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第20話 山田と4人目の部員

「僕を見ないでくれ~!」


そう言って泣き叫ぶ善人にカツラを装着させ、俺はブティック内にいる人たちに謝罪した後、最寄りの喫茶店に連れて行った。


まだ善人は泣き止む気配がない。


店員も、泣き止む善人に気を遣ってか注文を取りに来るそぶりも見せない。


喫茶店にいるおばさんたちもこちらを見て、小声でボソボソとしゃべっている。


「やだ、あれをちょっと見てよ。あの女の子泣いてるわ」


いいえ、男の子です。


「男1人に女の子2人……あれは間違いなく修羅場よ」


修羅場かも知れませんが、男2人に女の子1人です。


「あの男、浮気していたのね。あんな可愛い女の子を連れているところを見ると、あの泣いている子を捨てたのよ、きっと。許せない……女の敵ね」


居たたまれない……

なんで俺が悪者になってるんだ?




「さあ、泣き止んで。あなたに涙なんかは似合わないわ」


そう言って、麻耶はハンカチを手渡す。


いや、泣かせたのあんたでしょ。いきなりプティックでカツラを取って、女装趣味のことを公衆の面前で強制カミングアウトさせたからでしょうが。



「気が利かないわね、山田君も智子をちゃんと慰めなさい」


智子~?


「麻耶、そいつは善……」


「山田、黙りなさい!!あなた、智子を泣かせるつもりなの!?」


泣かせたのはお前だろうが!お前にだけは言われたくない、お前にだけは!


「智子、あなたってとっても可愛いわよ。自信をもって」


いや、確かに今の善人の姿は可愛いし、よく似合ってるとは思うけど、麻耶のやつどうするつもりだ?


と言うより、今の姿に自信を持たせたら、親御さんが泣くぞ。



「あの男の子って酷過ぎ、浮気しといて、泣いている元彼女を自分の彼女に慰めさせるなんて」

「本当に鬼畜ね、高校生くらいだろうけど、日本の風紀はここまで乱れてたのね」

「うちの子も将来心配だわ……空手でも習わせようかしら」


おばさんたちもう止めて!俺のHPをゴリゴリ削らないで!

俺は何もしてない、悪いのは俺じゃなくて、麻耶のやつです。



「智子、少しは落ち着いた?」


「うん、ハンカチありがとう」


あっ、智子で別にいいんだ。


「気にしないで」


「あの、僕……」


「こらっ、智子。可愛い女の子が僕なんて言わない。僕っ子が許されるのはアニメとマンガの中だけよ」


いつまでこの小芝居は続くんだ?

おばさんたちの視線で俺はもう結構限界に近いんですが。



「うん、あのね私……こういう服装が好きなの」


「ええ良く似合ってるわ。素敵よ」


「わかってくれるの?」


「どこからどう見ても素敵な可愛いらしいお嬢様よ、智子って。恥ずかしがることなんて何もないわ」


「ありがとう……」


なんだか、諸悪の元凶が良い話に持って行ってるぞ…

おいおい、善人騙されるなよ。そいつは今さっき、お前を泣かせた女だぞ。



「ねえ、山田君、智子ってとても素敵。そう思わない?」


お前、さっき黙ってろと言ったよな?急に話を振ってくるなよ。


「うん、よく似合ってるぞ、善……」


「山田ー!!」


「うん、よく似合ってるよ、智子……」


「山田君……」


頬を赤らめながら、俺の方を窺う善人……そのさまは実によく似合ってる。

いや、俺はノーマルだから、頬を赤らめるな。



「心配しないで、智子。私たちは誰にもしゃべったりなんかはしないわ。だから安心して」


「ありがとう……」


「そんな感謝なんかしてくれなくていいわ。私たちはもう友達でしょ?」


「うん、友達……」


麻耶の圧倒的なコミュ力、いつのまにやらお友達になっている。こいつ、なんで姫百合でボッチになったんだ?これだけのコミュ力を持ってるのに……っていうか、諸悪の元凶からここまで話を持っていくとは詐欺師かこいつ。


