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誰も助けてくれないのだから  作者: めんだCoda


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第37話 墓守り人

「私を…眠りに…?」


「はい、そうです。詳しい話は、私の家でしましょう」


 そう言うと、タイキは遠くの砂浜へ顔を向ける。ここから数十メートル離れた砂浜には、黒服の人間が数人、こちらに向かって歩いてきていた。


「皆さん、急いで私のあとについてきてください」


 タイキはシャーランを抱き抱えると、早足に歩き出す。


 マハラ、スカイ、ケイシ、タク、ルイはタイキの後に続き、ジャンは後ろを振り返り、こちらに向かって歩いてくる黒服の男達を見る。


「なぁ、このまま君の家に行っても、どっちみちあいつらにつけられて、居場所がバレてしまわないか」


 ジャンの言葉が聞こえているはずだが、タイキはシャーランを抱え真っ直ぐ前を見たまま、何も答えなかった。


 皆、不安に襲われたが、今は何も手がないため、仕方なくタイキの後についていく。


 タイキは砂浜を出るとその先の森の方へ向かって行き、鬱蒼とした木々の中を迷うことなく進んでいく。


「ここ、ガオガイ先生の家の周りよりも、更に木が多いし薄暗いな」


 ケイシが、目の前に飛び出ている木の枝を手でどけながら、ぼんやりそう呟くと、タイキは笑みを見せる。


「ああ、あの家に行ったんだね。あそこも気に入っていたんだけれど、少し学園に近過ぎて危ない目にもあったから、仕方なく出たんだけどね」


「えっ、あの家は、前はタイキさんのものだったんですか?!」


「そうだよ。ま、そんな話も中に入ってから。着いたよ」


 おどろおどろした多種多様な木々の間に、ほんの少し、空き地のような何もない地面が丸い形にあった。


「着いたって……何もないぜ??」


 ぽかんとするスカイ。タイキはシャーランを地面に下ろすと、何もない空き地に向かって、手のひらを向ける。


 そして、何か言葉を話すと、まるで透明のカーテンでも引いてあったかのように、空き地から木の家が現れた。


「——なっ、なんだ、どうなってるんだ!?」


 一同は驚いてその場でたじろぐが、タイキは再びシャーランを抱き抱え、さっさと入り口の扉前の階段を上る。


「早く。この家を見られてはいけない。急いで、中に入って」


 タイキにせかされ、皆は慌てて家の中に逃げ込む。


 タイキは家の中に入ると、ソファにシャーランをおろし、全員が家の中に入ったのを確認し、また手を上げ何か口にする。


 家の中では何も変わりはなく、ケイシが不安そうに尋ねる。


「この家はさっきのように、また見えなくなった…のか?」


 タイキは小窓から外を覗くと、口元に笑みを浮かべる。


「たぶんね。外からこの家は見えなくなってるから。ほら、さっきの黒服の奴らも、俺らを見失って必死に探してるだろ」


 言われて皆が小窓に集まると、確かに外では黒服の男らが何か相談しながら、辺りを見回していた。そして、この辺りを諦めたのか、更に森の奥へと入って行き、遠ざかりやがて見えなくなった。


「君の…それは、魔術みたいな何かなのか?」


 ジャンは不思議そうに、タイキを上から下まで全身じっくりと見つめる。


「これは、俺らニーカ族の血が流れている者のみ使える一種の力みたいなものだよ。はるか昔、シュトム様が神様にお願いして、俺らの祖先に下さった力でね。俺らニーカ族が危険から回避するため、身を隠すためにのみ、使えるんだ」


「それって…、君もシャーランのように神様によって、つくられた種族ってことか?」


「いやいや、違うよ。俺らは君達と同じ人間だよ」


 タイキはくるりと後ろを向き、壁際までいくと、床に置かれている小さな木のキャビネットの前にしゃがみ込む。

 そして、引き出しを開け、中から紙のようなものを取り出した。


「これ、見たことないかな?」


 タイキが持っている紙は、黄ばんでおり古そうだった。タイキは、部屋中央にあるテーブルに紙をそっと開いておき、マハラ、スカイ、ケイシ、ジャン、タク、ルイは周りに集まった。


「あれっ、この紙の感じと文字って…、確かガオガイ先生の家で見た伝記の——?!」


 マハラは驚いてタイキを見たあと、紙に顔を近づける。

 ジャンもマジマジと紙を見つめたあと、手を顎に当て記憶を辿りだす。


「確か、ガオガイ先生は、あの本はこの小屋に住んでいた者が密かに記していたもので、セントラル王族にこの本の存在を勘づかれてトラブルになったことがあったと…。もしかして、あの伝記は君が書いたものなのか?」


 ジャンがタイキを見上げると、タイキは微笑む。


「俺だけじゃない。ニーカ族の先祖が、代々密かに記してきたものだよ。王族から守るために隠したんだが、伝記の続きを書くためにも、その先は破いて持ち逃げしたのさ。もし、あの伝記の続きを知りたいのであれば、ここに——」


