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第21話 山田と変質者

あれから、善人改め智子と麻耶は仲良く買い物に行った。

先ほどのブティックは避け、別の麻耶のお勧めするブティックへ。


麻耶は智子にこれが似合う、あれが似合うなんてアドバイスしながらどんどんお勧めの服を教える。

まるで着せ替え人形のようだ。でも智子も智子でとても楽しそうにしている。


俺は二人のお嬢様の荷物持ちだ。

智子の買った服も俺が持つ。


「山田君……ごめんね」


そう言って上目づかいで謝る智子は、麻耶よりもよっぽど女の子らしい……

いや違う、そうじゃない。口に出してはいけないけど、こいつは善人。男の子だ!

でも、こいつヒゲも生えてないし、腕や足の体毛も極端に薄い。家で脱毛してんのかな……


楽しそうに服を選ぶ二人はどこから見ても仲のいい女友達にしか見えない。

まあ、いい。善人は男の子として扱われるより、女の子扱いを受ける方が嬉しいみたいだ。

俺がわざわざ波風を立てる必要はない。




ゴールデンウィーク最終日、俺は午前中から軽くランニングをしていた。

別に格闘技をやったりしてるわけじゃないけど、不良とかに絡まれた際に、逃げ切れるくらいの体力をつけておきたい。それでなくとも、俺は不良なんかに絡まれやすいんだし。


これまで何度不良に「ふん、魔王にすらなれぬ三下には用はない。失せろ!」と言ったことか。俺、本当によく今まで大怪我することもなく無事でいてこれたな。

ある意味、俺って豪運の持ち主かも。



幼稚園の前を横切る。子供のはしゃぐ声がする。今日は休みじゃなく、何かこの幼稚園でイベントでもあったのかな。



「ええやん、めっちゃええやん……」


怪しい呟きが聞こえてくる。その声の方へと近づくと、そこにはサングラスを装着しマスクをつけジャージ姿で双眼鏡を右手に持ち、左手にはデジカメを持った変質者ルックの男が……


すぐさま、俺は携帯を片手に110番に連絡しようとする。これは市民の義務だ。


「ちょっと、ちょっとそこの君、待ち、ちょっと待って。誤解や、誤解!」


俺の行動に気づいた変質者がいきなり慌てて近寄ってくる。


「近寄らないでください。あと、言い訳はぜひ警察署の方でお願いします」


「いや、どんだけセメントやねん、君。ちょっと話くらい聞いてや。そんな急いた人生送っても、なんもええことあらへんで」


変質者としゃべるゆとりを持つほど、俺の人生はゆったりとしたものじゃない。

親しげに俺にしゃべりかけるな、このド屑が。


「あの、すいません。僕、母に変質者とはしゃべっちゃいけないって言われているので」


そうだ、うちの両親は俺が中二的な発言、行動を繰り返すのを心配して、躾けはきちんと行っているのだ。


「ちょ、ちょっと誰が変質者やねん。いくら山やんでも失礼にもほどがあるで」


あれ、山やん?どっかで聞いたことのある声と関西弁……


「山やん?すいません、ちょっとサングラス外してもらえます?ついでにマスクも」


「いや、なんや、それはやめて。そんなサングラスとマスク外せなんて僕恥ずかしいやん。そんなんプライバシー権の侵害やで」


「うっせ~!黙れ!つべこべ言わずにとっとと外せ!」


俺は変質者を押さえつけて、そのサングラスとマスクを奪う。


「わ、わっ、ちょっとやめいや、変態!このセクハラ男!!」


誰が変態だ!誰がセクハラ男だ!お前と一緒にするな。



「ふう……まさかとは思ったが、やっぱり大輔か。お前、一体何やってんだよ……」


想像した通り、長崎大輔……

いや、本当にお前何やってんだ……

学校で俺のことを支えてくれる良い奴だと、友達だと思ってたのに……


「ちょ、勘違いするなや。僕は別に何も変なことしてへんで。僕は可愛い妹がいじめられてへんか、心配でちょっと覗いとっただけやで」


いや、お前が長男でお姉さんはいるけど、下に弟、妹いないって言ってなかったっけ?


「いや、そもそもお前、妹どころか弟もいないだろう。つまらない嘘をつくな!」


「ちゃうねんって、血は繋がってへんけど、妹おるねん」


え、知らなかったけど、最近親が再婚したとか……?

そういう人には言えない複雑な家庭の事情があったの?


