意志と達成
俺は、瓦礫になった建物を軽快に進み、アトラスが吹っ飛んでいった場所を目指した。
気付いたら最初にいたメインストリートらしき場所に出た。そこには皆と、ヒュースがいた。どうやらあっちも戦闘が済んだみたいだ。
「ふぅ~、やっと終わったかな?」
刀の峰の部分を肩に乗せ悠々と俺は皆の前に現れた。4人とも小さく微笑んでる。
近くでアトラスがボロボロの体を無理矢理起こそうとしているが、これ以上は動けないみたいだ。そんなアトラスの元に、ヒュースが傷だらけの体を引き摺りながら歩み寄っていく。
「アトラス様……」
「…ヒュース、か……」
「…………」
「…………」
2人は黙ったまま、その場を動こうとしなかった。もしかしたらボロボロで動けないのかもしれないけど。
俺は2人に近づこうとした。これからの事を話し合いたい。そう思い1歩踏み出した時だ。
一陣の風が吹いた。少し強めで、一瞬だが目が開けられなかった。その風は潮の香りを運んできてくれた。
(そういえば、海が近いんだっけ……)
目を開け、アトラスの方に向かおうとした時だ、足元に1枚の紙が落ちていた。俺はそれを拾い上げた。
「…………」
「あらん?ごめんなさいね竜斗ちゃん、さっきの風で飛んでったみたい」
ゼータが風で飛ばされた紙を取りに歩み寄ってきた。
「…………」
俺はただただ紙に描かれている女性を見つめた。
「竜斗ちゃん?」
ゼータは俺の様子がおかしいと思ったのか顔を覗き込んできた。
「こ………この、女性って……?」
俺の手はワナワナと震えだした。いや、もしかしたら全身が震えていたかもしれない。
「えっ?…………ああ、この人がアリス・ベルフェゴールよ。竜斗ちゃん気にしてるみたいだったからアタシがと(盗)ってきたのよ」
ゼータは自慢気に胸を張ってきた。
「竜斗?」
ガオウ、ゼノ、バアルも俺の様子がおかしい事に気付いたのか歩み寄ってきた。
「…………智姉」
俺は震える声で小さく呟いた。
「急にどうしたのだ竜斗よ?」
俺はバッと顔を上げアトラスを見つめた。
そして心配してくれる皆を押し退け、アトラスとヒュースの前まで足早に近づいた。
2人はまだ動けないみたいで地面に座り込んだままだ。俺は2人に近づくと、ヤンキー座りをし、2人の前に似顔絵の描かれた紙を突き出した。
「彼女が本当にアリス・ベルフェゴールなのか?」
俺は強い口調で2人に尋ねた。
2人は黙ったまま、少ししてコクリと頷いた。
信じられなかった。俺は自分の目を疑った。だって……この紙に描かれている女性はどうみても自分の姉である……天原智歌、その人であったからだ。
だが紙に描かれている女性をよく見たら顔には線みたいな模様が描かれていた。髪の色も金で、黒髪だった智姉とは全然違った。
俺はここでようやく夢で見た女性を思い出した。そう、この人は夢で見た女性と一緒だということに。そして俺は何故か分からないけど、一言呟いてしまった。
「…………ウル」
確か夢で見た女性が、金髪のヤンキーイケメンに対して呼んでいた名だ。
「知っているのか!?」
アトラスの鋭い目が信じられないくらい見開いていた。
「えっ!?…………いや、信じられないかも知れないけど、このアリスって人を夢で見たんだ。その時、近くにいた男の人(俺)の事をウルって呼んでたんだ……」
「信じられん。だが、皇帝を……アーサーをウルと呼んでいたのはアリスだけだ」
「えっ?皇帝?」
「……知らないのか?」
「えっと……」
俺はゼノ達の方へ振り返った。
「この前言ったろ、アーク帝国皇帝の名は【アーサー・アーク・ベオウルフ】だ」
「ああ、だからウルなのか……」
「戦闘の最中にも思ったことなのだが、お前はアリスの事を知っているのか?」
アトラスは尋ねてきた。恐らく気にしていたのだろう。
「いや、本当に知らないし、会ったこともないよ。さっき言った通り夢の中で見ただけなんだ」
「そうか……」
「それより、俺も聞きたいことがある!」
「?」
「智……この、アリスって人は【転生者】なのか?」
「転生者?何の事だ?」
アトラスは知らないようで、首を傾げた。
俺は簡潔に俺の事を説明した。実は少し長くなったけど……
異世界から召喚された事。レイナと契約してる事。魔族の国を安定させる事。近々、スレイヤ神国が攻めてくる事。その為にSSランクに成り得る魔族を集めてる事。
そして、皆にも説明した。このアリスって人が、俺の姉【天原智歌】にそっくりだって事を。
この人はただの機人族なのか?それともただの転生者なのか?もしかしたら、アリスは智姉が転生した姿なのか?を。
俺の心情も全部話した。
「竜斗の姉か……」
「う~ん、何とも言えないね」
「ええ、そうね」
「うむ……」
「…………」
「俺も知らんな。アリスからその様な話は聞いた事がない…………ただ……」
「ただ?」
「今思えばアリスは……妹は不思議な娘だった。生まれた時から物覚えが良く、才覚に恵まれていた。スキルのレア度も桁違いであった……」
「そう、なんだ……」
「この世界に着物という服を作ったのもアリスだ。世界に広めたのもな。だからなのかアリスの噂を聞いた皇帝の目にも止まった。」
「へ~」
「本来なら【機械王】の名を冠していたのは俺ではなく、アリスの方だったのだ」
「ああ、だからあんたの潜在クラスが【機王<銀>】なのか」
「潜在クラスだと?……お前は一体……」
「俺には神眼がある。だから皆のランクもクラスも視える」
「…………神の瞳か…………だからなのか……」
「ん?」
「アリスも【神眼】に匹敵するスキル【生命創造】を所持していた」
「神の雫か……」
ゼノがボソッと呟いた。
「神の雫?」
(お酒の漫画じゃなくて?)