「続きなら、知ってるわ。ケイランお兄様に聞いたから。……もうお兄様に聞くことはできないけどね…」


 ソファに横たわるシャーランは、暗い瞳でタイキを見つめた。

 タイキは、シャーランの顔や服についた赤い血の汚れを無言で見つめる。


「——何もお力になれず、申し訳ありません…」


「別に、あなたは関係ないもの。謝る必要はないわ」


 シャーランの表情は変わらず暗く、家の中にも重たい空気が流れる。


「我ニーカ族、誓約の元に力を使う」


 マハラ、スカイ、ケイシ、ジャン、タク、ルイは、無言のままシャーランを見つめる。


 ソファに横たわったシャーランが、タイキを見つめながら、小さい声で話しかける。


「さっき、手を上げたとき、そう言ったんでしょ?」


「そうです」


 無言で互いを見つめ合うシャーランとタイキに、マハラは焦りを感じる。


「え、なに…2人にしか分からない言葉とか…?」


「ううん、マハラ違うわ。さっきの言葉は第5外国語よ。だから私は分かったの」


「第5外国語??えっ、じゃあ彼は、第5外国語が話せるってこと?」


「そうだよ」


 タイキは部屋の真ん中のテーブルの前まで歩いて行くと、シャーランの顔を見る。


「第5外国語は、もともとシュトム族のみで会話するための母語だったんです。なので、シャーラン様は本来であれば、話せていたはずです」


「シュトム族の母語……?授業でそんな話は聞かなかったけれど…それに、聞いても全く思い出さないし、本当に私はこの言葉を話していたのかしら」


「記憶が戻れば、また話せるようになると思います。大丈夫ですよ」


 タイキがシャーランに向かって微笑むと、シャーランは少し恥ずかしそうに身を縮こませる。


「ちょ、ちょっと待ってくださいっす」


 タクが瞬きを何回もしながら、タイキの顔を見つめる。


「第5外国語が、シュトム族の母語……??第5外国語取得を目指して勉強に励むのは、将来就ける仕事と収入が格段に良くなることが約束されているからっす。シャーランには申し訳ないっすが、シュトム族の言語を学んでも、実用性も使用用途もないっすよね。なのに、なんで第5外国語取得を最高峰として、押しすすめるんっすか」


「まぁ不思議に思うよね」


 タイキはそう言うと、目の前のテーブルを人差し指でトントンと叩く。


「第5外国語がシュトム族の母語であることは、一般的には伏せられている。ただし、第5外国語をマスターし試験に合格した者には、最終的には事実は明かされ、またシュトム族であるシャーランが生きていることをも知ることとなる。それと同時に、強制的に秘密保持契約をさせられ、その先どんな仕事についても、漏らさず真っ当に生きていれば、生涯安泰を約束されている。問題は、一言でも事実を漏らせば処刑ってとこかな」


「…秘密保持契約って…どことっすか…」


「なんとなく、予想はついているんじゃないか?王族とだよ」


 タクは苦悶の表情を浮かべながらも、続けてタイキに尋ねる。


「そこまでして、なぜ第5外国語を学ばせるんっすか?」


「おそらく、シュトム族復活のときのために利用するためだろうな。シャーランが記憶を取り戻し復活した際、シュトム族の母語を話せる者がいれば、シュトム族の母語を知らない他国の人間に話の内容を聞かれることなく、シャーランと会話ができる。他国は危険だと、印象操作だってできるからな。王族はシュトム族を他国に奪われることを、何よりも恐れているからな」


「なんだよ、それ……いい暮らしのためにって努力しても、結局、王族の私利私欲のために利用されるのがオチってことっすか…」


 タクはガクッと肩を落とし、そのまま床に座り込んで頭を抱えた。


「道理で…飛び級して入園するおれへの待遇に手厚くなるわけっすね……おれは、一体何のために今まで勉強してたんだ…」


 落ち込むタクに、ルイは隣にしゃがみ背中を軽く叩き励ましながら、タイキに尋ねる。


「君らニーカ族は、どこで第5外国語を学んだんだ?」


「俺らニーカ族は、生まれてからすぐに、親から子へとシュトム族の母語について口での伝承が始まるんだ。だから、子供のころから話せるようになるよ」


「あなた達ニーカ族と私達シュトム族は、そんなに近い存在だったの」


 シャーランはソファに横になったままタイキをまっすぐ見つめ、手でソファをギュッと掴む。


「……私を眠らせにきたっていうのは、どういうことなの…?」


 シャーランがか細い声で尋ねると、タイキはソファに横たわるシャーランの前に行き、ひざまずき頭を下げる。


「はい。私達ニーカ族は、シュトム族様が眠りにつき100年後無事に目覚めるためにお守りする役目、シュトム様より命じられ墓守り人としてお側にいさせていただいております。そして、私はシャーラン様がご記憶を取り戻すキッカケとなろう物を、今も大事に所持しております」

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