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第9話 爪が伸びたら早めに切ろう

 私は、どうしていつもこうなんだろう。新藤君には悪いことをしてしまった。ちゃんとはっきり言うべきだった。彼がなぜ必要なのかを。あー。私のバカバカ……。

「もしもし、ユキちゃん聞こえる? 」

 耳にした小型のイヤフォン型無線から声が聞こえる。

「うん、ハルちゃん聞こえるよ」

「たぶん、渡した敵に関する情報のレポートは読んでくれてると思うけど、今日の相手はちょっと厄介なのよね……。動きが速いのよ」

 私にとっても動きが早いのは厄介だ。なぜなら、私がノロマだからである。じっくり考えるのは得意でも突発的に動くことがあまり得意ではないのである。

「一応は読んだけど……これは厄介だよね。まぁ、タイチ君が作った新型のメガネとこの武器が頼みってことかしら」

 私は、不安そうにハルちゃんに返事をした。

「ユキさん、その新しいエアガン、出る玉はスタンガンのような電気弾です。ただ、一発しか弾は込められないなんだけど。でも、一発当てれば敵の動きは鈍くなるはずなので頑張って」

 タイチ君は、冷静に必要なことを私に説明した。

「わかった。とりあえず、頑張ってみる」



 体が妙に痛かった。首の辺りが特に。目を開けると暗い空が広がっていた。ここは、どこだろうか。

「目を覚ましたか……」

 目の前には、女の子が立っていた。女の子……? ああ。そういえば、さっき暴漢に襲われていた女の子をひとり助けたような気がしたけど。ああ。この子だ。

「よかった。無事だったんだ」

「何を言っている。助けた気になっているようだが、おまえは私の大事な食事の時間を邪魔したんだ。くそ。結局食事の時間がとれなかったじゃないか」

 その女の子は、目を真っ赤に光らせて俺をにらんできた。俺はそのまなざしに一瞬血の気が引いた。

「おまえは、この仕事が終わったらデザートとして食べさせてもらうからな。覚悟しておけよ」

 またしても、鋭い目でこちらを見てきた。いよいよ、俺の命も終わりなのかもしれない、そう悟ってしまった。


 いきなり、どんとした音が響いた。そして、奥の方にあるドアから一人の女性が現れた。高校の制服に黄色いカーディガン、黒っぽいウェリントン型のメガネをかけ、右手にモデルガンのようなものを持っていた。

「現れたか……」

 赤い目をした女の子はつぶやいた。

「私が送ったメッセージがどうやらそちらに届いたみたいだな。ふん。どうせ、罠だとか深読みして現れないかと思ったんだがな」

 赤い目をした女の子は手をあげた。

「さあ、かかってこいよ。私を倒してごらんなさい。この速さについてこれるならね! 」


「ユキちゃん、メガネのスイッチを押して!」

 ハルちゃんが指示を出してきた。

「うん、わかった」

 メガネのスイッチをおすと、緑色の線と、デジタルカメラに使われる顔認識機能のような画像が、メガネのグラス上に現れた。

「そのメガネは、ナイトゴーグルの役目と敵の認識に役に立つ。ただ、敵のスピードがメガネの性能を上回ったら効果がないから注意してくれ」

 

 通信の最中、敵は、私に向かって猛突進してきた。私は、防御の構えをとったが、相手の蹴りのほうが格段に速く、ガードをする前に脇腹に高速の蹴りをくらい、横に吹っ飛んでしまった。

「どうした。こんなもんか。ははは。」

「ユキちゃん、大丈夫!しっかりして! 」

 私は、意識が朦朧としていた。やっぱり、私にはこういう格闘戦は向いていない。うすうす実感はしていたけど、やっぱりあまり向いていない。残念だけれど。

「ハルちゃん、大丈夫だよ。一応まだ立てるし戦える」

「わかった。とにかく体制を立てなして。そこ、屋上だったよね? 」

「学校の屋上だよ」

「じゃあ、危険だけど、その屋上の四隅のどこかで構えて待ってみて。そうすれば、敵の攻撃のパターンが四方八方ではなくなるハズだから」

「わかった。やってみる……」

 私は、今自分の位置から一番近い屋上の隅に走った。

「なんだ、逃げ回って。もう降参か!」

 敵は、私を挑発しているらしい。だけど、そんな手にはのらない。私の出来ることをしなくちゃ。



 目の前で、華奢な女の子が頑張っている。俺なんかよりもずっとか弱そうな女の子が、格闘している。今しがた鋭い蹴りを一発脇腹にもらっている。それでも、立ち上がり体制を立て直そうとしている。

 俺は、どうだ。目が覚めて、正直頭はガンガンに痛いし、体だって思うように動きそうにない。でも、目の前の女の子よりも俺の方が断然動きは良いはずだ。俺はこんな所で見ていていいのだろうか。いや、良いんだ。俺にはどうすることもできない。平均男の宿命なんだ。目立ってはいけない。そっと、その辺に平均的に存在していればいいんだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。隅っこにたどり着いたけど、これからどうすればいいの」

