軍備と握飯
アルカディア国に帰還してから数日後、俺達の状況はちょっとだけ変わった。
先ずはレイナだが、迷宮攻略でゲットした新しい神器【銀鶴】を上手に使いこなしている。
魔族の皆を上手にまとめてるいるし、戦争時の皆の逃走ルートや避難場所等の選定、食料の備蓄にも努めている。
ドラグナー国から来た蛙人族のローゲは、大臣をしてたこともあり、アルカディア国でもその地位についてもらった。
色々とレイナのサポートをしているみたいだ。
ララとルルは変わらず、【神器の間】の守護を担当し、それぞれ鑑定士と治癒士をしてもらっている。
後は今まで通りレイナのお世話だ。
ガオウは引き続き、将軍職に就いてもらった。
軍備強化や、国防に関して任せている。
いつスレイヤ神国がアルカ大森林に来るか分からないので、急ピッチで整えてもらっている。
ガオウを補佐するのは副将軍についてもらったルキだ。
今は兵士達の訓練の指揮をしてもらっている。
かなりの鬼教官らしい……
ガオウとルキは何人かの兵士を連れて迷宮にてランク上げをしようと計画もしていた。
その際は俺の神眼で潜在ランクを視る予定だが、いつになるかは不明……
諜報面では今まで通り、主にゼノが担当することになった。
ゼノは特に今までと変わりはない。
ゼノをサポートするのはサラだ。
普段はララとルルと一緒にレイナのお世話係で、時折ゼノの手伝いをしているみたいだ。
かなり忙しそうだが本人は大丈夫と簡単に答えていた。
アザゼルは軍に志願し、現在はシューティングスターや他の兵と一緒にルキの訓練を受けている。
リリスは八百屋のボブおじさんのところと、魔券交換所のジュンちゃんのところで働いている。
看板娘として大人気で、野菜が毎日売り切れる程だ。
男って……
他の魔族の皆は、それぞれ軍に志願したり、ドワーフのラスとカル兄弟の手伝いや、農作物を作ったりと、各々で上手いこと生活している。
こうしてみれば魔族の国として、かなり安定してきているんじゃないだろうか……?
ちなみに俺はというと、悠々自適に暮らしている。
ソラちゃんやルークなんか魔族の子供達の面倒を見たり、【修練の間】で特訓したり、街の中をブラブラしたりと……
ぶっちゃけ遊んでいた。
正直、つい最近まで学生だった俺が出来ることなんか限られてくる。
てか、現状戦うことしか出来ない……
どこの戦闘民族かと思われるかもしれないが、まぁ今の俺がアルカディア国の役に立てる事といったら戦闘しかない訳だ。
軍に入るのもいいが、ガオウやルキに「お前がいたら兵士のためにならん」と追い返された。
何故?
まぁ、取り敢えずはゼノが【バアル・ゼブル】のいる村、リリスの居た村を探しているので、それ待ちだ。
【ベルフェゴール】に関しては現状放置している。
というよりレイナが一度、俺達がドラグナー国に行っている間に、人間に見つからないよう慎重に使者を送ったが、取り合ってもらえなかったそうだ。
ベルフェゴールを仲間に出来る何かが分からなければ、力づくになってしまう。
それは最終手段らしいので俺達は先にバアル・ゼブルを探すことにした。
リリスが村を出た時の風景と、ホウライ王国に連れていかれるのにかかった大体の時間を頼りに、おおよその距離を出して、後は地道に探すしかなかった。
◆
「ふぅ……」
俺は【修練の間】での特訓を終えて一息ついた。
壁際に置いていたタオルを取ろうとすると、後ろより声を掛けられた。
「お疲れ様です、竜斗様」
「レイナ」
振り返るとレイナが立っており、手には何やら包みを持っていた。
「お昼にしますか?」
どうやら、弁当を持ってきてくれたみたいだ。
「ありがとう、一緒に食べる?」
「はい、ご一緒します」
レイナは嬉しそうに微笑んだ。
「おっ! おにぎりか、いいね。やっぱ日本人なら和食だな」
包みを広げて、目に飛び込んできた久々のおにぎりに興奮した。
「そうなのですか?」
「ああ、俺のいたところの主食は米だったからな」
「それは良かったです、サラに聞いて作ってみました」
「えっ!? これレイナが握ってくれたの?」
「はい……初めてですので美味しいか分かりませんが……」
「じゃあ……頂きます」
俺は合掌して、初めて女の子が作ってくれる料理に心ときめいた。
「はい、どうぞ」
俺はおにぎりを手に取り、かぶりついた。
モグモグ……
モグモグ……
モグモグ……
「ど、どうですか?」
「うん、美味しい。もう少し塩気があってもいいけど、それでも美味しいよ」
俺は感想を述べながら、2つ目に手を伸ばした。
「良かったです」
レイナは凄く嬉しそうだった。
まぁ塩と砂糖を間違えるようなバカなヒロインでもない限り、そうそう不味くなるはずがない。
握り加減も丁度いいし、本当に美味しかった。
「あっ、ご飯粒が……」
レイナは俺の口についたご飯粒をとってくれた。
そしてそれを自分の口へと運ぶ。
エロ……!?
