問答無用?と戦闘開始
少し距離があるが目の前に立つ、銀髪に着物を纏う機人族アトラス・ベルフェゴール。すぐ後ろにもヒュースという名の機人族が立っていた。
「どうなのだ獅子族?」
アトラスの問いに俺はガオウの方を向いて軽く頷く。ガオウも軽く頷き、スキル【重力操作】を解除した。ついでに俺達も神器を解除した。
「……感謝する」
屋根の上にいた5人は、重力負荷が解除されると屋根の上から飛び降り、アトラスの元に集まった。
「申し訳ありません」
「醜態を晒しました」
等々、頭を下げているが、アトラスは「構わん」といった感じだった。
「まさかあいつが機械王なのか?」
ゼノの問いに俺は頷く。
「我より大きな魔族を見るのは初めてだな……」
2メートルを越すガオウよりも背が高いってどんだけだよと思ったが、口には出さない。
その場の空気が重たくなっていく。
「……さて、本来なら問答無用で排除行動に移るが、部下への攻撃を解除してくれた貴殿らに敬意を表して1つだけ質問に答えよう。貴殿らの要件はなんだ?」
アトラスはそう言うが、魔力は今すぐにでも攻撃をしますと、物語っている。現に指輪には魔力が注ぎ込まれている。
俺は皆の顔を見渡す。皆はコクリと頷く。俺はアトラスに顔を向ける。聞きたいことや突っ込みたいことは山ほどあるが要件はただ1つ。
「要件は1つだ、アトラス・ベルフェゴール!俺達の仲間になって欲しい!」
「断る」
「…………」
「…………」
暫しの沈黙が流れる。
(えっ?……はやっ!)
もう少し詳しい事情とか、俺達が何者なのかとか気にならないのか?アトラスはこれ以上喋ることはないといった態度だ。
「用が済んだら即刻この国を出て行け、魔族に免じて命は助けてやる。これ以上我が国に関わるな人間よ」
俺はフリーズした。
アトラスの即断即決に思考がついてゆけず、俺はその場で固まってしまった。
アトラスはその場を立ち去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
俺はアトラスを呼び止める。
「……なんだ?立ち去る気がないのか?死んでも構わないと?」
アトラスは振り返り、鋭い目つきで睨んでくる。
「俺達はアルカディア国から来た!俺達の話を聞いてくれ!」
すると、ゼノが叫んだ。
ナイスだゼノ。正直、俺は未だに思考が混乱してる。ここまで話を聞かない奴とは思わなかった。
「…………ああ、先日の使者を送りつけてきた国か。使者なら生きたまま丁重に返したはずだ。何か問題でもあるのか?」
「いや、問題はない。ただ……」
「なら話すことはない、帰れ」
一蹴であった。
これには流石のゼノも言葉を無くした。多分、何を言っても駄目だ。アトラスからは聞く姿勢が感じられない。
仕方無い……結局はこうなる……
「なら、戦って俺達が勝ったらちゃんと話を聞いてくれるか?」
「人間の考えそうな事だな」
ぐはっ!
竜斗は心に15ダメージを負った。
誰のせいでこんな戦闘民族みたいな考え方、口にしたと思ってんだ!
「……だがいいだろう、お前達が勝てば話くらい聞いてやる。俺達が勝ったらお前達は処刑だ」
アトラスは少し考え事をしてから口を開いた。
こわっ!
なんだよ処刑って……どっちが野蛮な考え方だよ。等と考えていたらアトラスは手を翳してきた。
?
