四聖と獣弾
無数の弾丸の雨が降り注ぐ。
「…………」
アトラスは黙々と作業をこなすように銃をぶっ放してくる。
「おっ、とっ、くっ、おわっ……」
俺はそれを躱すが、いかんせん足場が悪い。
瓦屋根は滑りやすく斜めになっているため、どうしても不安定だ。アトラスは慣れているせいなのか、全く動いてないからなのか分からないが、お構いなしだ。
それでも何とか躱せているのは、スキル【神速】と【神眼】のお陰であるが、慣れない場所はどうしても状況を不利にしていく。
「1ついい?」
「…………なんだ?今更命乞いなど無意味だぞ」
「いや、そうじゃなくて……機械国にはスキル【復元】持ちの奴はいるのかなって?」
「安心しろ。我が民達は優秀だ、当然いる。だがお前達に使うことはない」
「はいはい、そうですか……」
そんなやり取りの中でもアトラスの攻撃の手が緩むことはなかった。
(全く……弾の装填無しとか反則だろ……でも……)
神器【麒麟】の能力は分からないが、雷属性なのは間違いなかった。恐らく、雷を弾にして撃ってきてると思われる。
(……てか、雷属性のスキル持ち多くね?羅刹にジェガンにアトラスとか……俺最近、雷属性としか戦ってねーし……)
本当にたまたまであった……
「まぁいいや、【復元】持ちの奴がいるならちょっと本気で行くよ」
俺は言いながら刀を振るった。
【無の構え】+【次元属性】
「【極みの位 終】…!」
その瞬間、アトラスの【麒麟】を持つ右腕を斬り飛ばした。
「っ!?」
アトラスは一瞬だけ戸惑うが、すぐに斬られた腕を左腕で掴むと、斬られた箇所に右腕を押し当てた。
「おいおいおいおいっ!マジか!?」
俺は自分の目を疑った。
アトラスの斬られた箇所からカチャカチャと変な音がし出した。次第に音がしなくなるとアトラスは左腕をゆっくりと離した。
信じられない事にアトラスの斬られた右腕がくっついたのだ。アトラスは右拳をニギニギさせている。
「嘘だろ……そんなの有りか?」
「スキル【機体】だ。魔力もかなり消費し、【復元】とまではいかないが自己修復が可能なスキルだ」
「…………もうロボットだな」
「……今なんと言った?」
俺は小さく呟いたつもりだったが、アトラスには聞こえたみたいで、体がピクッと動いた。
「えっ?……ロボットだなって……」
「その言葉をどこから……いや、誰から聞いた?」
先程と、うって変わってアトラスの表情は険しくなった。
「え~説明すんのめんどいな……小さい頃から当たり前に知ってるし……」
「……アリスと同じ事を」
アトラスは本当に小さな声で呟いた。
「えっ、なんて?」
「……何でもない、俺が勝てば洗いざらい話してもらうぞ」
アトラスは再度、銃の神器【麒麟】の銃口?を俺に向けてきた。
「いや、だから俺ら最初に話をしようって言ったじゃん。それをあんたが問答無用で拒否るから、こんなめんどくさい戦闘してるんだろ?」
「…………そうだったな」
(おっ、認めた。これなら戦闘しなくて済む?)