相手の辛い時に優しい言葉をかける、これ、結婚詐欺師の常とう手段やで……

麻耶ったら、本当に恐ろしい子……



「辛かったわよね、本当の自分を誰にも打ち明けられないなんて」


「……うん」


「大丈夫よ、私も山田君もあなたを批判したりはしないわ」


「……ありがとう」


「もう、本当に智子ったら可愛い。まるでお人形みたいね。それでね、あなたに素敵な提案があるの」


「提案……?」


麻耶のやつ、ここでそう話を持っていくのか……

うん、こいつを怒らせるのは今度からよそう。

気づいたら、袋のネズミになっていそうだ。


「そうよ、素敵な提案よ。あなたも私たちもどちらも楽しい素敵な提案よ」


そう言って、麻耶は俺たちが今作ろうとしている部の話を始めた。



「でも……私……」


「大丈夫よ、この部に入る子たちは誰もあなたを差別したりはしない。本当のあなた自身を見てくれるの。いいえ、それだけじゃないわ。私とあなた、同じプティックで買い物をしているのよ。きっと服装の趣味も合うはずだわ。私なら、あなたの服装をアドバイスできる。もっとあなたを素敵なお嬢様にしてあげられるわ」


善人が素敵なお嬢様か……最終的にはモナコにでも連れて行く気かこいつ。

蜘蛛マヤの糸に絡み取られるかのようにヨシトはどんどん追い込まれていく。

蜘蛛の糸と言えば、お釈迦様が罪人の救済のために垂らしたものだけど、麻耶の場合はそのお釈迦様を誘惑したマーラにしか見えない。


「素敵なお嬢様……?」


「ええ、素敵なお嬢様よ。智子ってとっても可愛いけど、まだまだお化粧が苦手ね。そういうところも初心で可愛いけど。大丈夫、私がちゃんと教えてあげるわ。ね、楽しそうでしょ。部室にいっぱい可愛い服を集めておいて、みんなでファッションショーでもしましょ」


「私……入部します!」


えっ、本当に入部しちゃうの?麻耶はあんたのカツラを奪って、公衆の面前で恥をかかせた女だよ?

本当にいいの?あんまり深入りしない方がいいんじゃないの?

今なら、善人……まだ間に合うぞ?


「やったわ、さすがは智子。ねえ、何をきょとんとしているの山田君?早く部長として智子に挨拶しなさい!」


部長俺なの?提案者は麻耶だったんだから部長は麻耶じゃないの?

それにいったい、俺にどう反応しろって言うんだ?


しかし、麻耶のやつ、善人を一度も男の子扱いせずにきれいに話をまとめやがった。

俺がここで善人のやつを男の子扱いでもして、再び泣かせたりしたら、麻耶は俺のことを社会的に殺そうとしかねない。ここは、麻耶に乗っかるべきだ。


よし、決めたぞ。


「ふはははは!!歓迎しよう智子!これまでその麗しい美貌を隠し続けた男装の令嬢たる君に祝福あれ!」


「男装の令嬢?」


「ええ、そうよ。なかなかお上手な言い回しかもね。普段の学園内にいる時のあなたは偽りの仮面を身に着けた男装の令嬢よ。誰にも知られちゃいけないの。その美貌を悪い魔法使いが妬んだりするかもしれないから。でも、私たちと一緒にいるときは安全なの。おばあ様から受け継いだこの真実を見抜く魔眼を持つ私と、世界最高峰の魔眼使いである山田君があなたを守るわ、そして蟲を好かれし心優しき王女もいるの。そして私たちと一緒にいるときや部室にいるときにだけ本当のあなたの美貌は表に出すの。辛い時間を過ごし続けて、もうやく魅力を表に出せるあなたはさしずめ灰被り姫、そうよ!シンデレラよ!」


「坂梨さん、ありがとう、ありがとう……」


善人改め、智子は麻耶に陥落されてしまった……



「よくわからないけど、良かったわね」

「そうね、どうやら仲直りしたようね」

「よかったわ、きっとあの子たち演劇部で今度やるお芝居の話でもしてるのよ。それで揉めてたのね」


「「「本当に良い話ねえ……」」」



俺たちの部に昆虫王女インセクトプリンセスに続いて、灰被姫シンデレラが仲間に加わったようだ。


どうしてこうなった……

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