第1章その4
見覚えのない場所。トムはひどく心細くなった。両の頬を、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「お父さぁん・・・」
父親に助けを求め、何度も何度もその名を口にした。当然返事がある訳もなく、途方に暮れたトムがその場にへたりこんでいると、軽やかな足音が近付いて来た。
「どうしたの、君」
足音の主がトムに声をかけた。ハッとしてトムが顔を上げると、そこには、黒い髪にスラッとした容姿を持つ、歳の頃16から17位の若者が立っていた。背中にはつるで編んだ大きなカゴを背負っている。
「ここら辺では見かけない子だね。どこから来たの?」
若者が声をかける。優しい声色に少しほっとして、トムは若者の問いに答えた。
「トネリ村から」
「ああ・・・」
トムの言葉に、若者は得心した様子でうなずいた。
「あちらの世界から迷い込んだんだね。君の村から来た人を、何人か覚えているよ」
若者の言うことは、トムにはよく理解できなかったが、自分が迷子になったことだけは、はっきりと認識することとなった。トムは若者に向かって叫んだ。
「僕、家に帰らなきゃ。お父さんに叱られる。帰り道を教えて!」
涙で顔をグシャグシャにした少年の必死な問いかけに、やや困った表情を浮かべながら、若者はこう答えた。
「帰り道は君の心が知っている。君自身が見つけるしかないんだ」
「???」
若者の話は、時々トネリ村の最長老から聞く村の歴史話の様に難しかった。トムの頭の中は、疑問符でいっぱいになっていた。
若者は、混乱して座り込んだままのトムの頭にそっと右手を置くと、こう提案した。
「あせっても仕方ない。僕の村に行こうよ」