 ハルちゃんに聞いた。

「タイチ曰く、敵は素早いけど、直進的な動きに速いだけで、横への移動はあまり速くないらしいのよ。てゆか、レポートにそう書いたはずなんだけど。だから、その地点からは、まぁ、ざっと三方向くらいからしか敵さんは突進できないはずなのよ。だから、確率3分の1。一応、メガネ上にはその予測ルートが表示されるはずだから、どれか一つに合わせてみて」

 正直言って、これは賭けになってしまった。メガネの性能よりも速く敵は動くらしい。遅いと言っても横の動きにも対応できていない。現在メガネの性能の中で発揮している機能は、今の所ナイトゴーグルだけだ。あとは、モデルガンの標準につかえるくらいであった。


「そろそろ、おしまいといこうか!」

「3分の1……3分の1……敵は今、右にいるから……真ん中! 」


 俺は、立ち上がり逃げることを考えた。そういえば、さっきあの女の子はあのドアからやってきた。普通に考えたらあそこが出口だよな。よし、あそこから出よう。今は、敵さんもあの子に夢中だ。申し訳ないが、逃げさせてもらおう。

 俺は、まっすぐそのドアに向かって走り始めた。走ってる最中に、横を見た。赤い目をした女の子がなにかを相手にむかってしゃべっている。どうやら、相手にとどめを刺すつもりらしい。長い爪を両手に出していたからだ。

「あれ、喰らったら痛いとかそんなレベルじゃないよな……」


 森本ユキは、真ん中を選択したが不正解だった。真ん中ではなく、左側から敵は突進してきた。

「あ……」

 敵は、長い爪を森本ユキに向かってのばし、お腹に突き刺そうとしていた。

「危ない!」


 声が屋上に響いたその瞬間、敵は一瞬の虚を森本に向かって許した。その一瞬で森本ユキのメガネは反応した。ピピっとなった瞬間、苦手であったとっさの動きが出た。モデルガンを構え、敵に照準をあわせ引き金を引いた。

「ぐはッ……! 」

 敵には、当たったが、どうやら直撃ではなかった。敵の動きは鈍くはなったがどうやら瀕死になるほどのダメージは望めていないようだった。

「ユキちゃん当たったの!? 」

「当たったは当たったんだけど……どうやら倒せてはいないみたい」


「くそッ……体がしびれて動けない。これでは、素早くは動けないか。しかし!相手もそれは同じ。私が有利に代わりはないわ! 」

 敵は、夜空に吠え再び森本ユキの元へとは歩いていった。


「どうしよう……」

 私は、どうしていいのかわからなかった。正直、白兵戦は今の私には不利。そして、苦手。手元の武器なんて……この下敷き式シールドしかないし。


 俺は、声をかけてしまった。なんとか、弾は当たったらしいが相手はまだ生きている。あと、一撃で相手は倒せそうなのに、あの女の子はとどめを刺さないでいる。いや、多分刺したくてもさせない状況なのかもしれない。さっきの蹴りが効いているんだろう。もう、今回だけだ。今回だけ。今回だけ助けないと。死んでしまうところなんて見たくないし。うん。


「はぁ、はぁ、まさか私がこんな小娘に苦戦するとはな……」

 森本ユキに近づいてきた。

「待て!」

 赤い目の敵と華奢な黄色いカーディガンをきた女の子の間に一人の冴えない平均的な容姿の男が割って入った。

「なんだ……貴様か。おとなしくしていろ。コイツの後のデザートなんだから。お前ごときに私は倒せないさ」

「でも……この人は死なせない」

「ふん。まぁいい。これで、お前もろともそいつも殺してやるよッ! 」

 敵は、両手の長い爪を槍のような形にし、勢いよく俺に向かって突いてきた。

「ごめん、これ借りる! 」

 そういって、俺は森本ユキから下敷きシールドを借りて起動させた。長い爪はその淡い光とともに現れたシールドに向かって突き刺さった。刺さった瞬間、俺はそのシールドを勢いよく横に放り投げた。その瞬間、相手の長い爪は激しい音とともに折れた。

「ぎぇぇぇええええ!」

「あ、これも貸して! 」

 俺は、森本ユキからモデルガンをなかば強引に受け取り、相手に向かっていき、目の前で爪が折れたことにより悶え苦しんでガードががら空きの敵の脳天に、モデルガンの銃口を握って、グリップの部分で勢いよく縦に振り下ろした。


 敵は、そのまま地面に突き刺さるようにして頭を打った。俺には、ワンバウンドさせるくらいの勢いで殴ったつもりだったが、実際はそんな力も無く、ただ単に屋上の冷たい床に倒れただけだった。


 こうして、俺は初めて敵を倒した。自分の力は平均的で、どこにでもいるその辺の世間知らずの高校生だと思っていた俺が、やればできるじゃんとか、なんとなく調子にのった瞬間だった。


 

 ただ、こんな敵は序章という言葉がピッタリだった、というのは後から気づくのであった。



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