第三話 魔界で魔王に会う!?
扉をくぐると、緑いっぱいの草原が広がる……と思っていたおれが馬鹿だった。木々は枯れてるし、あたりは夜だし、なぜか常に雷が鳴ってるし……ゲームで言ったらラスボスが出てきそうな雰囲気だな。魔王とか。
「セラ。ここはどこだ?」
「魔界ね。魔王が近くに住んでいるわ。」
やっぱりいるのかよ。というか魔王の領域とかやばくないか?
「ここから離れたほうがいいよな?」
「ううん。むしろ魔王にあってほしいの。目的のために。」
ふざけんなよ。殺されたらどうするんだ。
「セラ。俺はお前を信用したわけじゃない。むしろお前のせいでこんなところに連れてこられたんだ。お前の目的に興味はないし、俺の目的は幸平を探し出して元の世界に帰ることだ。だから今は魔界から出る方法だけ教えろ。」
俺はセラに言った。しかしセラはあっさりこういった。
「無理よ。魔界から出る方法なんてない。あるとしたら魔王に頼むしかないわね。」
なんだと!?じゃあ余計に魔王に合わなくちゃならない理由が増えたじゃねえか!魔王に会うとかとんでもない!!
「魔王に会うと殺されるんじゃないか?俺はまだ死にたくない。」
「それはないわ。ただ、魔王の手助けはしなくちゃならないかもね。」
「なら、悪者の味方をするっていうことなのか?」
「あのね、真平。」
セラは続けて言った。
「魔王っていう名前を聞いただけで悪者と決めつけないで。あなたの世界では魔王イコール悪者っていう方程式が成り立っていたからかもしれないけど、こっちでは違うの。」
「じゃあ魔王イコールいい奴なのか?」
まあ、確かにこういうパターンもある。だが、セラは否定した。
「違う。わからないの。」
「わからない?どういうことだ?」
セラはこの質問には答えてくれなかった。ただ一言だけ、こう言い放った。
「あなたが見つけて…。」
いまいち意味が分からない。すぐにセラは話題を戻した。
「そんなことより、今は何もできないし、魔王は簡単に人を殺さないわ。うまくいったらそこで生活できるかも。」
そうだったらありがたいな。確かにほかに行くとこなんてないし、とりあえず、俺はセラに案内してもらいながら魔王城を目指すことにした。
「セラ。あとどれくらいだ?」
歩いても歩いても魔王の城が見えない。少なくとも50キロは歩いているだろう。だが、景色は一向に変わらない。
「まだ半分も行ってないわよ。」
これでまだ半分も行っていないとか。気が遠くなるな。それにしても、歩くだけでは全くつかれない。なぜだ?ふつう50キロも歩いたら、休憩しても全くおかしくない距離だろ。だけど俺は休憩したいどころか息一つ乱していない。自分の体力が化け物並みになってるぞ。こんなことを思いながら進むと、何やら犬みたいなやつが。だけど首は三つある。
「セラ、あれはなんだ?」
「あっ、あれはケルベロス!?注意して!こいつは!」
するとケルベロスという魔物はいきなり俺に襲いかかってきた。
「かなり強いわ!」
「いうのおせえよ!」
三つの首が俺に噛みついてくる。だけどのろいな。こんなスピード簡単によけられる。俺はすぐによけ、一番右の首を切り落とす。
ストン!
なんだ?いま、切った感覚がなかったぞ。簡単に右の首が吹き飛ぶ。もたもたしている間にもう二つの首を切り落とした。そして、ケルベロスはいとも簡単に絶命した。
「す…すごい……想像以上だわ………。」
だが、俺はすぐに後悔した。今、目の前には首のないからだが三つ。まだ紅い血がドクドクと流れている。
「死んだ…いや……俺が……殺…した。」
そうだ。殺してしまった。一つの命を俺は簡単に奪ってしまったのだ。魔物だから…いや、魔物だって一つの命だ。その命を奪う権利なんてない。俺はなんてことをしてしまったんだろう。
「どうしたの?」
「……なあセラ、ここでは魔物を殺すのが当然なのか?」
「そうよ。それだけじゃない。荒れ狂った盗賊も殺すのが普通よ。」
普通……。なぜだ?殺しが普通?いや、そんなことはありえない。あってはならないんだ。俺はケルベロスの死体をいれる墓を作るため、地面に穴を掘り始める。
「何してるの?」
「供養してやらないと……。」
そして俺はケルベロスの墓を作った。といっても、ケルベロスの死体を地面の中に入れただけだが。
「ねえ、真平。なんでお墓なんか作ったの?死体なんていっぱいあるでしょ?」
「おかしいんだよ。」
「おかしい?」
「殺しが普通なんて世界、あってはならない。」
日本では人一人殺すだけで逮捕。殺す人が増えると死刑になることさえある。俺はニュースでいつも殺害をしていることを聞いているだけだ。だが実際殺すとわかる。殺すなんてことはおかしい。
「真平が住んでいた世界で人が殺されることなんてなかったの?」
「あったさ。だけど、それはやってはいけないことだ。俺も、幸平も、人を殺したことなんて一度もない。」
だが、俺は魔物を殺してしまった。たった今。
「………いいなぁ。」
やっぱりいけないことなんだってセラも理解してるんだな。それがわかっただけで少し安心した。
しばらくするとようやく建物が見えてきた。
「あれが魔王城よ。」
でかいな。城というにふさわしい大きさだ。門の前には二人の門兵が立っている。人間かな……?
