馬鹿兄弟とイケメン
俺達はアルカ大森林を歩いていた。
しばらくすると見覚えのある巨大な塀が見えてきた。
見覚えのある塀が……
見覚えのある……
見覚えが……なかった。
「なんだ、これ?」
俺達は唖然とした。
眼前に聳える巨大な塀は自分達の知っている塀ではなく、かなり強固に強化されているものだったからだ。
「ドワーフの兄弟が建て直しました」
ルルが若干自慢そうに答えた。
「えっと……俺達がドラグナー国に向かった時から、まだ1月も経ってないよね……?」
「そうですね、凄かったですよ。正直何をしているのかさっぱりでした」
どうやらルルにも建造方法が分からないみたいだ。
何か訳の分からない物を作ったら、いつの間にかあそこに組み込まれたとか……一晩たったら家が何軒も増えたとか……使用方法が分からない怪しい施設を建てたとか……数えればきりがないみたいだ。
俺達がいない間にあの兄弟は、この国の生きる伝説になっていた。
「えっと……なら俺にも新しい家が建った?」
「すみません……ドラグナー国やいくつかの集落から魔族が来た為、ドワーフ兄弟が急ピッチで建てているのですか……莫大あった材料などがなくなった為、竜斗様の家はまだです」
「そっか……それなら仕方ないな」
「はい、まだ暫くはマナさんのお宅に厄介になって下さい」
「了解」
「あっ、それと……」
「ん?」
「兄弟からの伝言です。「兄貴の要望に応えたいから、いい時に俺達のところを訪ねてきて下さい」だそうです」
「……了解」
要望か~風呂とトイレがあったら別にいいかな……そうだ、風呂についても説明しないとな。
この国もそうだが、魔族達は基本的に水浴びに近い事で体を洗ったり拭いたりしている。
我儘かも知れないが、現代日本に生きていた俺は、出来たら温かいお湯に浸かりたい。
きちんとラスとカルの2人に説明しなくては……
「大浴場とかいいな……」
俺はボソッと呟いた。
「えっ……!?」
ルルが勢いよく俺に振り向いた。
「どした?」
「い、いえ別に……」
ルルは何やら口ごもった。
「?」
少し様子がおかしかった。
俺達は正面にある巨大な門をくぐると更に驚愕した。
街並みが信じられないほど華やかになっていた。
城までつづく大通りも信じられないほど舗装されており中央には噴水まで見える。
しかも時間によって噴水の量が変わるハイテク噴水だった。
あの馬鹿兄弟……噴水作る材料あるなら先に家建てろよ!!
城に向かって歩くと、沢山の人達が歓声にも似た声をかけてくれた。
もはや凱旋パレードみたいなものだった。
中には俺(人間)をみて戸惑ってる魔族の人達もいた。
サラの情報網で集まってくれた魔族達だろう……彼等ともその内打ち解けなくちゃ。
人だかりの中を掻き分けて俺の元に飛び込んでくる影があった。
いよいよ久々のスライムアタ……
「ごふっ!?」
俺は飛び込んできた物体により押し倒された。
飛び込んできた小さな物体はスライムではなく、ソラちゃんとルキの弟だった。
「お兄ちゃんおかえりなさい!!」×2
「ソラちゃん……それにルークか!?」
ソラちゃんとルークはぎゅっと抱きついてきた。
何故か俺は、あの短い時間の中でルークにも懐かれたようだ。
ルキの嫉妬の目が痛かった。
睨んでる睨んでる……
弟との感動の再会が壊された激高寸前のルキを宥めてくれたのは、生まれた時からルキと共に育ってきた【白い竜種、ハクラ】だった。
ゼータにやられた傷も完治しており元気そうだった。
「久しぶりだなハクラ」
ルキは嬉しそうにしており、ハクラも嬉しそうな鳴き声をあげていた。
なにはともあれ良かった。
俺がルキの怒りを買うことはなさそうな雰囲気になった。
そして気づいてくれソラちゃん、ルーク……
君達の突撃で打った後頭部がヒリヒリしてきたことに……
「おかえりなさい竜斗様」
気づくと傍らにレイナが立っていた。
数週間会っていなかったレイナを見たら愛しくて堪らない気持ちになった。
微笑むレイナを見て俺は帰ってきたんだと実感した。
「ただいまレイナ」
俺はヒリヒリする後頭部をさすりながら、レイナの元に帰ってきた。
◆
暫くしてから俺達は、アルカディア城の【王の間】に集まった。
集まったのは俺、レイナ、ガオウ、サラ、ルキ、ララ、ルル、シューティングスター、ローゲ、それとこの国に来たばかりのアザゼルとリリスだ。
ゼノは現在、国を出て情報を集めに出ているらしい。
直に帰還するみたいだ。
「貴女がマモン・ルキウス・ドラグナーですね……お会いできて良かったです」
「いかにも……私の方こそ会えて嬉しく思う我が王、レイナ・サタン・アルカディア」
ルキは片膝をついて忠義の姿勢をとっていた。
「ふふっ、そんなに畏まらなくていいですよ……気軽にレイナでいいです」
レイナは小さく笑った。
「ふっ、ならレイナと呼ばせて頂く。私の事もルキと呼んでくれて構わない」
ルキはスッと立つと同じ様に小さく笑った。
「分かりました」
さてさて、何から話せばいいかな……
ルキを仲間にしたことはローゲが皆に伝えてくれたみたいだし……
迷宮からかな?
