えなんか知らんアプリが入ってんだけど
「冴木」
いやぁ、今日も太陽が眩しいぜ。
「おい冴木」
なんだ珍しい肩なんて叩きやがって。
どうせ隣の陰キャ仲間である遼太郎。
お前はロクでもな──
「冴木」
視線を戻すと、そこには担任である三井先生の冷ややかな視線があった。
あ、やべ。
「は、はい」
「珍しく授業を聞いていないのは訳があるのか?
そんな肘をついて」
「す、すみません」
「そんなに退屈なら、出て行ってもいいぞ」
普通なら、ここですみませんと謝るのが王道。
というか、いつもの俺ならそうしていた。
ただ、なんか今日は⋯⋯ムシャクシャしてた。
「おい、冴木!」
「先生が帰れって言うんで。
もちろん、今先生から言質はとりましたので」
ガラガラと開けて、俺は直ちに教室から出ていく。
「はぁ」
「冴木!」
追いかけてくる先生だが、俺は有無を言わさず下駄箱で履き替え、そのまま猛スピードで下校した。
*
「っはーあ」
──やっちった。
耳からはお馴染みマルドのBGM。
視線には向かいにあるゲーセン。
「っはは」
欠席遅刻なんてやった事もないのに、なんでだろうなぁ。
それに、教室を抜ける時、周りの陰の者を見つめる冷笑加減が苦しい。
「思い出すだけで泣けてくる」
ポケットから隠して持ってきているスマホを取り出し、イヤホンを付ける。
紛らわす。
折角のサボりってやつなのに。
「はぁ」
サムライマルドを食いながら、自分を振り返る。
ただの高校デビューに失敗した高校一年生。
そうこの俺が冴木大雅くんだ。
色々含めて全部が中の下。
俺自身に特別な能力なんてない。
ヲタクくんではあるから、一応普通に接されてはいるが、確実に周囲から陰キャラ認定。
だが別にダメージはない。
むしろ自分の場合は仕方ない事だ。
そう。
何しろ見事に高校デビューを盛大に失敗したからだ。
「やっぱりマルドにはエレキだよなぁ!」
あ、大声で発してるわけじゃないぞ?
「はぁ」
駄目だ。
最近、なんだかメンタルがやられている。
勉強も躓いてきているし、イジメも若干⋯⋯というか、多分陰湿にやられているような気もするし、部活動も入部こそしているものの、まぁほぼ幽霊部員だ。
まぁ、詰まるとこ、俺の人生でとりあえず困難な壁というものに初めてぶつかっているということは自覚している。
今も頭には大学の受験とか、お母さんの期待とか、なんかまぁ色々乗っかっているからか、どうしてもメンタルがキツイ。
何が言いたいかって言うと、まぁ⋯⋯とりあえず最近限界だった。
──それだけだ。
「ゲーセン行くか」
所持金は一応まぁ、ある。
「小学生の時はコレも結構上手かったんだけどな」
洗濯機とか、ヌビートとか、連打の達人とか。
今では流れてくるリズムを追えず、ミスが連発中。
「⋯⋯クッソ」
やる気なくなった。
「はぁ、なんでだろ」
折角サボってゲーセンに来てんのに、メンタル食らいすぎてまともにプレイもできん。
外に出ると喫煙所に昼間っからたむろしている不良がいる。
さすがにこのご時世にカツアゲなんてないだろうから、そそくさ通り過ぎる。
「太陽くん、アンタ眩しいよ」
信号待ちにいつ見上げても、ただ一つ焼こうと照らす太陽。
と、渡ってしばらくの所。
そこがよく俺の隣の席の遼太郎と話している公園がある。
「あぁー!」
ベンチにもうどうにでなーれと寝っ転がる。
⋯⋯うつ伏せで。
「ペッ!!」
砂利がやべぇ。
ふぁっ○ゅー!
「⋯⋯ログインボーナス貰ってねぇわ」
アプリを開いた先にあるけつ揺れに悶々としながら、他のアプリも回収を終わらせる。
「げ、」
開くとまーた誰かがネットで喧嘩してる。
無言でSNSを開くと酷いものだ。
「はぁSNSでいちいち文句垂れてるやつも大概だけど、これに返す奴も返すやつだよな」
ネットでコメントをしているやつってまじでどんなやつなんだろうな?
気になって夜しか眠れねぇ。
「⋯⋯ん?」
スクロールしてたら、上からアプリのダウンロード通知。
「なんだ?
