21話 言い訳するぐらいなら負けるな!
後半も半分を過ぎた頃だろうか。川上監督が動いた。
2トップの一人沢入と疲れの見える右サイドハーフの平野を下げ、主にDHの麻野とユーティリティな和泉をそのまま右サイドに入れる。
フォーメーションで言うと3-6-1の様な形になる。ダブルボランチの前にワンセンター。それに両サイドハーフにトップ下といった感じだ。
狙いは当然ながら守備固めではない。
守備のエキスパートの麻野を入れたことで右サイドに入った和泉を少しでも前に送り、サイドでの起点を追加することだろう。現在、司か氷高しかボールの収まり所がないため、向こうの狙いも集中し易くなっている。それ一度をリセットさせるためだ。また、2トップ時よりも守備の負担を減らし攻撃に専念して貰いたい意図もそこにはあるはずだ。
2列目というより1.5列目。10番というより9.5番への移行だ。
押し込まれている状態が続きロングカウンター一本だけでは、返しの矢としては威力が無さすぎる。ましてや司が引いて受けに来るようでは、相手への脅威も半減する。ゴールまでの距離が遠すぎるのだ。
だったら一気に勝負できる位置に司を置いて、何とかそこにボールを運ぶんだ方が可能性は高い。最も、この場合はどうやって運ぶかが問題になってくるのだが、そこは氷高と和泉、サポートの八神に頑張ってもらうしかない。
絶対的なターゲットが離れた以上、そこに繋げなければただ状況を苦しくしただけになってしまう。
☆☆☆
緊迫した時間が過ぎていく中、またしても当たり前のように決定的なピンチが訪れる。
こぼれ球がアーリンドにわたり、ゴールエリア僅かに外での一対一のシーン。
スピードに乗った敵を前に、意を決して前に一歩足を踏み出した瞬間に違和感を覚える。
『出ちゃ駄目だ』
前に出てコースを切るというセオリーを無視した指令が脳から送られる。
グッと立ち止まり腰を下ろした瞬間、アーリンドの右足から強烈なシュートが放たれる。
ゾクッと悪寒が走る。身の危険を感じるときなどの戦慄に近い感覚が襲ってくる。
狙ってきた場所は顔の右側。まさに手も足もそうだが顔も出ない場所だ。
耳を掠めて過ぎ去ろうと瞬間に、かろうじて肩を上に投げ捨てるように振り上げる。
『バムッ!!』
――重い音と共に右肩に衝撃が走る。わずかに後ろに押し出されるような感覚と反動で円を描く右腕の力を利用して、後ろを振り返る。
体には当たった――。だが、枠外に行くほどでは無かったはずだが……。
? あれ、ボールがない? どこだ?
「楠!! 上だ! 右斜め前!!」
司の声に導かれるように、上空に視線を移す……と、そこにはまたしても絶望的な状況が待ち構えている。
落下地点に走り込み、背面跳びのようにジャンプするリオナード。
――!? バイシクル? あれ?オーバーヘッドだっけ?
今まさに大技炸裂という場面にも関わらず、俺はそんなどうでもいい疑問が頭に浮かんでいた。
とにかく見た目は派手だが、こういうのは現実には威力はそれほど高くは無い。
それよりも打点の高さと打ってくるタイミングがいまいち取りづらいこと。そして、なによりコースが予測出来ないことが一番厄介なのだ。
……案の定、ドライブ気味で俺を通り抜けていくボールに飛びつくことが出来ない。
――やられた。
諦めとも言える感覚の中。ただボールの軌道を見送るその先で、垂直ロケットのように飛んでくる物体が目に入る。
「んがぁぁぁぁぁ!!」
ダイビングヘッドのような形で勢いよくボールを弾きだしたソレは、筋肉の核弾頭不破だった。
……まさにエ○モンド○田! アンビリバボー! 知らなかったよ、お前が溜めキャラだったなんて――。
こぼれ球を和泉が拾って司に楔のパスを出したのを確認して、不破に駆けつけ肩を叩く。
マジ助かった! 今のはちょっと感動した。お前こそフランケンの中のフランケンだ!
