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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第二章【羅刹と夜叉】
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三国とギルド



【ギルド】


 ギルドとは過去に3国が停戦協定の際に協同で設立した組織であった。

 現在、アーク帝国の皇帝による侵略戦争が行われている戦時下でありながら、唯一中立と言っても過言ではない組織であった。


 組織の仕事内容としては主に依頼主からの、魔物討伐や迷宮攻略、神珠・神器収集、魔族の捕獲といった委託によるものだった。


 魔族に対する懸賞金もここギルドが選定し行っていた。


 アーク帝国の皇帝も現状、ギルドに関してはお互いの不可侵条約を守っており、他国のギルドを攻撃することはなかった。

 但し戦争に投入されたギルドに関しては徹底的に攻撃を行うなど意味不明な行動も多々あった。



 そして3国の境界線のど真ん中に建てられた小さな建物。

 建物の外観は普段使われてないボロボロ感丸出しであったが、建物の中は正反対に綺羅びやかに彩られていた。

 部屋は一室しかなく、中には丸いテーブルが1つ。そして3国が位置するのと同じような形で椅子が3つ置かれていた。



 その部屋には現在2人の人間がいた。


 北側の椅子に座しているのは、【ホウライ王国】最強の戦士であり、ホウライ王国のギルドを束ねる男であった。



【エンマ・H・クラフト】


 彼には幾つもの通り名があった……

 【英雄の血脈】、【英雄の再来】、【王国最強戦士】、【冷酷無慈悲な剣】、等であった。


 そして、その通り名はどれも間違ってはいなかった。

 彼は(まさ)しく英雄と呼ばれたトウマの子孫であり、彼自身の戦歴も輝かしく、数えれば切りがなかった。


 数えきれない武功により、軍の最高戦士長にまで登りつめ、(あまつさ)え所属すらしていないギルドの管理まで任される始末であった。


 そんな男がこの狭い一室の椅子に腕を組み目をつむり黙ったまま座していた。

 少し後ろには鎧を纏った騎士の女性が立っていた。



 2人が黙したままでいると、空いている椅子のすぐ後ろに転移による門が開かれ、転移門より2人の人間が現れた。




【桜花のセツナ】


 アーク帝国が誇る六花仙の一人にて筆頭、常に皇帝の傍らにいるアーク帝国のナンバー2であった。

 彼女もまたギルドには所属していなかったが皇帝の命により、アーク帝国に幾つか存在する全ギルドの管理を任されていた。


 彼女の後ろには部下と思われる男の兵士が一人付き従っていた。



「お待たせしましたか?」

 セツナは西南側の椅子に手を掛け、返事が返ってくる前に椅子に座った。


「いや、問題ない」

 エンマは低く渋い声で答えた。


 セツナに付き従っていた男も、エンマの後ろにいる女性騎士と同じ様に、セツナの少し後ろに立った。



「今回もエンマさんが一番乗りですか」

 セツナは笑いながら世間話を始めた。


「無駄な時間は過ごしたくないからな……」


「あらあら、相変わらずランク【ZERO】に御執心の様で……ランク【E】の迷宮巡りですか」

「…………」


「クスクス、腕が鈍らなければいいのですが」

 セツナは持っていた扇子を開き、自分の顔に向かって(あお)いだ。


 エンマの後ろにいる女性騎士の体がピクリと動いた。



「問題ない」

 エンマは微動だにしなかった。


「ランク【ZERO】の迷宮に巡り合えればいいですね。【英雄トウマ】……ご先祖様の仇が討てればいいんですけど」

 セツナは皮肉を込めて小さく笑った。


 この言葉に流石のエンマもセツナを睨み付けた。



「恐い恐い、冗談ですよ」

「……貴様らが戦争なんぞ仕掛けなければ何も問題ないのだ」


「それは直接、皇帝陛下に言って下さい。一兵たる私如きが偉大なる皇帝陛下を止めることなんか出来ませんので」


「…………」

「…………」



 壁に小さな亀裂が走った。



 エンマとセツナ、両者の魔力がぶつかり合い、狭い一室の空間を押し潰そうとしていた。

 2人に付き従っていた騎士はそれぞれ額から汗を垂れ流し、ゴクリと唾を飲み込んだ。



「やれやれ、お二人共この小さな建物を壊す気ですか?」

 突如、空いていたもう1席の後ろから可憐な女性の声が聞こえた。

 転移により、白と赤を基調としたローブを纏った女性が姿を現した。

 女性はフードを深く被り素顔を見せないようにしていた。



ギルド魔族狩り・ギルドマスター

【アーシャ・スレイヤル】


 ギルドメンバーですらその姿は見たことがなく、最高幹部か極一部の他ギルド長しか正体を知らない女性であった。

 その正体とはスレイヤ神国の現女王の実妹であり、王族の地位を自ら放棄した変わり者であった。


 付き従うは、これまたローブを纏い素顔を見せない最高幹部の1人であった。



 ギルド魔族狩りはどの国にも属していない最大勢力の独立ギルドとして有名であったが、これまで極秘裏にスレイヤ神国の女王の命でスレイヤ神国側のギルドの代表を務めていた。