俺、なんにも入れてないんだが?」
通知が戻る前に急いで触ると、ストアへと一直線。
「はぁ?」
評価もないし、なんなら作成日は"今日"だ。
⋯⋯んじゃあ今日アップロードしたってことか。
調べてみるも、それらしいサイトも出てなければ、会社も情報が一切出てこない。
「ウイルス?」
DYM?
親ので入ってたけど、いや、でも今までそんなことなかったしな。
「とりあえず⋯⋯やる、か?」
『まおまおたうんず!』
うん。
可愛らしい幼児たちが挨拶をするかのように、開くとアプリ名が聞こえる。
見るとにゅーげーむしかない。
オプションとかはないのか。
「まぁ、普通⋯⋯か?」
いわゆるエインクラフトのようなドット絵と呼ぶべきなのか?
なんだか子供用の感じを見せてくる。
でも背景には街とかモンスターみたいなものが映ってて、何やら普通の感じでもなさそう。
「ゾンビ系か?」
でも俺、こういうの苦手なんだよなぁ。
配分とか、ここはこうじゃなきゃだめ!とか。
俺がただドパガキなのかもしれん。
分かりやすいのがいいのだ。
「あー、百億あったらなぁー!」
人はなんのために働くのか。
その目的は一つに収束されているのである!
そう。
それは──金を稼ぐ為である。
百億でもあったら⋯⋯学生なんてまともに続けなくても、家で課金三昧だよなぁ。
「それに色んな女の子ともキャッキャ出来るし」
⋯⋯イキった。
悪い。
多分どうせ緊張して喋らなくなるのが関の山だ。
小説やアニメで出てくるモブ君、俺はお前と一緒だ。
こんな俺みたいな奴に金をあげたら、ロクな事に使わん。
もっと世界平和の為とかに使えよなぁ!?
「一人妄想が激しかったな」
妄想世界を突き破ったのは親友の電話。
「もしもし」
『おーい大雅!』
「悪い」
『ったくどうしたんだよ?
珍しいじゃんか?』
「なんか、まぁ勢いというか、なんつーの?」
向こうから溜息が盛大に返ってくる。
⋯⋯だよな。
『先生家に電話入れるってよ?』
「げ、マジで?」
『さっき俺に宿題とか必要なもの俺に渡してきたから。
多分本当。
義務教育じゃねぇんだから気をつけろよー?』
「⋯⋯悪い」
『まぁいいって事よ。
それより今どこにいるんだ?』
「公園。
まだそっちは昼だろ?」
『まぁなぁ』
あ、そうだ。
「なぁ」
『ん?』
「確か遼太郎ってゲームヲタクだったよな?」
『ん?おぉん。
まぁ人様に言えるほどじゃないけどな』
「アプリなんだけど、まおまお────」
その時、クソ暑い日差しの中で、ありえんほどの殺気と脊髄の凍った感覚が全身を駆け抜ける。
『大雅?どうした?』
「え、ぁ、あぁ」
『なんかゲーム探してんのか?
言ってくれたら調べるぞ?』
はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯なんだ?
今の。
思わずスマホを見る。
──まじでウイルスかなんかじゃないのか?
「い、いや⋯⋯FPSなんだけど」
『わざわざ俺に聞くようなことか?
大雅のほうがそっちは得意じゃなかったか?
俺はエロゲーばっかりだからな』
「だ、だよな!悪い」
『なんか歯切れ悪いな⋯⋯まぁいいわ。
とりあえず、夕方届けるから』
「あぁ、すまんな」
『高校唯一の陰キャ同盟だ。
⋯⋯今度奢れよ?』
「世界を敵に回しても、俺はお前見捨てない」
『やめろ。
公園で言うセリフにしては恥ずかしすぎる』
「『っははははは!』」
『じゃまたな』
「──おう」
通話終了の画面。
「⋯⋯⋯⋯」
数秒睨みつけたあと、俺は腰が抜けたようにベンチに座り込む。
なっ、なんだ?
スマホを見つめる。
「まじでなんだ?
なんかこのアプリの事を説明しようとしたら、とんでもねぇ殺気が⋯⋯」
──お、俺、変なことしたのか?
無意識なのか、それとも得体のしれない恐怖からなのか。
俺は、そのアプリを開いた。
可愛らしい声。
その声が、今では少し冷や汗が流れてくる。
『まおまおたうんず!』




