守護者と婚約者
エルフ族の幼い少女と、竜人族の幼い少年は身を震わせる。
眼前には不気味な笑いを浮かべる人間が、右手に装着された鉄爪を振りかざしていた。
人間はほんの僅か振り上げた手を止めると、そのまま思いきり右腕を2人目掛けて振り降ろした。
魔族のほとんどがその光景に恐怖し目をつむった。
そんな時だった。
ーふわりー
表現するのならそんな感じだろう。
その場にいた全員が暖かな風が通りすぎるのを感じた。
だが幾人かは気づいた、それはただの余波だということに。
突風?
暴風?
いや、【嵐】がその場を駆け抜けた。
真っ先に気づいたのはバアル、サラ、ガオウ、ルキウスであった。
4人の口元は緩んだ。
人間の振り下ろす鉄爪が空を斬り裂くが、その刃が2人に届くことはなかった。
振り降ろされた鉄爪を受け止めるは、白銀に輝く刃。
刀を握るは、黒髪を靡かせ、右眼が金色に輝く瞳を宿した人間であった。
「よぉ~また会ったな……糞餓鬼ぃ……そろそろ来ると思ったぜ……」
「俺は会いたくなかったけどな、糞野郎」
数秒程、鍔迫り合いが続くと、ジェガンは雷化した左腕に装着し直された腕輪の神器を竜斗に翳した。
「はっはー!! 雷神の収穫祭!!」
「!?」
紫電が竜斗を襲った。
至近距離で放たれた雷は爆発に近いものだった。
眩い光景に大半の者が目を閉じた。
そして目を開くと、誰もが目を疑った。
「魔名宝空……」
竜斗の背には盾が発動されていた。
そして、緑色に輝く薄い膜で出来た球体は、竜斗の後ろにいるソラとルークの体を包み込んでいた。
「……おいおい、なんだそりゃ~?」
「盾の神器だ、見りゃわかんだろ」
「ちっ、相変わらずふざけた野郎だ……!」
竜斗の背に発動された翼を見たジェガンは警戒し距離をとった。
◆◆
【竜斗視点】
「ソラちゃん、ルーク、大丈夫だった?」
俺は2人に振り向き安否を確認した。
当然、ジェガンに対して警戒は解かずにだけど。
「お兄ちゃん!!」
「お兄ちゃん!!」
2人は同時に俺の名を叫んだ。
そして安堵からか2人の目には大粒の涙が零れ出した。
「もう大丈夫だよ」
俺は安心させようといい笑顔で答えた。
「ママがっ……ママがっ…………ヒック……」
ソラちゃんは必死に涙を堪えながらマナさんを心配していた。
「それも大丈夫だ、バアルっ!!」
「了解だっ!」
俺が名を叫ぶと、白いローブを身に纏った男がマナさんに駆け寄っていった。
(あいつがバアルに寄生された人間か……)
神眼で見ると名前が【バアル・ゼブル】になっていた。
その下に彼の本名と思われる名前も表示されていた。
(寄生も恐ろしいスキルだな……多分、神眼じゃなかったら彼の本名は永久に判らなかったな……)
バアルがマナさんに駆け寄ると、治癒の神器と思われる腕輪を発動させ、斬られた右腕を治癒し始めた。
当然その光景を見た人間達は驚きを隠しきれていないようだった。
「なっ……!?」
「どうして……」
「バカな……」
「バアルさんがなんで?」
「……嘘だろ?」
等々、驚愕の声をあげていた。
余程バアルは人間達から信用を勝ち得ていたようだ。
「悪いなバアルは俺達の仲間だ」
俺は自信満々に全員に聞こえるような声で宣言した。
「くそったれがぁぁ……」
ジェガンは歯軋りしていた。
「奴は我々を裏切った! 魔族ごと奴は始末しろ!!」
ツルピカ頭の男が冷静に指示を出していた。
(相変わらず、こっちの世界の人間は切り捨てる決断が早ぇ~よ)
その言葉に有象無象の人間達が一斉に皆を攻撃しようとしたが、そんな事をさせるつもりはない!