「それにギルド関係以外の話はこの場ではしない筈では?」


 このアーシャからの問いに2人の魔力が急速に収まっていった。



「……そうでしたね」

「……それで今回の要件は?」


「ええ、ある魔族達のことです」


 するとアーシャは懐より3枚の紙切れを取り出した。

 その紙切れにはレイナ、ガオウ、ゼノの3名の顔が描かれており、それぞれ懸賞金が記載されていた。



 エンマは黙ったまま紙を見つめていた。

「…………」


「あら? どうかされましたエンマさん?」

 エンマの変わらない表情から何かを読み取り、すかさず探りを入れるセツナ。


「なんでもない」

 相も変わらず微動だにせず答えるエンマ。


 だが内心は穏やかではなかった。

 数年前、魔族の売買の際に不覚にも神珠を奪われた。

 エンマ最大にして唯一の汚点。


 そして神珠を奪った一団こそレイナ達であった。



「それで……こいつらがどうかしたのか?」


「ええ……何やら最近動きが活発になってきており、うちのギルドの末端のメンバーとも接触があったみたいで、数名が命を落としています」


「知らんな」

「私も同じく」


「左様ですか……何か情報があれば随時教えて頂ければ幸いです。メンバーが殺られたのに黙って見過ごすわけにはいかないので」


「了解した」

「分かりました」



(情報なしか……)


 このやり取りだけでアーシャは2人が本当に何も知らないことを悟った。

 本来なら自分のギルドの失態や、情報を他国側に差し出したくはなかったが、どうもこの魔族たちが気になった。


 早急に何とかしなければならないという、女の勘が珍しくアーシャの口を軽くした。



 そしてもう1つ懸念していたのが、1人の人間の事を伝えるべきかどうかであった。

 その人間がどの国に所属しているかも分かっていなかった為、迂闊に口に出来ないでいた。


 現在、姉王に心当たりがないか探ってもらっている為、この情報は迂闊には喋らないでいた。

 正確に言うと、喋らないというよりかは姉王に口止めするよう釘を刺されていたのだ。


 しかしアーシャにとっては、魔族よりもその人間の方が気になって仕方なかった。

 Sランクの迷宮を攻略し、魔族を助け、少し気に掛けていたレアスキル【捕縛】の持ち主の両腕を斬り落とした人間……


 野放しに出来る筈もなかった。



(姉様は魔族にしか興味がないからな……後手に回らなければいいが……)



「では、後はいつもの通りに簡単な雑務の話を……」

 アーシャが話そうとした時、セツナの後ろにいた兵士が片方の手を耳に当て、もう片方の手で口を押さえながら、見えない何かと小声で話をし始めた。


(念話か?)