俺は簡単にだがレイナ達に、迷宮攻略から帰還するまでの……アザゼルとリリスに出会った所までを話した。
「……ではこれが【鬼種】を倒した時の神器なのですね?」
俺はレイナに夜叉姫から貰った神器を渡した。
「ああ、確か名前は【銀鶴】だったかな。能力は【衝撃】だから、レイナなら使いこなせると思う」
「分かりました。多分問題ないと思います、ありがとうございます竜斗様」
レイナは大事そうにギュッと握りしめた。
「えっと、それであなた方は?」
レイナはアザゼルとリリスに話をふった。
「あっ、はい。わ、私はアザゼル・フリードと申します。ホ、ホウライ王国から逃げてきました元奴隷です」
アザゼルは若干緊張したような感じだった。
「わ、私も同じです。リ、リリス・ゼブルと申します……レイナ様」
リリスも緊張したような声だった。
「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ」
レイナはクスッと笑った。
2人は照れたように少しだけ顔を赤くした。
「……貴女は蟲人族ですね?」
「あっ、はい」
「蟲人族の方とは初めてお会いすることが出来ました」
「そ、そうですね。蟲人族は数が少ないですし、私が奴隷になる前に居た村でも片手で数える程しかいませんでした」
「……貴女が居た村には帰らなくて良いのですか?」
レイナはもっともな質問をした。
「す、すみません……恥ずかしい話、私は自分の居た村がどこにあるのかも分からないのです」
リリスは恥ずかしさからか俯いた。
「仕方あるまい。蟲人族は数が少なく、かなりの辺境に住まうという……言い方は悪いが魔族の中で、人間にもっとも忌み嫌われているのが蟲人族だからな」
ガオウは以前俺に話してくれた事を話してくれた。
「そうですね……やはり蟲は気持ち悪いですからね」
リリスは苦笑いした。
そして突き刺さる女性陣からの殺気がガオウを襲った。
あ~メッチャ睨まれてるよ……
サラとか特に睨んでるし……
あれはもう殺すくらいの勢いだな。
ガオウ南無三、お前の事は忘れないよ。
「うっ……すまんリリス殿……失言だ、許してくれ」
気づいたガオウは慌てて謝罪した。
「そ、そうですよ! わ、私はそんなこと思ってません。むしろ……」
アザゼルは必死にフォローしようとした。
「むしろ……?」
当然リリスも続きが気になったようだ。
「えっ、いや……その……ゴニョゴニョ……」
アザゼルの声は次第に小さくなり口ごもった。
言えよっ!!
もう今の態度で全部分かったよ!!
好きなら好きって言えよ!!
くそっ、焦れったい!!
今の様子で女性陣は全員ワクワクしながら様子を見守っている。
シューティングスターとローゲは固唾を飲んで見守っている。
お前もさっさとララに告れよシューティングスター!!
気付かずキョトンとしてるのはガオウとリリス本人だけだ。
ルキでさえ気づいて照れ臭そうにしているのに。
「え……その……あの……む、むしろ……ですね……」
言え!!
言うんだアザゼル!!
男になれ!!
「す……」
言うか!?
【王の間】に静寂が流れたが……
突如バンッと勢いよく扉が開かれた……
「あー全然ダメだ……【ベルゼバブ】の情報一切なかったぜ姫さん」
入ってきたのは久しぶりに会う、イケメン堕天使ゼノくんだった。
俺はこの時、この場にいる殆どの奴から溜め息が漏れる音を聞いた。
「おっ竜斗、帰ってたのか……久しぶりだな」
「……まぁな、ゼノも相変わらず元気そうだな」
「おう、お前も元気そうだな」
元気だけど、たった今どっと疲れたよ。
漫画でもそうだけど、この焦れったい感じが一番嫌いだ。
恋愛漫画でも大体この後なぁなぁになって、お互いすれ違ってくんだ。
さすがムードぶち壊し(他人の)、イケメンキャラのゼノだ。
ある意味最高のタイミングでの登場だった。
しかし……こうして改めて見てもゼノはイケメンだ。
俺も智姉によく顔は良いって言われてたけど、ゼノはそんな俺から見ても格別のイケメンだった。
アザゼルもイケメンだし、あれか?
