拳打と集結
モミモミ
この世に神はいる……正確には女神だが。
モミモミ
見た目は悪魔だけど……
モミモミ
女神はいる……俺はそう確信した。
モミモミ
今、俺の目の前にいる可愛い女神は、何が起こっているのか分かっておらず、可愛い瞳をパチクリさせている。
女神は目線を下に向けると、また視線を元に戻した。
そして女神は叫び声を挙げながら【神の鉄槌】を繰り出した。
恐らくコンマ何秒だったと思う。俺は女神の繰り出す右フックで遥か後方に吹っ飛ばされた。
「きゃああああぁぁぁぁ!!!!????、崩龍拳っ!!!!」
「ぶっ……!?」
一体、何メートルぶっ飛ばされたのか分からない。地面を転がり回り最後には、某漫画の栽培された宇宙人の自爆で死んだ男みたいな感じになった。
「い、い、一体どこのどいつですか!?い、いきなり現れて……わ、わ、私の胸を……も、も、揉むなんて!!」
遠目に見ても彼女が涙ぐんでるのがわかる。彼女は両手で隠しきれていないスライムを押さえている。
「この体は竜斗様だけのものなんです!竜斗様以外が淫らに触れ…………ってあれ?竜斗……様?」
彼女は覗き込むようにこちらを見つめている。
俺は動けない体を必死に起こそうとして、左手親指を突き上げた。
「ナ、ナイスパンチ……レイナ…………」
俺はここで力尽き、気を失った。
「きゃあああぁぁぁぁ竜斗様ぁぁぁぁっっ!!!!」
完全に気を失う直前、彼女が慌ててこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
何にせよ、どうやら無事にアルカディア国に帰ってきたみたいだ…………いや、俺の左頬は無事ではなかったけど。
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気づくと俺は見知った天井を見上げていた。
(確かドラゴン戦の後からだったな……)
城にある本来なら来客が泊まるであろう居室は、俺がこっちの世界に来てから既に医務室代りへと変貌を遂げていた。
(なんか俺気絶してばっかじゃね?)
等と考えていたら、部屋の扉をノックする音が聞こえてた。
「はい?」
「失礼しますね、竜斗様」
入ってきたのは愛しい婚約者だった。恐らく、これから会議をするのだろう。彼女が呼びに来るのもテンプレ化してきた。
「久しぶりレイナ」
「はい、お久しぶりです竜斗様……あの……大丈夫ですか?」
「ああ、問題ないよ。結構魔力を使ったみたいだけど……大丈夫」
思ってたよりも神器【帰巣本能】は消費魔力が半端なかったみたいだ。
「それなら良かったです」
レイナはホッと胸を撫で下ろした。
「ああ……でも、まだ左頬は痛いかな」
俺は悪戯っ子ぽく笑ってみせ、左頬を擦ってみせた。
「だ、誰だっていきなり胸を掴まれたら吃驚しますよ」
「そうだね、謝るのはこっちだった。ごめん、ごめん」
「もう…………でも良かったです、揉んだのが竜斗様で……」
「えっ?何?」
「な、なんでもないです」
最後の方が小声でよく聞きとれなかった。こんな時、スキル【聴力】があれば……。
「それで?今から会議?」
俺はゆっくりと体を起こしてベッドから降りて立ち上がろうとした。
「そうですね、アトラスの事と……あと……ゼータの事です」
レイナが横に来て体を支えてくれた。
「ああ……(そういやあったなゼータの事)」
すっかり忘れてた。俺の中でゼータはもう仲間だから。でもルキ達、ドラグナー国にとっては許せる相手ではない筈だ。
俺とレイナは部屋を後にし、皆が集まってる【王の間】に向かって歩いた。これも何度目だろう……
「ところで皆は大丈夫?」
「何がです?」
「いや、ゼータから神器【帰巣本能】は一人用って聞いたのに、全員アルカディア国に転移したみたいだし……どうなのかなって」
レイナに気絶させられる瞬間に皆の姿がチラッと見えたから大丈夫だとは思うけど、能力と違う現象が起こったので少なからず心配ではあった。
「それについては皆が驚いてます。転移した皆もそうですが、アルカディア国にいた民も突如巨大な門が現れたので戸惑っていました」
「まぁ……俺もかなりビビったし……」
「でも、とりあえずは皆大丈夫です。シューティングスターとヒュースという者が取り仕切って機械国の者達を誘導しておりますので」
「そっか~なら安心した」
「はい」
レイナとそんな話をしながら歩き、気づくと【王の間】に着いていた。俺とレイナは大きな扉を2人で押して中に入った。
王の間にいたのは、ガオウ、ゼノ、サラ、ルキ、バアル、アトラス、ローゲ、ララ、ルル、そしてゼータだ。皆まばらに立って待っていたようだ。
「気がついたか竜斗」
真っ先に声を掛けてきたのはガオウだ。
「大丈夫、なんとか生きてる」
俺は笑ってみせた。
「…………」
レイナは顔を赤くして俯いている。
「自業自得です……」
ルルの手厳しい一言。
「大方、ひ……陛下の胸でも想像して転移したのではないですか?」
モロバレだった。どうやら【帰巣本能】の能力を知っての発言みたいだ。でも一瞬頭の中でスライムが過っただけなのに、ああも的確な位置に転移出来るものなのだろうか?もはや呪いレベルであった。
そして未だにレイナを姫様と呼びそうになるのは仕方ないことだったので、こちらはスルーだ。
「返す言葉も無い」
「認めるのかよ!」
バアルのナイスツッコミ。
「…………俺が認めた剣士がこのような男だったとは」
アトラスが若干呆れている。
「まぁ竜斗は最初からこんなだったさ」
おいっ、ゼノ!