「ああ、スキル【生命創造】は神の雫と呼ばれる程、レアなスキルだ。お前の【神眼】と同じだ。いきなり俺達を襲い出した奴等も正確にはアリスの造った【疑似機人族】らしい」
「へ~だから神眼でも種族を見抜けなかったのか……」
「そうなのか?」
「ああ、神眼で視ても機人族って表示された」
「成る程……我等が、機人族は無表情で感情のない種族だと思っていたのは疑似機人族の事だったのだな。神眼でも見抜けないのだから仕方無いことか……」
ガオウが何やら納得するように頷いている。そういえばレイナもそんな事言ってたな。
「話を戻していいか?」
アトラスが口を開いた。
「ん?」
「だからなのか……お前は、どこかアリスと似ている。種族は違うのだが……何というか……話す言葉や……雰囲気、がな。」
「まぁ、もし智姉がアリスだったら、そうだろ。姉弟だし。」
「もしの話だ」
アトラスは少しムッとした表情をした。
「でも、そうか……なら、皇帝には絶対に会わないといけないな」
「成る程、アーサーなら知っている可能性はあるな」
「う~ん、でも今はそれどころじゃないしな。取り敢えずはスレイヤ神国をなんとかしないといけないし」
「…………あの……いいですか?」
すると、ずっと黙っていたヒュースが口を開いた。
「ん?」
「いえ、今までの話はどれも俄には信じ難いのですが、1つだけ……」
「何?」
「アリス様は……探しておられました……何でも、どうしても見つけたい人物が2人いると……」
「え?」
「それ以上は私も知らないのですが……ま、間違いないです!」
「それって……!」
「わ、分かりませんよ!……でも貴方の話を聞いて、もしかして貴方の事なのかな、と……」
「…………」
なんか、段々本当にアリスは智姉なんじゃないかと思えてきた。姉貴なら服にも精通してるし、探してる人物が俺と翔兄の事なら辻褄は合う……かな?
「竜斗と言ったな……」
「?」
アトラスは鋭い目で俺を見つめていた。
「お前は最初に俺を仲間にしに来たと言ったな?」
「うん」
「……返事はNOだ」
「……そうか」
「いいのかよ竜斗?」
「その為に来たんだろ?」
ゼノとバアルが尋ねてくるが、あまり動揺してない感じだった。
「まぁ、条件は話を聞いてくれだったし。ドラグナー国と違って国がボロボロって訳でもないし……何より無理強いはしたくないかな」
「そうか……」
ガオウもだ。どうやらはじめからアトラスを仲間にするのは難しいと思ってたらしい。
「ただ1つ聞いてもいい?」
「何をだ?」
アトラスは首を傾げた。
「何で他の種族にも排他的なの?」
「それは……」
ヒュースは言いにくそうな顔をしている。
「それはアリスを殺したのが、人間と他の魔族共だからだ」
「「「なっ!?」」」
アトラスは話してくれた。
昔はこの機械国も他の種族を受け入れていたと。人間達から逃げる魔族の皆を率先的に救っていたのはアリスだと。
だがある日、アリスが救おうとした魔族に裏切られたと……何でも命惜しさにアリスをホウライ王国の軍がいる場所に誘い込み罠に嵌めて殺したのだと。
どうやって調べたのか分からないそうだが、皇帝とアリスの繋がりを知ったホウライ王国は、それを疎ましく思ったみたいだ。
そしてアリスを手にかけたのがホウライ王国、四傑の1人【死神】らしい。以来、アトラスは他種族を排他し、ホウライ王国に攻撃を仕掛けてるそうだ。
その場に重たい空気が流れた。
「……分かっている。全ての種族がそうではないことを……誰もがそうだ、命が大事に決まっている。頭では分かっているのだ、アリスを騙した魔族も仕方なくやったのだという事を……だが受け入れられぬのだ……また大事な者を失うのではという恐怖を……」
「そうか……分かったよ……」
「竜斗ちゃん?」
「アトラスを仲間にするのは諦めるよ。スレイヤ神国は俺達だけで何とかしよう。多分、何とかなるし。」
「……すまない」
「いいんだ、でもアトラスこれだけは忘れないでくれ」
「?」
「これはアリスが智姉だったらと仮定しての話なんだけど……」
「……うむ」