「久方ぶりの戦闘だな……」
アトラスは目を閉じ軽く息を吐いた。
「来るぞ……」
ガオウが呟く。
「ガオウは倒れてる機人族を戦闘に巻き込まれない場所まで運んでくれ」
俺は皆に指示を出していく。
「了解だ」
「バアルは屋根の上にいた5人を頼む。5人ともBランクだから問題ないと思うけど油断しないでくれ」
「分かってるよ」
「ゼノはアトラスと一緒に来た機人族……ヒュースって奴を頼む。あいつ何気にAランクだから気を付けろ」
「任せとけ」
「ゼータは……」
するとゼータは建物に腰掛け休んでいる。しかも両手で×印まで作っている。
「……あいつは後で説教だな」
どんだけ体力ないんだ。
「アトラスは……俺がやる!」
ガオウとゼータ、倒れてる機人族以外は一斉に神器を発動させた。
それが開戦の合図となった。
その瞬間、俺の頬を銃弾が掠めた。
完璧に躱したと思ったけど、予想より遥かに速かった。アトラスは銃の神器【麒麟】を発動させた。銃と言うよりかは、某ゲームの銃と剣が一緒になったみたいな形状の神器であった。
「ほう……首を狙ったつもりだったのだが初見でこれを躱すか……」
「……銃の神器なのか?」
ガオウが呟くが、全員が驚いている。
「また珍しい神器が出てきたな……」
ゼノも見たことがないらしい。
「そちらも中々珍しい神器だな……刀とは」
アトラスは俺の発動させた神器【絶刀・天魔】を見ていた。
「…………Sランクか?いやに強力な魔力を放つ刀だ……」
「さぁ、それはどうかな?」
俺は小さく笑った。
「……ふっ、面白い。久方ぶりの戦闘の相手が強者とは……だが勝つのは我だ。銃と刀では勝負にならん!」
「だったら試してやるよ、銃と刀……どっちが強いかな!」
「来い!」
俺とアトラスは屋根へと跳躍し、その場を離れながら攻防を開始した。
因にだが、この時【魔名宝空】を発動させた。でなければレイナの身体強化系や飛翔のスキルの無い、ただの人である俺に屋根までジャンプなんて出来る筈がない。
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その場には機人族6人と、バアル、ゼノの2人が対峙している形となった。
「どうした?かかってこないのか?」
ゼノが双剣の神器を発動させて挑発する。
「…………」
ヒュースは長剣の神器を発動させているが、動こうとせず黙ったままであった。
「こないなら、こっちから……」
「感謝している」
突然のヒュースの言葉に、ゼノとバアルは戸惑った。
「どうした急に?」
「……人形とはいえ、我が国の物達を戦闘より遠ざけてくれているのだ、感謝ぐらいするさ」
ヒュースは機人族を運ぶガオウを見つめていた。
「? 確かに機人族は人形っぽいが、そこまで自虐するか?」
「そうか……知らないのも無理はない。お前達を襲った……そこに倒れている奴らは機人族ではない。」
「どういうこと?」
バアルは首を傾げた。
「そいつらは、ある御方が造った【疑似機人族】だ。本当の機人族の民達は、お前達がこの国に入ってきた段階で避難させている。」
「バカな!?命を作るなんて……出来る筈がない!!」
バアルは叫ぶように否定した。
「【生命創造】……」
ゼノが呟いた。
「知っていたか……」
「俺には【魔眼<天>】があるからな……スキルについては結構調べてる」
「そうだ。お前の言う通り、そこの獅子族が運んでいる疑似機人族は、ある御方のスキル【生命創造】によって造られたものだ。」
聞こえたのかガオウの手が一瞬だけ止まった。
「【神眼】と並び称されるほどの超絶レアスキルだ」
ヒュースはどんどん説明していく。
「…………で、こいつらを造ったのが機械王か?」
「確かに……命を造れるなら機械国が人間達と戦えてきた理由にはなるね……」
「ふっ」
ゼノとバアルの言葉にヒュースは小さく苦笑した。
「半分正解で、半分間違いだな」
「何?」
「話はこれくらいにしよう……人形と言っても、そいつらは、あの御方がお造りになったものだ。壊れないならそれに越したことはない…………それに、粗方済んだみたいだ……これで6対3だな」
ガオウがせっせと運んだお陰で、一帯には誰もいなくなり、いつの間にかゼノとバアルの横には斧の神器を携えたガオウも立っていた。
「待ってたのか?」
「言ったであろう、壊れないならそれに越したことはないと。それに……いや、なんでもない……」
「?」
3人は、口ごもるヒュースを見て怪訝そうな顔をした。
ヒュースはまだ少し彼らと話をしてみたかった。ヒュースはアトラスと戦い始めた人間の少年が何故か気になった。どこか懐かしい空気を纏った少年と話をしてみたかった。
そしてそれはアトラスも感じているとヒュースは気づいた。いつもなら話を聞くこともしない主が、今回は戦闘の際の条件も飲んだ。
もしかしたら主も、あの少年と話をしてみたかったのではと……
「ヒュース様……?」
ふと部下の声にヒュースは我に返る。
「すまない……考え事をしていた……」
5人は弓の神器を構える。ヒュースも長剣の神器を構える。
「まぁなんだ、話は戦闘が終わったら嫌でも聞いてもらう」
ヒュースの考えを見透かしたかの様にゼノは笑う。
「……抜かせ」
ヒュースは苦笑する。
「来ます!」
部下の叫びに全員の神器を握りしめる手に力が入る。
「機械国・副将【ヒュース・アレルヤ】!推して参る!!」
全員が一斉に駆け出し、6人と3人の戦闘も開始された。
因にだが【薔薇のゼータ】は……ガオウに担がれたあと疑似機人族と一緒に休憩中であった。
彼はSランクで魔力は桁違いだったが、いかんせん体力がなかった。
殺す戦いに慣れている彼は、殺さない戦いには慣れていなかったのだ。その事が余計に彼の体力を奪った。
「……さてと、竜斗ちゃん達は戦闘を開始したみたいだし私もそろそろ…………」
ゼータはゆっくりと体を起こし、ゆっくりと歩き出した。竜斗やゼノ達が戦っている場所とは違う方へ……