 アーシャは兵士を見つめた。

 少しでも会話が聞こえないか、そんな感じであった。


 セツナは、フード越しだがアーシャの視線に気づき兵士を鋭く睨んだ。

 兵士は急いで電話を切るような感じで慌てて念話を切った。

 同時に兵士はセツナに近寄り耳元で何かを話始めた。

 口元に手を当て口の動きがバレないようにしていた。



 話が終わると、セツナは立ち上がった。


「申し訳ありませんが急用が出来たので今回の会議はここまでにして下さい。数日後に此方から会議の開催について連絡致します」


 セツナは丁寧にそう言い残すと、兵士が開いた転移門を素早く通り抜けた。

 兵士も後を追うようにしてその場から姿を消した。



「……何かあったようだな」

 エンマが呟いた。


「そうみたいですね。まぁ重要な案件は先程述べたので、いつもの仕事に関してはまた後日で」


「了解した」

 エンマは勢いよく立ちあがった。


 女性騎士が転移門を開くとエンマも自国に帰ろうとした。

 転移門をくぐる直前で立ち止まると少しだけ何かを考え、振り向いた。


「……この手配書は貰っても構わんか?」


「ええ、どうぞ。ギルドにいくらでも出回ってると思いますが……」

 アーシャは手配書をエンマに手渡した。



「すまない、何か分かればギルドを通して連絡しよう」

「はい、よろしくお願いします」



 エンマもこの場から立ち去った。

 女性騎士も転移門をくぐるとゆっくりと転移門は消えていった。



 そしてアーシャはそのまま振り向かず、【ギルド魔族狩り】最高幹部の1人であり、部下でもあるフードを被った男に話しかけた。


「で、どうでした? 会話は聴こえましたか?」

「はい……どうやら六花仙の1人【薔薇のゼータ】が何者かにやられた様です」


「バカな! 六花仙が負けたと言うのですか!?」

 アーシャは勢いよく振り向き、有り得ないと否定しようとした。

 想像していた事態の遥か彼方の案件だった。


「有り得ない……スレイヤ神国のSランク者でさえ攻め(あぐ)ねていた【薔薇のゼータ】を……」

「そ、それだけではありません……【百合】と【竜胆】も戦線より撤退していた様です」


「…………」

 最早、アーシャは言葉にならなかった。



「一体、誰が……まさか……!?」

 アーシャの脳裏には1人の人物しか浮かばなかった。


 ギルドメンバーのジェガンの腕を斬った人間の男。

 Sランクの人間を退けられる者など、アーシャは知らない。

 それは同ランクの者でも容易ではなかった。

 ならばアーシャの知る限り現状そんなことが出来る人間は、たった1人だった。



「どうしますか? 女王陛下に報告しますか?」


 アーシャは暫く考えた。


「いえ……憶測で物事を判断してはいけません」

 アーシャはまるで自分に言い聞かせる様に話した。


「もう少し情報を集めてから、姉様には話しましょう。ここで姉様に報告しては3国のバランスが崩れてしまうかもしれません」


「よろしいのですか?」


「ええ。今の私は王族でも、スレイヤ神国の兵でもありません。ギルドを束ねるものです。ギルド長として得るべきは情報と利益だけあればいいのです」

 アーシャは不敵に笑ってみせた。


 ただ同時に懸念もしていた。

 憶測で判断してはならない。

 だがアーシャの勘は1人の人物しか指していなかった。

 報告でしか聞いていない見たこともない人間。



(確か……リュウ…ト……でしたか? 気をつけなければ……嫌な予感がします……)







【アーク帝国 天城】


 ギルド会議を切り上げ、長く続く綺羅びやかな廊下を足早に歩き、王の元に向かう【桜花のセツナ】。



(あいつらは一体何をしているの!? 皇帝陛下を彩る六枚の花が、3つも同時期に散らされるなんて!! 【百合】や【竜胆】は兎も角【薔薇】までやられるなんて!!)


 セツナは歯軋りした。


「それで、ゼータ達の容体は?」

 セツナは後ろをついて歩く兵士に、早歩きしながら強い口調で尋ねた。


「はっ! 百合と竜胆のお二方は多少手傷は負っているものの問題ないそうです。今回の召集が済み次第、戦線に復帰されるそうです」

「そう……よく皇帝陛下がお許しになられたわね」


「…………」

「どうかしたの?」


「いえ……非常に申し上げにくいのですが……戦線復帰はされますが、敗戦処理の後、お二人方には六花仙の称号剥奪が決定されています」


「でしょうね、命があっただけマシね……それでゼータは?」

「はっ、かなり危険な状態です。片腕を斬り落とされ、残り少ない魔力で超長距離転移の神器を使われたみたいで、現在多数の治癒師が治癒に当たっています」


「そう。皇帝陛下は彼に期待していたし、さぞかし落胆されたでしょうね……それで?」

「えっ?」


「チッ……やられた3人は何か情報を持って帰ってきているの?」

 セツナは要領の悪い兵士に小さく舌打ちした。


「百合と竜胆のお二方は何も……」


「ああ、だから称号を剥奪して、惨めに生き長らえさせるのね」

(まぁ、敗者を生かす気は私にはないけど)


「ゼータ様は何やら重大な情報を持っておられるそうですが、伝える前に倒れられたみたいで……」


「そう、なら全ては彼が目覚めてからね」

 セツナの歩く速度が僅かに緩やかになった。



「あの……それと……」

 兵士は恐る恐るセツナに尋ねた。


「何?」

「ゼータ様が強制転移により連れ戻した部下達からの情報によれば、恐ろしく強い人間が魔族の味方をしたみたいです……」



 【王の間】の扉の前まできて、セツナの歩みは止まった。



「人間……?」




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