第五話 ギルドにようこそ!
異世界に飛ばされてから二日目、俺は目が覚めた途端、見慣れない天井があり、びっくりしてしまった。だが、すぐに思い出した。
「ああ…異世界に飛ばされたんだっけ…。幸平、無事かなぁ?」
幸平のことを心配するも、何一つできない。兄として失格だ。ただ、弟の無事を願うだけなんだから。
「……ふぅ。」
「どうしたんですか?ため息なんかついて。」
「ふぉ!?」
いつの間にか、メイナがそばに来ていた。メイナは少し笑っている。
「朝ですよ、洗面台で顔を洗って食堂にでも行ってください。」
「あっ…はい……。」
「………何かあったんですか?」
「……………………」
「……………………」
しばらく無言の状態が続く。このままでは気まずいので答える。
「いや…弟の奴、どうしてるのかなって。」
「弟さんがいらっしゃるのですか?」
「ええ。幸平っていうんです。幸平も異世界に飛ばされたんですけど、何しているのかさっぱりで…。」
「そうなんですか……。弟さん、早く見つかるといいですね。」
「ありがとう…ございます。メイナさん。」
「ああ、それと敬語使わなくていいですよ。私のことはメイナとお呼びください。」
「うん、わかった、ありがとう。メイナ。」
「どういたしまして。」
また、メイナが笑顔をこっちに向ける。メイナのおかげでずいぶん楽になった。さて、食堂にでも行くか。
一階の食堂にはいる。よく見ると人間が一人もいない。メイナみたいに人間みたいなのもいるが、このギルドにはおれみたいな完全に人間はいなさそうだな。
「おっ!あいつが新入りみてえだな!」
「すげえ!本当に人間だ!」
「うわ!ちょ…ちょっと!?」
俺の周りにどんどん魔物が集まってきた。顔が骸骨の魔物、龍みたいな魔物、完全に見た目が鷲の魔物、いっぱいいる。魔物たちは俺の体をべたべた触る。気持ち悪い。
「おっす!仲良くしていこうぜ!」
「先輩のおれがぜひ教えてやるよ!」
「やめろ。お前が教えたらこいつ、だめになっちまうぜ。」
「なんだとお!」
「「「「「ハハハハハ!!!」」」」」
(し……しんどい……。)
朝からにぎやかなギルドだ。俺がこの空気についていけるようになるのは一体いつだろうか。
やっと解放され、俺は机にぐったりとしていた。本当にしんどい。今日から依頼受けんのに、大丈夫か?俺?
「大丈夫?新入りさん。」
顔を上げるとそこには女性が立っていた。背中に白い大きな翼が生えていて、まるで天使のようだ。
「え…ええ、まあ。」
「ならよかった。」
そういうとその女性は俺の向かい側の席に座った。
「私はアネル。よろしくね。」
「安田真平です。よろしくお願いします。」
「ヤスダ・シンペイ?ずいぶんと珍しい名前ね。」
「あっ、姓が安田で、名が真平です。」
「へえ、姓から名乗るなんて珍しいわね。」
そういえば異世界だもんな。こちらも外国と同じように姓と名が反対なのか。注意しなくちゃな。それにしても、翼が気になる。
「あの、その翼…。」
「ああ、私、魔人なの。」
「魔人?」
聞いたことない言葉だ。訊かないのもだめなので訊こう。
「あら、魔人を見るのは初めて?」
「はい、そうなんです。」
「じゃあ、説明するわね。魔人というのは人間と魔物から生まれた子供を指すの。そして、魔人は人間の外見と魔物の外見をしているの。この翼みたいにね。」
そういってアネルさんは彼女の翼に手を添える。
「ついでに私はお母さんが人間。お父さんがピュアホーク(後から聞いた話だと、ピュアホークというのは白い鷹の魔物らしい)なの。外見が違うものだから、よく人間にいじめられていたわ。私は毎日泣いていた。そして自分がこの容姿に生まれたのを憎んだ。ナイフで自分の翼を切り落とそうかと思った時もあったわ。」
アネルさんは懐かしむように思い出を語る。悲しそうな表情は見せない。
「そんな時、魔王様に出会ったの。魔王様はこういったわ。ただ一言、「一人か?」と。わたしがだまってうなずくと続けていったわ。「なら、わしの仲間にならないか?わしの仲間になるとお前は一人じゃないぞ。」ってね。そして、私は言ったの。「私みたいな魔人を本当に受け入れてくれるの?人間は信用できない。」って。そしたら魔王様は笑いながらいったの。「お前みたいなやつはわしの仲間にたくさんいるわい!」なんてね。実際仲間になってみると本当にたくさんの魔人がいたわ。そして、誰一人として、私をいじめなかった。そのときは嬉しくてつい泣いちゃったわ。」
そしてアネルさんは再び俺のほうを向いて言う。
「だからね、私はギルドのみんなが大好きなのよ。あなたも例外じゃないわ。だから私が言いたいことはただ一つ。死なないでね。」
もちろんだ。幸平を見つけるまでは死ねない。
「無駄話に付き合わせてごめんね。それじゃ!」
そういうとアネルさんは去って行った。去っていく姿はとても美しかった。そしてしばらくぼぅっとしていると朝食をまだ食べていないことを思い出し、あわてて注文しに行った。
朝食も食べ終わり、依頼でも受けに行こうと思い、受付に向かう。昨日と同じくメイナがたっていた。
「メイナ、依頼受けたいんだけど。」
「わかりました。安田様は初めて依頼を受けるので、簡単なものにします。そうですね……[宅配を手伝ってほしい!]という依頼はどうでしょうか?」
宅配便の仕事を手伝えってことか…どこに宅配するんだ?
「内容を教えてくれる?」
「はい。ここから南に約10キロ離れたところにアルマゾーンというそこそこ大きめの町があります。そこの宅配便で働いているホヘイさんの依頼です。内容は≪宅配の数が多すぎて困っている。手伝ってくれ!≫とのことです。」
なるほどね。こっちの世界の宅配便は忙しいんだな。
「じゃあ、これ受けます。」
「わかりました。この紙を依頼主に届けてくださいね。」
「はい。」
俺はそういってその紙を受け取る。読めないが、おそらく依頼書だろう。
「では、気を付けて!」
「いってきます!」
俺は、依頼書を持ち、ギルドを出た。初めての依頼を受けるため俺はアルマゾーンへ向かった。
―……南ってどっちだ?