第1話:『感情を殺した僕の、静かな教室』
これは僕が小学生の時に、いじめられてた当時の話です。もちろん名前は僕の名前や。いじめてた人の名前なども、違います
1. 泣かないための呪い
涙を流すと、彼らは喜ぶ。
怒って声を荒らげると、彼らはもっと楽しそうに僕を囲む。
だから、僕は感情を殺すことにした。心に分厚い鉄の蓋をして、何も感じないロボットになるんだ。そうすれば、これ以上傷つかずに済む。そう信じて、僕は毎日、小学校の教室に通っていた。
僕が小学5年生のときのことだ。
「おい、拓海。これ、お前がやったんだろ」
5時間目が始まる前の休み時間。僕の机の前に、クラスのリーダー格だった健太が立ちはだかった。その手には、泥で真っ黒に汚れた習字の筆が握られている。
「……え? 違うよ、僕は触ってない」
僕が慌てて首を振ると、健太は楽しそうにニヤリと笑った。
「嘘つくなよ。お前が放課後に習字室の近くにいるの、みんな見たって言ってるぜ?」
健太が後ろを振り返ると、取り巻きの男子たちが「見た見たー」「拓海がやったんだろー」と口々に囃し立てる。彼らが嘘をついているのは分かっていた。でも、クラスの空気が一瞬で「僕が犯人」という形に染まっていくのが分かった。
2. 死んだ魚の目と、引き裂かれた自由帳
「違う、本当に僕じゃない……!」
必死に訴える僕の声は、彼らの大きな笑い声にかき消される。
健太は僕の机の上に置いてあった自由帳をひったくると、パラパラとめくって、僕が家で一生懸命描いてきた大好きなロボットの絵を見つけた。
「うわ、何これ。下手くそ。こんなの描いてるから、人の筆を汚すんだろ」
ビリッ、と残酷な音が教室に響いた。
僕が毎晩、宝物のように少しずつ描いていた自由帳のページが、無惨に引き裂かれる。
「あ……やめて、お願いだからやめて!」
思わず涙がボロボロと溢れ、声が裏返った。それを見た健太たちは、待ってましたとばかりに顔を輝かせる。
「ギャハハ! 泣いた! 拓海が泣いたぞ!」
「赤ちゃんみたい、ダっさーい!」
彼らは引き裂いた紙を細かくちぎり、僕の頭の上から紙吹雪のように降らせた。
その時、僕はハッと気づいたんだ。僕が泣けば泣くほど、彼らはもっと喜んで、もっと酷いことをする。僕の涙は、彼らにとって最高のご馳走なんだ、と。
胸の奥が張り裂けそうに痛かった。でも、僕は溢れ出る涙を無理やり袖で拭い、ギュッと奥歯を噛み締めた。そして、目から完全に光を消し、人形のように健太たちをじっと見つめた。
「……何だよ、つまんねえの。もう泣き止んだのかよ」
僕が完全に無反応になると、健太は急につまらなくなったように、ちぎった紙を床に踏みつけて去っていった。
3. 誰もいない、息の詰まる静寂
キーンコーンカーンコーン。
5時間目のチャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってくる。
僕の足元には、バラバラになった自由帳の破片が散らばっている。でも、先生は僕の様子に一瞬だけ目を向けたものの、何も見なかったかのように黒板に向かってチョークを走らせた。
周りのクラスメイトたちも、誰一人として僕を見ようとしない。
誰も助けてくれない。誰も、僕の味方になってなんてくれないんだ。
下を向いた視界の端で、またじわりと熱いものが込み上げてきそうになる。
僕は慌てて自分の太ももを、爪が食い込むほど強くつねった。痛みが悲しみを上書きしていく。
(ダメだ。泣いちゃダメだ。ここで泣いたら、あの人たちの思うツボだ。教室では、絶対に泣かない)
そうやって、自分に解けない呪いをかけるように言い聞かせた。
窓の外の校庭では、下級生たちが楽しそうに体育の授業を受けている。
でも、僕のいる教室は、冷たくて、暗くて、息が詰まるほど静かだった。僕が感情を殺し続ける限り、この静寂だけが、僕の心をこれ以上壊さないための唯一の壁だった。
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