも年上みたいな事を言ってたけど、まさか娘さんが居たなんて……。

 この学院に通っているって事は、貴族の娘なんだろうけど。

 私のところに来る前だよね。

 もしかして命令されて無理矢理……。


「お嬢様。今、お嬢様が考えているような事ではありませんのでご安心下さい。あと、私の躰は清らかのままです」


 え。清らか……?

 でも子供がいるんだよね。


「ええ。正真正銘、私の血を引いている可愛い娘です♪ 分身体みたいに嫌悪するかなーと思わなかった事もないですが、実際に会ってみると可愛いですねっ、自分の娘って! 父親の方は……・死ねば良いのに」


 娘さんの事は嬉しそうに言ってたけど、父親の事になると舌打ちをして苦々しい表情へと変えた。

 どうやらアザトールの相手の方は、何やら難がある方みたい。

 貴族だし、そういうものなんだろうなあ。私の知り合いの貴族ってロクなのがいないし。


「私の娘のことは後々お話し致しましょう。お嬢様も……無関係ではありませんので」


 え。私に関係ある人。

 ――うわあ、誰か分からないけど、圧倒的不安(いやなよかん)しか無い。


「まずは、魔人を片付けると致しましょう。正直、周りの温度が上がって熱いですし」


「……あのさ、魔人に勝てるの?」


「愚問です、お嬢様。メイドたる者、魔人程度は五感を封じられてもノーダメージで勝つ程度の護身術は学んでいるものなんですよ」


 それって私が今まで知っているメイドとだいぶ違うんだけどなあ。

 でも、今ならなんとなくだけど分かる。

 アザトールは言った事は、必ず実行する。魔人に勝つと言うのなら、必ず勝つと思う。

 それは兎も角として。あの子……シノンは泣いてたんだよね。

 それも高確率でお兄ちゃんの指示によって仕方なくやっている感じだった。


「アザトール。シノンをなるべく傷つけることなく無力化できる?」


「お嬢様が望むのなら、そのように致しましょう。――ですが、良いのですか。どんな事情があるにしろ、アレはお嬢様を殺そうとしたんですよ?」


「良いの。お願い、アザトール。シノンを無力化して、できる事なら助けてあげて」


「畏まりました。お嬢様が望まれるのでしたら、アザトール・デウス・エクス・マキナ。微力ながら、全ての能力を使い、望みを叶えましょう」


 アザトールは魔人シノンに一歩一歩近づいていく。


「さて、大人しく魔人化を解けば慈悲があります。が、私としては解かずに、抵抗してくれた方が嬉しいですね。――お嬢様を殺そうとして大罪の罰を与えたいので」


 ……あれ。私、傷つけないでって言ったよね。あ、なるべくって言っちゃってた。

 アザトールも手加減は知ってるだろうし、問題はない、よね。

 魔人シノンは高熱の豪腕を振り上げ、アザトールを殴った。その風圧で、周りに土煙が舞う。

 私なら絶対に死ぬ一撃を受けたアザトールは、魔人シノンに向けて言った。


「はあ、まるで成ってません。この程度のパンチではメイド1人すら殴り飛ばせませんよ?」


 アザトール以外のメイドなら、軽く殴り飛ばせると思うよ。


「お嬢様。一撃は、お許し下さい。これで、お嬢様を殺そうとしたことは、私の中でチャラにします」


「う、うん?」


 アザトールは右腕を構えると、空間が軋むほどの圧倒的暴威な魔力が蠢き出す。

 これがアザトールの魔力。

 凄いという言葉すら、その魔力の前には無意味。言うならば次元が違うというべき。

 良かった。アザトールが私の味方で居てくれて。

 もし敵対して目の前に現れたら、私は無抵抗のまま殺されただろうなあ。


「死にたくなかったら、魔力を防御面に全て割いて下さい。ちょっと本気で殴ります」


「――!」


 ほんの少しアザトールはジャンプをすると、右腕で魔人シノンの腹部に拳をめり込ませて殴った。

 魔人シノンはもの凄い勢いを出し、木々をへし折り燃やしながら飛ばされる。

 えっと、あれ、死んでないよね。死んでないよね。

 私なら確実に死んでいる一撃だね。

 ――あ、魔人シノンがアドトールに殴り飛ばされた方向は、ルドラさんが戦っている所だ。

 ルドラさんは無事かなあ。

 あの槍を持っていた人、かなり強そうだったけど。





◆◆◆◆◆◆





 こいつっは、蜂か。蜂ですか!

 針のように槍を勢いよく突いてくる。

 剣でなんとか槍を捌くだけで精一杯だ。反撃に転じる余裕なんてない。


【――当方――勝率8.58%以下――撤退を提案――】


 無茶言うな!

 これほどの相手に背中なんか見せてみろ。直ぐに槍で貫かれるっ。

 空間転移をするにも、座標設定をする余裕なんてあるものか!

 お前は転移先の座標を指定出来ないのか?


【――可能――ただ我が行う場合――現在働かしている強化機能の一部を割く必要性があり――割いた瞬間に一撃を受ける可能性――100%――】


 ああ、そうだろうなっ。

 なんとか打ち合う事が出来るのは、ルーヴァグライアスが身体強化など諸々してくれてブーストをかけている結果だ。

 無ければとっくの昔に俺は、槍で貫かれて死んでいる。

 王都の騎士団長は、武力より統率力が求められる。

 元々の俺の武力は、冒険者ギルドで言えばAランクに限りなく近いBランクほどの腕しかない。

 騎士団は王都内の事件などを担当。

 冒険者ギルドは王都外のモンスター討伐やダンジョン探索等を担当。

 それぞれ棲み分けがきちんとなされており、帝都と比べるとそれほど仲は悪くはない。

 だが……こんな事になるなら、モンスターの討伐任務を受けておけば良かったと後悔する。

 受けて、実戦経験があれば、少しは違っていたはずだ。

 ――いつも俺は、終わったことを後悔してばかりだ。


【――勝率――上昇させる方法――有り――】


 ルーヴァグライアスは、あまり言いたくなさそうな声で言う。


【――矜持――剣は人に使われてこそ剣――剣が人を使うことは――邪道――しかし担い手である主を使われている状態で亡くすのは――剣の恥――】


 つまり俺を操るってことか?