「だが……やはり、人間とは相容れぬ!貴様にはこちらの質問にだけ答えてもらう!」
「はぁ~結局こうなるのかよ……」
アトラスは更に籠手の神器【青龍】を発動させた。籠手と言っても、手首から肘まである硬そうではあるが 、一見するとリストバンドみたいなシンプルな神器だった。
だがその瞬間に【麒麟】の刃の部分に青い雷が纏わり出した。
「【付加】の能力か?」
俺は【絶刀・天魔】の柄を少しだけ握り直し警戒した。
「いかにも。更に…」
アトラスは更に具足の神器【白虎】を発動させた。白虎は機械的というか、足首までしかないがガ○ダム的な脚をしていた。
「お~」
正直カッコ良かった。
アトラスは少しだけ腰を落とした。そして脚に力を入れるのが分かった。
「まさか……」
俺が呟くと、アトラスは二軒分はあった距離を一瞬で縮め、俺の眼前に跳躍してきた。その脚には白い雷が纏わりついて、まるで噴射しているかのように放電していた。
「疾っ!」
アトラスは雷を纏ったガ○ブレイドを横薙ぎに振るってきた。俺は即座に【森羅万象】を発動させ、【地属性】を【絶刀・天魔】に【付加】させ、アトラスの斬撃を刀を縦にして受け止めた。
「やるな」
アトラスはニヤリと笑い、お互いの神器の刃はガチガチと音がし、鍔迫り合いになった。
「だが、鍔無しとは……戦いを舐めるな!」
アトラスは鍔迫り合いのまま、俺の手首目掛けて刃を滑らせてきたので、俺は刃で半月を描くように手首を捻ってこれを防いだ。
そして刃の剣先が地面に着きそうだったのでそのまま刀を振り上げた。
【下段の構え?】+【地属性】
「【下段・地の位 地達磨】!!」
「朱雀っ!」
アトラスは咄嗟に胸当の神器【朱雀】を発動させ、赤い雷が俺の技を防いだ。
だがランクも相性も俺の方が上の為、当然アトラスは上空に吹き飛ばされ、そのまま地面に落下していった。
「がはっ…!」
アトラスはなんとか受け身を取り、俺がいるであろう屋根の方を見上げた。
「遅いよ」
「!?」
俺は既にアトラスの背後をとって、上段の構えから一気に降り下ろした。
【上段の構え】+【地属性】
「【上段・地の位 土髪天】!!」
「玄武っ!」
アトラスは背中に盾の神器を発動させた。背中を覆う程広く、盾によくあるホームベースみたいな形状をしていた。
黒い雷で防ごうとするが、これも相性が悪く、アトラスはそのまま地面に触れ伏せた。
「がっ……」
俺は数歩ほど下がり、アトラスと距離をとった。
「……まだやる?」
「くっ……ま、まだだ……」
スキル【機体】のおかげか分からないが……しぶとい。割りと強めに攻撃したのに中々気絶しない。まぁ仲間にする奴が3回の攻撃で倒れて欲しくないってのはあるけど……。
アトラスはフラフラになりながらも、なんとか立った。そしてゆっくり銃口を俺に向け、魔力を溜め始めた。
「……仕方無い、最後まで付き合うよ」
まだやるの?とは、もう言わなかった。
「…………ふっ」
アトラスは小さく笑った。
「これで最後だ!…………いや、むしろあと一回しか攻撃できそうにないな……貴様は……強かった…………」
「約束忘れんなよ、俺が勝ったら話ちゃんと聞けよ」
「……無論だ。だが俺にはまだスキル【必中】がある。1日1回が限度だが必ず当たるぞ!」
「……なら、その攻撃ごと斬り裂いてやる」
アトラスの神器【麒麟】の銃口に雷が集約されていった。
俺は【地属性】を解除して、【雷属性】を【絶刀・天魔】に【付加】させ、上段に構えた。
【上段の構え】+【雷属性】
「雷銃・麒麟!!」
アトラスは叫び、トリガーを引くと雷銃が吼えた。アトラスが発動させている他の4つの神器と共鳴するかの如く。雷で形成されている獣……最早銃弾とは呼べない獣弾が放たれた。
俺は【絶刀・天魔】の能力【巨大化】を発動させた。そして雷を帯びた巨大な刃を一気に振り降ろした。
「【上段・雷の位 神乃雷】!!」
雷刃と雷弾が激しくぶつかりあった。
「おらぁぁぁぁああああ!!」
俺は更に力を加えて雷弾を斬り裂いた。しかし斬り裂いた先、眼前にいるはずのアトラスはいなかった。
「雷刃・麒麟!!」
アトラスは雷弾を放つと同時に俺の頭上へと跳躍し、雷弾に勝るとも劣らない威力の剣撃を放った。
だが、神眼は無情にもそんなアトラスの動きを全て捉えていた。
俺は刃と刃がぶつかる瞬間に、円を描くように手首を回した。神器【麒麟】はアトラスの手から離れた。
「なっ!?」
「悪いな、全部視えてる…」
俺は一瞬で八双に構え、【風属性】を【付加】させた。
【八双の構え】+【風属性】
「【八双・風の位 暴風殺】!!」
俺はアトラス目掛けて袈裟斬りを放った。
「ぬがああぁぁっっーー!!」
アトラスは建物を突き破るように吹き飛ばされていった。