「まぁ、何はともあれ皆さん無事に帰ってこれて良かったです」
サラが両手をポンと叩いて話を逸らしてくれた。
「サラ殿の言う通りだ。お陰でスレイヤ神国に対して万全の準備で挑める」
ルキがフッと小さく微笑んだ。
俺は皆の顔を改めて見回した。全員と目が合い、皆小さく微笑んでいる。最後に隣にいるレイナの顔を見た。
「これで、揃いましたね」
レイナもニコリと微笑んだ。
「ああ」
「ガオウ」
「うむ」
「ゼノ」
「おう」
「サラ」
「はい」
「ルキ」
「ん」
「バアル」
「うん」
「アトラス」
「……は」
「…………レイナ」
「はい、竜斗様」
俺は一人一人の顔を見つめ名前を呼んだ。そして、全員の名前を言い終わると、長く息を吸って、ゆっくりと息を吐いた。
「戦争だ!」
「「「おうっ!!」」」
背筋がゾクッとくるような、ビリリとした空気が流れた。何故「戦争だ」と言ったのか分からない。他に言いようが有ったかもしれないし、他に言うことが有ったと思う。
けど、この時はこれしか言葉が出てこなかった。
皆も望んでいることでは決してない。それでも全員の声が揃ったのは皆覚悟してることだと感じた。
後から聞いた話だと、ローゲとララとルルは、その時その場の雰囲気に圧倒されたみたいだ。同時に今まで感じたことの無い興奮を覚えたとも言ってたようだ。
まぁ、こんなビリリとした空気感は俺が耐えられそうになかったので、そのまま言葉を続けた。
「でも軍事的なことや、戦略はよく分かんないから皆に任す!」
「……………………は?」×全員
「当たり前だろ、俺数か月前までただの学生だよ。俺に作戦なんか考えさせたら、ガンガンいこうぜ的なことしか言わないよ」
俺は大真面目に答えた。
「……………………ぷっ」
最初に吹き出したのはレイナだった。
それから全員が大笑いした。
「ガーハッハッハッ、流石は竜斗だ!」
(大笑いし過ぎだ、猫科人型動物)
「まぁな、竜斗に作戦なんか任せたら命がいくつあっても足りねぇ~よ」
(うっせ~、チャラ男)
「まぁまぁ」
(……ホントこの人はマイペースだ)
「こいつの場合、1人で突っ込む危険もあるがな」
(お前もゼータに突撃かましただろ、ブラコン)
「確かに、襲撃の時なんか目も当てられなかったよ」
(今それいうのかよ、シスコン)
「作戦なら、ヒュースを頼るといい。あやつは出来る男だ」
(真面目か!シスコン2号)
心の中で一頻り突っ込むと横にいたレイナと目が合った。
「大丈夫です竜斗様、竜斗様には私達がついてます。」
そしてレイナは皆の方を見つめた。
「私達には竜斗様がついてます。1人で出来ないことは皆ですればいいのです。今、竜斗様のお陰でこうして魔族の皆が集まってきています。やっと私達も人間達と同じスタートラインに立ったのです。だから皆がいればきっと乗り越えられます!」
「はっ」
「おう」
「はい」
「了解」
「うん」
「はっ」
「ゲロ」
「はい」
「はい」
(どんだけ頼りになる婚約者なんだ)
俺は愛しくて堪らなくなり、隣にいたレイナを抱き寄せた。
「ふえっ!?」
レイナは吃驚したみたいだ。
「ヒュ~」等と口笛も聞こえたが無視。大体誰か想像つくし。俺はそのまま囁いた。
「大丈夫……皆は俺が護るよ……レイナが大事にしてるモノは……俺が全部護ってみせる」
「竜斗様…………はい」
レイナも俺の腰にそっと手を回してきた。
ほんの少し俺達は抱き締め合った。
「ゴホン……あの、そういうことは2人きりの時にして頂けますか?」
ララが咳払いをして、2人きりの世界から呼び戻してくれた。
「こ、こ、これは……その……違うんです……」
レイナはバッと俺から離れてアタフタしている。
(可愛い……)
「破廉恥です……」
(純愛と言ってくれ、毒舌ウサギ)
「ゲロゲロリ」
(お前は何処の侵略宇宙人だ)
レイナ(と俺)をからかうように皆が笑って、徐々に場が落ち着きだすと、ずっと黙っていた男?が口を開いた。
「ちょっと……いいかしら?」
声のする方を向くと、そこには座り込んだゼータがいた。