白昼世界
「ねぇ、ねぇってば」
私の体を誰かがさすっていた。その軽い横揺れが私の脳みそを刺激した。
「ご、ごめん、ちょっと頭が痛いの……だから、ちょっと揺らさないで……」
私は、必死に抵抗した。
「ええーもう。早くしないと、たーくん帰っちゃうよ」
たーくん……誰ですか……私は思っていた。
そして、私が次に目を覚ましたときには、道路の真ん中であった。あたりは、なんだか白い絵の具をぶちまけたとしても描けないような白さで、その風景の真ん中に私は、仰向けで寝ていたのだ。
頭の痛さは不思議と無い。そもそも、私はさっきまで頭がいたかったのだろうかというような気分であった。わたしは、赤色のカーディガンに、ブラウス、スキニーパンツという格好をしていた。パンプスのヒールは低いのだけれど。なんとなく、30代の女子が着ていそうな雰囲気だった。そもそも、女子ってあなたと、言いたくなるが、女の子はいつまでたっても女の子なのだ。たまに、あめ玉をくれるあの素敵なおばあちゃんも、永々の女子である。
私は、立ち上がって辺りを見回してみた。やはり、どう見ても真っ白な世界が続いている。しかし、目の間には道路が一本伸びている。どこにつながっているのだろうか。
「仕方ない……歩くか」
何も無い世界に、いや正確には道路しか無い世界に、コツーン、コツーンとヒールの音が響いていた。そのテンポのいい足取りに、なにかしらの動物が反応して出てきてもいいんじゃないかとさえ思った。しかし、予想に反して生物らしきものは現れなかった。
そんな予想はことごとく外れるというのに、予期せぬものが現れた。
「あー」
私は、思わずそんな声を出した。目の間に、鳩のような物体が横たわっていた。
「あー」
私は、また声をだした。そして、私は何も見てませんよという雰囲気を醸し出しながらその横を通りそのまま過ぎ去った。
「きょぇぇええええええええええ」
化け物が発するような恐ろしいうめき声が、私の後ろで聞こえた。私は、思わず振り返ったのが、特になにもなかった。そして、後ろにあった鳩の死骸が私の方を向いていたのであった。
しばらく、歩いていると、今度は牛が横たわっていた
「いったい、なんなのよ……」
私は、またしてもその牛の横を何も見てませんよという雰囲気を醸し出しながらその横を通った。そして、過ぎ去って少ししてから私は振り返ってみた。しかし、牛の死骸になにも変化はない。ただ、道路に横たわっているだけである。
「これは、これで拍子抜けだわ」
そして、しばらくまた歩いていると、いよいよ現れて欲しくないものが現れたのだった。人間が横たわっていたのだ。
「あー。きてしまいましたか」
私は、大きな声でつぶやいた。もしかしたら生きているのかもしれないと私は思ったのだ。しかし、そんな予想はあたるわけもなく、お腹のあたりから血が溢れ出ていた。
姿を見る限り、学生、のような雰囲気だった。中学生か高校生。制服を着ていた。そして、男の子だろう。髪の毛が短髪であった。筋肉質という感じではなく細身で、体脂肪率も平均を余裕で下回るようなガリ男であった。
そんな、血すら出そうも無い男の横を私は通った。しかし、今までとは違い、私はなぜだかその男の子の顔が見たくなったのだ。
私は、通った道を引き返して、横たわる男の前に仁王立ちをした。なんだか、今さっき私が殺したような雰囲気であった。
私は、思い切ってその男の子の頭を両手で持ち上げた。思いのほか重くはなくすんなり持ち上がった。私は、男の子をひっくり返した。
ゴロン、という音とともにその少年はこちらを向いた。目は閉じていた。顔はまだ生気に満ちあふれている感じがした。少なくとも死んでいるという印象は受けなかった。
そして、私はこの男の子をどこかで見たことがあるような気がしたのだ。随分と前の話だ。私は、この男の子を知っている。
私は、その男の子とどこかで会っていると思った。どこだろうか。そして、ひっくり返した衝撃でズボンのポケットから学生手帳らしきものが道路に落ちていた。私は、恐る恐るの学生手帳に手を伸ばした。
手帳をあけてみると、その名前に覚えがあった。
「新藤タケル……」
そして、次の瞬間だった。いきなりその男の子が目を開けた。いや、そんな可愛い子猫が、眠い目を擦りながらあけるような目の開け方ではなく、なにかの呪いにかかったインチキ占い師のように鋭く目を見開いた。
「オマエガ、コロシタンダ。オマエガ、コロシタンダ。タンダ。」
そして、彼の頭は上下に激しくゆれ、けっけっけと意味不明な言葉を発しながら私の方を見た。そして、私の首を両手で力強く握った。
私は、殺されると思った。しかし、不思議と怖さがなかった。どうしてかはよくわかないが。そして、私の意識は遠のいていった。
グキッ。