「なんだ貴様?」
「え、え~と。」
「貴様人間だな?人間には死あるのみだ!!」
「ちょっちょっとぉ!?」
いきなり襲いかかってきた。だけど動きが遅い。これぐらいなら簡単によけれる。俺は門兵の背後に立った。
「な!?どこに行った!?」
だが、剣を抜くことはできなかった。また殺してしまうかもしれないから。とりあえず、全力でキックをかます。
ピシッ!ピシピシッ!!
「グ……。」
その威力に俺は驚いた。なんと鎧にひびが入ったのだ。
「おのれっ!」
剣で切っていたので俺はしゃがんで避ける。剣が頭上を過ぎたところで、俺は少し手加減しながら腹のあたりにパンチを入れる。
ドスッ!
「ガ…ハ……。」
その門兵は腹を押さえて随分苦しそうだ。だけど腹を押さえながら、俺にまた向かってくる。
「くらええええええ!!!」
「やめろ!!!」
威厳のある声が聞こえてくる。誰だ?
「はっ!し、しかし…。」
「よせといっておる!命を粗末にするでない!」
「………はっ。」
俺は声のするほうへ顔を向けた。なんと人間。しかも老人がそこに立っていた。
「さて、そなたは誰じゃ?何をしにここへ来た?」
「魔王に会いに来たんだ。」
「なぜじゃ?」
「ここにしばらく生活させてほしい。行く当てがないんだ。」
「……フ、フハハハハハ!!」
突然笑い出した。おかしな人だ。
「おもしろい!気に入った!ついてくるがよい!!」
……なんだかよくわからないんだが?俺はとりあえずその老人の後をついていき、魔王城の中へ入った。
中の雰囲気はそこまで悪くないな。魔王の城とかいうから城の中は真っ暗だと思っていた。だけど、これはむしろゲームとかでよく見る普通の城に近い感じがする。一緒に歩いている老人が声をかけてきた。
「おぬしは魔王に会いたいといっておったな。」
「ええ、まあ。」
「わしが魔王じゃ。」
「ええっ!?」
魔王って人間かよ!聞いてねえぞ!!というか予想外すぎるだろ!!!
「すまない。訳あってわしは人間が大嫌いでのう。門兵には「人間が来たら追い返せ、抵抗したら殺せ。」と命令してたのじゃ。あいつらを悪く思わんでくれ。」
あれ?いきなり襲いかかってきたような…?まあいいか。しばらくすると、老人もとい魔王は大きい扉の前で立ち止まった。合言葉でもあるのか?
「ええと確か右ポケットに鍵が入っていたはずなんじゃが…。」
鍵かよ。合言葉じゃなかったことに残念だな。
「おお、あったあった。じゃあ開くぞ。」
扉がギギギッという音を立てながら開いた。中は長い机が一つと、机の周りに十脚の椅子が並んであった。
「好きなところに座るがよい。」
魔王は一番奥の椅子に座った。俺も座れと言われたので一番手前の椅子に座る。
「さて聞きたいことがあるんだがいいかね?」
「どうぞ。」
さて、一応敬語でしゃべっておくか。あまりしゃべるの得意じゃないんだけどな。
「では、君の名前は?」
「安田真平です。」
「安田君か。では安田君。君はどこから来たのかね?」
いきなり来てほしくない質問が来た。セラに聞いても答えてくれないししょうがないから本当のことを言うか。
「信じてくれないと思いますが、僕は別世界から来ました。」
「ふむ…。君は王都界という言葉をご存知かね?」
「いいえ、存じません。」
「そうか。なら信じよう。」
思ったより簡単にいったな。しかも信じるのかよ。ある意味で恐ろしいな、この魔王。
「では、次だ。なぜ、門兵との戦闘時、その剣を抜かなかったのだ?」
これは即答できるな。素直に答えよう。
「門兵を殺したくなかったからです。」
「なぜだ?私の命令とはいえ、お前を殺そうとした奴らだぞ。」
「殺そうとしたから殺す。その理論には理解できません。どんなものでも大切な命ですから。」
実際、ケルベロスを倒し、身をもって感じた。
「……フ、フハハハハハ!!いい!じつにすばらしいぞ安田君!おぬしとは仲が合いそうじゃ!」
「光栄です。魔王様。」
「よせよせ。わしには敬語を使わんでよい。魔王様なんてむしろ呼ばれたくないわい。」
「そうか。それはありがたいな。」
魔王はしばらく笑っていた。少なくとも殺されることがないと知り、俺は心底ほっとした。
みなさんこんにちは。もっさです。このたびはこの小説を読んでくださり、本当にありがとうございます。m(_ _)m
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