ま、まさかこんな現実では全くといっていい程ありえない、口の周りについたご飯粒を彼女にとってもらうという、イチャイチャパターンが起こるとは……
レイナとの顔が近かった。
やべぇ……
やっぱ可愛いな……
ほんのり顔、赤らめてるし……
現在、【修練の間】には俺とレイナの2人しかいない。
これは……久々のリップなスライムの時間だな。
唇と唇が重なろうとした瞬間だった……
まさかのお邪魔虫君の登場だった。
「お~やっぱここにいたか」
はい、ゼノでした。
まさか俺の時ですら邪魔をしにくるとは……
今までは無かったのに……
ガオウとシューティングスターとアザゼルの邪魔をすればいいものを、相思相愛の俺達まで邪魔をするとは……
スキル【お邪魔虫】が覚醒したんじゃないのか?
ただ入ってきたのはゼノ1人だけではなかった。
1号、2号、3号、4号、5号、6号……
ライダーより多いお邪魔虫が入ってきた。
ガオウにルキにサラ、それとララとルルだった。
アルカディア国、最大戦力が集まった。
「ふふっ……おにぎりの作り方を教えたので、絶対竜斗さんの所にいると思いました」
サラがニヤニヤしている。
「ほう、姫様が料理を作るとはな」
ガオウもニヤリとしている。
「昼間から……」
ルルが呆れるように呟いた。
聞こえてるぞ……
「では私達もご一緒しましょう」
ララはレイナが持ってきた包みより大きな包みを持っていた。
「竜斗、レイナいいだろ?」
ルキが同意を求めてきた。
「あ、ああ……」
俺が答える時には、みんな既に周りに座り始めていた。
まぁいいか……皆で食べるのも悪くない。
ただ、イチャイチャしてからにして欲しかった。
皆で談笑しながらお昼を食べた。
俺は最後のおにぎりに手をかけようとした。
「へ~美味しそうだな」
ゼノが俺のおにぎりを軽やかに取り、口へと運ぶ。
こ、こいつ!
レイナの手作りおにぎりを!
これは許せん!
ちょっとお灸を据えなければ……
ーザワー
俺は立ち上がろうとしたが、突如信じられないほどの殺気が【修練の間】に広がっていくのを感じ、寒気がした。
レ、レイナ……さん?
「りゅ、竜斗様の為に作った、おにぎりを……よくも……」
レイナの綺麗な髪が逆立っていく。
「ひ、姫……さん……?」
ゼノの口から、かぶりついていた、おにぎりが転がった。
レイナは立ち上がり、ゼノに近づいた。
「いいでしょう……その喧嘩、私が買います……そうですね、久々に手合わせといきましょうかゼノ……」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ姫さん!?」
「問答無用……」
レイナはそれだけ呟き、体をユラユラと動かし始めた。
レイナの殺気で怒るに怒れなくなってしまった。
逆に冷静になってきた。
「ちょっ、レイナ……さん?」
俺はレイナを諌めようとした。
「どいて下さい」
レイナはニッコリと微笑み、笑顔で邪魔宣言された。
怖い……
誰かレイナを止めてくれ!
心の中で叫ぶが、全員は目を剃らしていた。
だよね。
ー触らぬ神に祟りなしー
名言だな……まさにこの事だ。
「ちょっと待ってくれ、レイナ!」
俺の心の声が届いたのか、誰かがレイナを制止させた。
振り返るとルキが立ち上がっていた。
ー女神登場ー
「ルキちゃん!」
ゼノは心底嬉しそうな表情で、救いの女神が現れたかの様な顔をしている。
「……ルキ、ゼノを庇うのですか?」
「いや、それはこいつの自業自得だ。後で好きにすると良い」
「では何故?」
「なに、昔からお前には興味があっただけだ。手合わせというなら、こいつの代わりに先ずは私が相手をしよう」
ルキは小さく笑った。
「……いいでしょう、今の私は手加減できませんよ」
「望むところだ」
2人は不敵に笑って対峙した。
あれ……?
何故こうなった?
次回『魔神姫と龍騎士』
少し書きたかった話です。