【――是――主は圧倒的戦闘経験不足――現時点で全ブーストしても相手には届き得ない――が――我が主を操の戦闘経験不足を無くせば――生存確率85%――】


 ……。

 ただの剣なら兎も角、これはあのバケモノが造り直した剣。

 戦闘経験もだいぶある事だろう。

 このまま戦えば死ぬ可能性が高い。

 ルーヴァグライアスのプライドを汚すようで罪悪感はあるが、俺はこんな所で死にたくない。死ぬわけにはいかない!

 俺の肉体を操ってどうにか出来るなら、悪いが、頼むっ。


【――是――これより主は意識のみ覚醒――神経・感覚を全て奪取――】


 勢いよく突いてくる槍を、剣が弾き飛ばした。

 ……これは気持ち悪いな。意識があって感覚がまるでない。出来ることなら二度としたくない感じだ。

 キリディアは三歩後ろへと下がる


「変わったな。誰だ、お前は」


「――拒――答える必要性――無し」


 あの一撃でルーヴァグライアスに変わったことを見抜いたか。

 空間転移と歩行を合わせた技術・縮地で、キリディアに接近して斬りかかるが、キリディアは難なくと防ぎ、躰を捻り槍で突く。

 双方共に達人クラス。

 それ故に、一撃一撃が素人目で見ても凄い事が分かる。

 俺とはレベルが違う。

 キリディアに至っては、まだ攻撃速度や精度が上昇している。

 思っていた以上にキリディアは強い。強すぎる。


「元々の肉体の性能で、良く俺と競り合った。褒美だ。絶招を持ってお前の命を穿とう」


 キリディアが今までで初めて構えをした。

 ああ、分かる。

 俺を殺す、文字通りの、必殺技だ。

 どちらにしろ俺はどうする事もできない。今はルーヴァグライアスを信じるしかない。

 キリディアの槍が僅かに動いた瞬間。

 俺達の前を、勢いよく巨大な炎の塊が炎を撒き散らしながら通り過ぎた。

 同時にキリディアの姿が消え、


「ルドラ様無事で何より。――しかし、ルーヴァ。プライドを曲げて肉体を操るとは、よほどルドラ様の事が気に入ったんですね」


【――返却――反動が来る――我慢――】


 バケモノのメイドと、トワ第二王女がやって来た。

 直感だが、アザトールが来る事を察してキリディアは退いたと思う。で、なければ、この場か逃走する理由は無い。

 そしてブースターをして肉体に負担をかけた結果。肉体に激痛が奔った。

 思わず膝を付く。――これが己の分を弁えずにした代償か……っ。


「お、い。あの、炎のバケモノは、なんだ?」


「アレですか? シノン・フォークライ公爵令嬢ですよ。どうやら火の精霊に愛されすぎているようです」


 ああ、アレが噂の炎を纏った令嬢か。

 実物を見るのは始めてだ。

 公爵令嬢の方を見た。僅かに薄く発光すると、炎のバケモノの形態から、人の形へと戻る。

 アザトールはトワ第二王女から離れて、公爵令嬢へと近寄る。


「んっ、ん、あ、れ――私、は?」


「どうやら命はあるようですね」


「ひぃ、ひぃぁぁぁあ」


 公爵令嬢は涙を流しながら、その、失禁をした。

 同時に掌で目を塞がれる。


「ルドラさん。見たら駄目。女の子が、粗相するのを見るなんて最低なことだよ」


 ……いや、俺は、お前達程度の穴の青いガキ相手に欲情したりしないからな。

 あと失禁で興奮する趣味は持ち合わせていない。

 それに、公爵令嬢には少し哀れみな感情がある。

 いきなり最強で最凶のメイドと戦う羽目になったんだ。恐怖を感じるのが普通だ。


「ロザリンド様の命令で来てみたけど何事?」


 と、公爵令嬢が失禁して意識を飛ばした直後に、面倒なのが来た。

 ハイネ・マーリンだ。


「ルドラ騎士団長は説明を。それと、そこのメイドも説明を聞かせて貰うわ」


「ええ、良いですよ」


「分かった」


 俺は頷き、アザトールは振り返りハイネと視線が噛み合う。


「――――――せん、せい?」


「久しぶりです、ハイネ。従者ギルドで貴女に教育して以来でしょうか」


 にこやかに話しかけるアザトール。

 そう言えば、以前言っていたな従者ギルドで教え子の1人は冒険者になったって。

 つまりハイネはアザトールの弟子か。

 符号が一致すれば、ハイネの年齢を考えればおかしいぐらいの実力にも納得はいく。

 王都でSランク冒険者に最速でなっただけはある。

 バケモノの弟子はバケモノジュニアか。

 ……バケモノの主は、なんだろうな。正体不明の怪しい人か?


「ちょうど良かったです。コレを保健室に運びますから、手伝って下さい」


「ハイ、ワカリマシタ」


 片言で喋るハイネを見て、今まで不愉快なヤツと言う印象だったが、今回のを見てマシなヤツに見える不思議。

 


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