「サンキュー!! ナイスクリア不破! 1点以上の価値はあるぜ今の!」
「ん、んふ」
「慰労は後だ! 不破ライン上げるぞ!」
西が不破に右手で大袈裟に誘導する。西のテンションが上がってきてるのバレバレだ。そして不破の微笑みがちょっと不気味だったのは触れないでおこう。
☆☆☆
幾度のカウンターの応酬は、司のキープから氷高へのアシストで1点をもぎ取る形で終演した。
この後は相手も試合をクローズさせる方針に切り替えたため、そんなに派手な攻防は起こらずゆっくりと試合終了へと向かっていった。
とはいえ、終了間際にコーナーからだめ押しを決められてしまたのは余計だが。
最終スコアは2対6。
実力的には当然の敗北だが、アニメ的に言えばまさかの敗北とも言える。もう少し拮抗出来た可能性はあったはずなので大敗と言ってもいいだろう。きっとこういう試合は編集にカットされて無かった事にされてしまうんだろうな。
勝てば得るものも多いが、負けたからと言って何も得られなかったなんてのは暴論に過ぎる。でも、実際の選手以外にはそれも言い訳にしか取って貰えないのかもしれない。
相手の選手一人一人と握手をしながら、そんなことを考える。
スタンドにも挨拶を終え、ロッカールームへと向かう。
ドカッと腰を下ろし、疲れ切った西や不破、越野や八神といった防人部隊と労を分かち合う。
「6つかぁ……。だいぶやられたなぁ」
「早めに流れ持ってかれたのがマズかったっすね。難しくしちゃった感があります」
「出だしだな、やっぱ。ゲームに入ってく所は気をつけんとダメだな」
「でも駄目な部分と通用する部分が分かっただけでも収穫」
八神の言葉に一同頷く。
1試合で6失点……。ディフェンスからしたら崩壊という言葉がまずちらつく。
それでも……、いや、だからこそ未熟な部分や修正する箇所が明確に浮き彫りにされた。
「これからだな?」
西が強い意志を言葉に乗せたのが伝わってくる。
「ああ。これからだ」
みんなの声がまとまる。課題が多すぎると、逆にやってやるよという反骨心が沸いてくる。
後半のノーガードの殴り合いの様な展開をこちらの得点まで凌ぎきったのは決して小さくない成果だ。単純な我慢比べをプロ相手に競り勝ったのだ。
この部分にのみ関して言えば勝ったと言えなくもないから、少しだけ溜飲を下げれたし、自信にもなった。
「――これからだ」
もう一度、みんなの声が重なる。
細かい反省は監督から試合のビデオを見ながら行われるだろう。だから今は、この悔しさと情けなさを次に活かす様に強く心に刻み込まなければならない。
グチグチと言い訳する位なら、端っから負けなきゃいいだけの話だ。足りないから負けた。ただそれだけ。
だいぶ心も鍛えられたと思う。いつかの就活に関して『血統』や『才能』、『コネ』などを上手くいかない理由にしてた俺とは思えないほどだ。
胸の中にらしくない熱さが残っているのも原因かもしれない。試合の中でアドレナリンが多く出たためかもしれないな。
やがて川上監督が来て、軽いミーティングをして会場を後にする流れとなる。
マイクロバスで帰るのが基本だが、父兄が来ている人などもいるから帰宅方法は自由でいい、と告げられる。出発は30分後。それまでに報告だけは忘れるな、と言ってロッカールームを出て行く。
……さて、どうするかな?家族の方だと多分姉の運転になるだろう。基本ペーパー免許の慣らし運転に付き合うのも怖いしな。おとなしくバスで帰ったほうがいいかもしれない。
荷物をまとめながらぼんやり考えていると、
「楠はどうする?」
と、西が声を掛けてきた。
? はて。何をどうするって?
ストック切れました(泣)。
序章もあとはアディショナルタイムといった所なので、耐えられれば良いのですが……。