「本当に?」


「おう、最近知り合ったねん。僕に会うたびにお兄ちゃんって呼んで挨拶してくれる皆良い子たちなんやで」


「それは妹じゃねえだろ!お兄ちゃんって言うのは一般的な年長者に対する敬称だ!!」


「うわ、すご、今日の山やん、めっちゃ切れ切れやん!」


お前が一方的にボケまくるからだろうが!こっちがボケる暇もないわ。


「お前の方こそ、普段言葉のキャッチボールがとか言ってただろ。一人でボールを明後日の方向に投げんな。それはそれとして、とりあえず警官をだな。」


「いや、ほんまに堪忍や、堪忍。さすがに今回警官呼ばれると不味いねん。金やったら、僕が払える限り、なんぼでも払うから」


今回呼ばれると不味いってなんだよ。これまでに通報されたことあるのか?

それと同級生相手に金で解決しようとするな。


「って、お前、本当に常習犯かよ。大丈夫、まだ未成年だから酷いことにはならないから。今ならまだやり直せるから」


「山やん、頼む、見逃して、見逃してえや!もうせえへん、もうせえへんから!!」


俺は長崎大輔の話を聞くことにした。



「おう、きりきりとしゃべれ。なんでお前、こんなところでそんな変態ルックでいるんだよ」


「いや、それはやな。実は、僕な、妹、弟が欲しかったねん」


「おまわりさーん!!今すぐこいつを豚箱にぶち込んでください!!!」


「ちょっと、ちょっとさっきから山やん、いくらなんでも酷過ぎるで。ちょっと人の話は最後までちゃんと聞きなさい!」


こいつ、何言ってんだ?冤罪もくそもないだろ。こんなの現行犯逮捕だ。


「その、僕な。山やんにも話したことあるけど、僕な。お姉ちゃんしかおらんねん。しかも上に4人」


「いや、山やんって言うのはやめてもらえませんかね?性犯罪者と友達って学校で噂されると恥ずかしいし」


「ちょっと、ちょっと人の話を途中で遮んなや。それでな、お姉ちゃんたちは僕のこと、めっちゃ可愛がってくれねん……でもな、僕、たまにはお兄ちゃんぶりたい時もあんねん。そんな時や、そんな時……ここの幼稚園の子たちは、僕のことお兄ちゃんって呼んでくれたんやで。あの時の僕の喜び、君にわかるか?そうやねん、あの時、僕お兄ちゃんって呼ばれて、父兄愛に目覚めたねん。僕のことをお兄ちゃんって慕ってくれる子たちを僕は守らなあかんねん。山やん、後生や。わかって、わかってや!」


「おう」


「ああ……山やん、やっぱり君は僕の友達や。僕のこと理解してくれんやな。ありがとう、ほんまに僕はええ友達もったで」


「おう、お前が嘘をついてるのだけはわかった。そもそも、今日は保護者もイベントに参加してるだろうが。いったい、お前は誰から誰を守ろうとしてんだ?お前が守りたいと思ってる妹、弟には保護者がついているぞ。もういい、友達としての最後の忠告だ……自首しろ。今なら未成年だし、名前も顔写真も出回ったりしないから」


「山や~ん。なんでも言うこと聞くから、今回ばかりは堪忍して~!!」


なんでも言うことを聞く?

こいつを見逃せば、部員確保ができる……


本当に言うことを聞くとは信じきれないが、二度と幼稚園なんかに近づかないことと、新しく創設する部に入部することを条件に今回ばかりは見逃してやってもいいかもしれない。こんなやつでも、今まで俺のことを何度もフォローしてくれたしな。


それに俺たちがこいつを見張れば、児童たちも安全だ。

こいつも豚箱に行くのは避けられる。

これはお互いにWINWINの関係かも知れない…


俺は今回創設しようとしている部の話をこいつにしてみた。大輔も乗り気だ。


「本当の自分を理解してもらえるなんて、めっちゃ素敵やん!!本当の自分をさらけ出しても、誰からも批判されないとか、それって天国やん!!」


大輔に対する処分はいったん保留だ。

俺はとりあえず、大輔を幼稚園の側から引きずっていき、しばらくの間、絶対にここには近寄らないように約束をさせた。

明日から、また学校が始まる。大輔はこれまで無遅刻、無欠席。とりあえず、今日を乗り切れば、こいつが罪を犯す心配はしばらくないだろう。



俺は、ゴールデンウィーク明け、長崎大輔を5人目の部員候補として麻耶に紹介した。


大輔にどういった秘密があるのか、俺は昨日の幼稚園前での出来事について説明した。


大輔は慌てて俺の口を塞ごうとしたが、俺が携帯を取り出そうとすると、静かに審判の時を待った。


大丈夫だ、大輔。そんなに慌てるな。お前にどんな趣味、性癖があろうと、お前が性犯罪に手を染めない限り、それも個性さ。麻耶なら、麻耶ならきっと笑って受け入れてくれるさ。


坂梨麻耶は、ちょっと呆れた顔で深くため息をついてた後に大輔に告げた。



「失せろ、このロリペドショタ野郎!!二度と私たちの前にその薄汚い面を現すな!!」


ペッ!!


地面に唾が吐かれた。

麻耶は俺以上にセメントだった。

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