「きっとアリスは後悔してないと思う。世間一般でいう駄目人間だった翔兄……俺の兄貴を智姉はずっと心配してた。顔を合わせたら口喧嘩してたけど智姉は無視することはしなかった」
「…………」
「ちょっと口は悪かったけど……智姉は心優しかった。そんな智姉がアリスだったのなら、きっとアリスは後悔してないと思う。全く……はないかも知れないけど、それでも魔族を助けようとした事に誇りを持ってたと思う」
「…………」
「えっと、だから俺が言いたいのは……アリスの意志を継ぐのも大事なことなんじゃないのかなって……」
「!?」
「仇を討つのが、復讐するのが悪いとは言わない。俺だって大事な人が殺されたらどうなるか分かんないし……」
「…………」
「でもだからって魔族の皆を守ろうとしたアリスの気持ちを無視するのもどうなのかな……と。ごめん、多分俺すげぇ綺麗事言ってると思う……」
「…………」
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今、俺の目の前に立つ人間の少年は拙い言葉で自分の気持ちを精一杯話してくれている。
俺は天を見つめると、そっと目を閉じた。彼女の、妹の、アリスの言葉を思い出す。
「……だから言ったでしょ!兄さんは考えなさすぎなのよ」
「すまない……」
「全く、被害がなかったから良かったものの、少しは後先考えてよね」
「すまない……」
「戦闘人形じゃないんだから……」
「…………」
「でも良かった、兄さんが無事で……」
「アリス?」
「な、なんでもない!」
「む、すまない……」
「…………ふふっ、「む」とか言うとなんだかウルみたい」
「アーサーか……どうなのだ?」
「えっ?」
「好きなのだろう?」
「…………バレてた?」
「バレバレだ。毎日「ウルが……」「ウルったら……」等と言われれば気づかない方が無理だ」
「…………」
「一緒にはならないのか?」
「えっと……」
アリスは恥ずかしそうに左の薬指にそっと右手を添えていた。
「なんだ、もうそんな関係だったのか」
「…………うん、でもね!」
「?」
「ウルと約束したの……皆を……人間と魔族を本当の意味で1つに出来た時に、その時に私達も一緒になろうって……」
「…………そうか」
「うん、だから見てて兄さん。私(達)決めたの!ウルと一緒に国を1つにして人間も魔族も皆を幸せにしてみせるって」
「ふっ、お前なら出来るさ」
「兄さん……」
「恋する乙女は強いからな」
「……死ね、クズ兄」
「…………すまん」
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「皆を幸せに、か……」
アトラスはゆっくりと目を開け、空を見つめ、そっと呟いた。
「アトラス?」
「アリスは……きっと無念だった筈だ」
「そうか……」
「……だがお前の言う通り、生き方に後悔はしてなかったと思う」
「…………」
「アリスは人間も魔族も幸せに暮らせる国を、アーサーと共に作る気でいた。」
(だから皇帝は世界征服をする気でいるのかな?)
アトラスはゆっくりと立ち上がり、ヒュースを見下ろすとコクリと頷いた。
「竜斗よ、前言撤回だ。我はお前の……アリスの意志に従おう!」
「それって……」
「ああ、お前の仲間になろう」
アトラスはフッと小さく微笑んだ。
俺は皆を見回した。ガオウもゼノもバアルも笑っている。俺が親指を立てると3人も腕を組みながらそっと親指を立てた。
これで揃った。
【サタン】レイナ
【レヴィアタン】ガオウ
【ルシファー】ゼノ
【アスモデウス】サラ
【マモン】ルキ
【バアルゼブル】バアル
【ベルフェゴール】アトラス
これで目的が1つ達成された。本当なら皆にSSランクになって欲しいけど、スレイヤ神国との戦いまでそんなに時間がないし、取り敢えずはオッケーだ。
「だが……」
「ん?」
「ホウライ王国だけは、【死神】だけは殺す!これだけは譲れん!!」
「お、おう……」
すみませんが、最後の無念やら後悔やらのくだりが、どうも気になって……もし、他に適切な表現【言葉】があるのなら、ご指摘して頂けたらと思います。
今回もかなりの会話回だったので、他にもあればよろしくお願いします。