「【魔名宝空】、全開!!」
魔力を込めると翼が大きく開かれた。
翼からは膨大な風が吹き荒れた。
風は皆を包み込むと、ソラちゃんやルークと同じ様に球体へと変わり、1人1人を包み込んだ。
当然、Sランクの神器を有象無象の神器が打ち破れる筈もなく、全ての攻撃を弾いていった。
正直当たり前の結果だった。
これが【魔名宝空】本来の使い方だし。
すると、いつの間にかジェガンが俺の前に立ち、斬りかかってきた。
既のところで【絶刀・天魔】で受け止めた。
「余所見とは余裕だな~糞餓鬼ぃ……」
受け止めていた刀に力を込めて思いきり振り抜くが、ジェガンは信じられない速度で躱した。
「……神器か?」
「……よく分かったな。そうだ、俺様のスキル【敏捷上昇】を更に上昇させる神器【雷神の狩猟場】……全て、てめぇ~をぶち殺す為に手に入れた俺様の新たな神器だ!!」
再びジェガンは斬りかかろうとしてきた。
俺は【森羅万象】を発動させて【地属性】を【絶刀・天魔】に付加させ、刀を鞘に納刀させた。
【居合の構え】+【地属性】
「【抜刀・地の位 地飛沫】!!」
「!? くっ!!」
ジェガンはなんとか居合い斬りを躱そうしたが、俺の刀はジェガンの左腕を斬り裂いた。
だが、いまいち手応えがなかった。
まるで雲を斬ったみたいな……
「……そいつも神器か?」
「はぁ……はぁ……はぁ……ああそうだ。【雷神の御手】だ」
「必死だな?」
「く、そ、がぁぁぁああああ!!!!」
再び俺はジェガンと攻防を繰り広げた。
◇◇
「竜斗の勝ちだな」
ルキウスは小さく呟いた。
「全くだ、バアルの奴が変なことを言うから余計な心配をして損したわ」
ガオウも同意した。
「!? バアルさんと連絡がとれたので?」
サラは2人に尋ねた。
「ええ、今マナ殿に治癒を行っているのがバアル殿です」
「まぁ……それは吃驚です」
サラは冷静に吃驚した。
「正確にはあやつはバアルにより【寄生】された人間なのだが、彼のおかげで何人もの部下達が救われた」
「まぁ、それはなによりです」
「だが余りよろしくない状況だな……」
ガオウは小さく呟いた。
それを聞いた、シューティングスターや他の部下達は反論した。
「何故です? どうみても竜斗様が押してますし……」
「そうです、この戦いは我々の勝ちです」
等といったコメントがガオウに多数寄せられた。
「馬鹿者共が、状況をよく見ろ!」
ガオウは一喝した。
「……そうですね。確かにルキさんの言う通り、あの爪の男には勝てるでしょうが、その後が厳しいですね……」
「確かに」
「「えっ?」」
大勢の魔族は、間抜けな声を出した。
「よく考えろ、我々は未だ捕らえられたままだ。それにあれだけ大勢の魔族を守護する神器だ、竜斗の魔力がいつまで持つか……」
「その3匹の言う通りだ」
「!?」
気づくと何十人もの人間達がガオウ達を捕らえている結界を囲んでいた。
「さて、あの小僧はお前達を庇ってどこまで戦えるかな? やはり計画通りお前達を捕らえたままで正解だったようだ」
オークスは不敵に笑った。
「くっ!」
「まさかバアルが【寄生】されていたとはな……いや、正確には【寄生】していたのがバアルという事か……全くこれだからレアスキルは油断ならん……、これが今回の計画の唯一の誤算だったな」
「それでも揺るがね~お前の計画はやっぱすげぇ~よ」
マッシュも全く焦った感じがなかった。
「まぁな」
人間達からは未だ焦燥の色は見られなかった。
◆◆
【竜斗視点】
「おらおら、どうした糞餓鬼ぃ! 動きが鈍ってきたぞ! そんなにあっちが気になるのかぁ!!」
ジェガンは何度も斬りかかってきた。
「くっ……」
俺は段々と防戦一方になってきた。
魔力にはまだ余裕があるが、気づいたらガオウ達は人間達に取り囲まれていた。
正直、気になって仕方ない。
いつ、誰が殺されてもおかしくない状況だった。
(まだなのか?)
俺は内心少し焦った。
「1つ良いこと教えてやる! あの結界は中からじゃ破れねぇ~が、外からの攻撃は驚くほど簡単に出来んだぜぇ~」
「!?」
「ひひっ、いいぞ! 段々といい表情になってきたぜ! もっと俺を楽しませろ!!」
「くっ、調子に乗りやがって…………!?」
だが俺はようやく彼女が来てくれた事を感じた。
(間に合った!)
これで懸念は無くなった。
あっちは彼女に任せたら大丈夫だ。
◇◇
「悪いが、まだ何があるか分からんからな。お前達には少々痛い目をみてもらおう」
オークスは仲間に合図を送った。
すると人間達は一斉に神器を構えだした。
「大事な商品だ、顔はやめとけよ」
マッシュはニヤリと笑ったまま、剣の神器をサラの方に向けて部下達に顔は傷つけないよう促した。
「…………っ!」
「やれっ!!!!」
オークスの合図で、人間達は一斉に下卑た笑いを含みながらサラ達を攻撃しようとした。
まさに一瞬の出来事だった。
「ぐべらっ!?」
マッシュがサラに剣を突き刺すより速く、マッシュは変な奇声をあげながら吹き飛ばされた。
その光景に人間達の動きは静止した。
「何が大事な商品ですか全く……彼らは皆、私の大事な民です! 顔どころか、これ以上傷1つ付けさせません!!」
マッシュが先程まで居た場所……いつの間にか、そこに立っていたのは、黒銀に輝く籠手と白銀に輝く具足を纏った魔人族の女性であった。