堕天族は先天スキルに【イケメン】でもあるのか?
てかあれだな……ガオウ、シューティングスター、ローゲは分かんないけど……基本的にここにいる奴ら、皆イケメンじゃね?
女性陣も皆、顔立ちが整ってて綺麗だし。
コスプレしてるアイドルグループにしか見えなくなってきた。
またしても話がそれた……
取り敢えずゼノにも今までの事を話した。
「で、そっちはどうだった?」
俺はゼノに【ベルゼバブ】について何か分かったか聞いてみた。
「ああ、全然ダメだ……もう少し特徴というか、何か情報があればいいんだが……」
駄目だったみたいだ。
「それなんだが……竜斗によれば別の呼び方があった気がするそうなのだ。後、【蝿の王】という特徴から蟲人族ではないかと我らは推測した」
「マジかよ……それ早く教えて欲しかったぜ」
ゼノは項垂れた。
「ごめん、迷宮でルキの技を見てから、何となくそんな気がしたんだ」
「なんだそれ?」
当然、ゼノは不思議そうにした。
デュー〇モンやベル〇ブモンを説明しても分からないだろうし、きちんと説明できる自信がない。
「あの……皆さん何の話をされてるんですか?」
話についてこれないアザゼルとリリスは近くにいたララとルルに尋ねた。
ララとルルは2人に説明していた。
「7大悪魔王……SSランク……ですか?」
2人にとっては雲の上の話しすぎて、ついてこれない感じだった。
「ええ、後2人なのですが【ベルゼバブ】という方だけ存在すら見つからないのです」
「…………」
リリスは黙って何やら考え込んでいる。
「リリスさん?」
ララはリリスの様子がおかしいことに気づいた。
「あの……もしかしたらですが……間違ってるかもですが……その人、私の兄のことかも……」
リリスの言葉に全員がリリスの方に振り向いた。
「あっ、いや多分違うと思うのですが……でも兄も強い方だったので……」
俺はリリスに近寄った。
「その人の名前は?」
「え、えっと……兄の名は【バアル・ゼブル】です。名前は違うのですが何となく響きが似てませんか?」
「…………確かに」
俺は口に手を当てて考え込んだ。
言われてみれば確かに響きが似てなくもない。
バアルゼブル……聞いたことあるような……
「それにですね……」
「それに?」
まだあるのか。
「昔、【魔眼<人>】のスキルも持っている方が兄を視たところ、クラスが【蝿の王】でした。皆さんの話す特徴と同じかなぁ……と」
はい、決定。
絶対そうだ。
もうそいつしかいない。
「お兄さんのランクは覚えてますか?」
レイナが尋ねた。
「確か【ランクA】か【ランクB】はあったと思います……す、すみません……ハッキリと覚えてなくて……」
「いや、凄く助かった」
俺はリリスに感謝した。
「では?」
サラが尋ねてきた。
「ああ、多分リリスのお兄さんが俺達の探してる人だ。【蟲人族】で名前は【バアル・ゼブル】だ」
「他に何か特徴とかスキルで覚えてるのはあるか?」
ゼノがリリスに尋ねた。
「……確か、特殊スキル【千里眼】とレアスキル【寄生】を所持していました。それと属性は【炎】で、村の皆からは【爆炎王】と呼ばれていました」
「……随分ハイスペックだな」
俺が呟いたら、皆から小突かれた。
「いてっ!?」
後頭部を打ったばかりなのに皆、遠慮がなかった。
「お前ほどのハイスペックな奴がどこにおる」
「嫌味にしか聞こえませんよ」
「全くこれだから竜斗は」
「破廉恥です」
「まぁ魔族の中では、ハイスペックな部類に入るな」
「後は何気に薔薇のゼータもハイスペックだったな」
ちょっと待て!
今変なのがまじってなかったか?
まぁ大体誰か想像つくけど……
まぁそんなこんなで、存在が明らかになったし、いよいよ残り2人だ。
【機械王ベルフェゴール】
【爆炎王バアル・ゼブル】
先ずはどっちからいこうかな……




