48 旱天(上)
冊子を開く。
一年生の、雨が降らない頃だった。
「どういうことだ、榊」
青く晴れ渡る空を、弓道着姿の北原先輩が睨む。
「三週間、雨がない」
「それ、私に言う?」
的を持った榊先輩が眉を寄せた。
「全国的な旱魃だったら、何も言わん。ただ、この場所だけだ」
「御尤も」
榊先輩は的を片付け、俺へと合図をする。
「鳴海。水を撒いてもいいぞ」
「はい」
水を撒くぞ、と一言断ってから、垜へとホースで水を撒く。指で潰したホースの口からは扇状になった水。陽光を弾いて白く煌めく。
「水不足になるんですか?」
北原先輩に訊ねれば、首を横に振られた。
「まだ、わからん」
じっと、北原先輩が榊先輩を見る。
「でも、お前の領域だということは、わかる」
何とかしろ、と言う北原先輩に、榊先輩は顔をしかめた。
「私だって、なんでもかんでも知っているわけじゃない」
「探り方は知っているだろ」
「この暴君」
榊先輩の皮肉を、北原先輩は鼻で笑う。
「暴君ついでに命令してやろう。解決して帰って来い」
「むう」
不服そうに声を漏らすが、榊先輩は拒絶しない。
水を撒いたホースを片付ける。垜の整備終了。
「鳴海」
榊先輩に呼ばれ振り向く。当代書記係の彼女は〈紫苑の森〉へと歩いている。
「お前も来るか?」
「……いいんですか」
書記係見習いがついて行っても、邪魔にならないのか。
一瞬、不安が胸をかすめた。
が。
「何事も経験だ。行って来い」
弓道部の部長たる北原先輩に、頷かれてしまった。
「危険を感じたら、殴ってでも榊を止めろ」
「……さすがに、それはできませんよ」
「冗談だ」
ふっと、北原先輩が唇の端を緩める。
「行って来い」
彼の言葉が背中を押す。
「行ってきます」
野草生い茂る地面を蹴って、榊先輩の背中を追った。




