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それぞれの夜:朔と望


 望が田中先生の所から戻ってきたので、エントランスを抜けてエレベーターに乗る。


「田中先生と何話してたんだ?」

「ん?さくちゃんの体調管理してやれって」

「保護者か」

「あはは~、心配してくれてたんだよ」


 そんなに体調悪く見えたのだろうか。気にしないようにしていたけど、そんなに言われると不安が大きくなってくる。今日一人で寝れるかな、姉ちゃんはいるけど…………。


「あの、さ………」

「なぁに?」

「今日、泊っていかない?」

「ぇ………?」

「あ、いや、嫌ならいいんだ!今日姉ちゃんいるし、明日休みだし!その、ええっと……ッ!」


 望には望の予定があるだろうに、いきなり何言ってんだろうなあたし!ちょっと部屋で一人になるのが不安になっちゃっただけなんだ!うん、大丈夫、断れるのは想定内!


「いいよ」

「ごめっ……いいの?」

「いいよ。むしろ急にお邪魔しちゃって大丈夫?」

「あ、うん、それは大丈夫!」

「ふふ、じゃあ着替え持っていくね」

「う、うん」


 ちょうど部屋のある階に着いたので、一緒に降りて一旦玄関で望と別れる。


「おっかえりー。楽しかった?深夜徘徊♪」

「ただいま。深夜じゃないし、徘徊でもない。まあ、それなりに楽しかったけど」

「そりゃあよかった」

「あ、今日望泊っててもいい?」

「もちろん。布団は自分で用意してね」

「わかってる」


 程なくして家のチャイムが鳴る。望が来たみたいだ。


「お邪魔します」

「どうぞ」

「望ちゃんこんばんは」

「弓彌さんこんばんは。急に泊ることになってすみません」

「いいよいいよ。むしろ第二の家だと思ってくれて構わないよ!」

「姉ちゃん!」

「あはは、考えておきます」


 全く、姉ちゃんは調子がいいんだから。

 もう時間も遅いということで話もそこそこに、各々お風呂に入ったり寝る支度をした。因みにお風呂は別々だ。姉ちゃんもいるんだ、また望と一緒に入ったら絶対揶揄われるし何より恥ずい!






「じゃあ寝よっか」

「ん。あ、望さ、この前何であたしの布団で一緒に寝てたの?」

「ふぇ!?あーあれね、うん、あれね……」


 あの時は混乱しすぎて結局理由も聞けず有耶無耶になってしまった。さすがに望が何も考えなしに人の布団に潜り込んで、尚且つ抱き着いたりはしないだろう。

 あたしの質問から望はあーとかうーとか唸っていて、かなり言葉に迷っているようだった。もしかして、姉ちゃんが前あたしが夢に魘されているとか言ってたけどそのことか?


「もしかして、あたしが魘されてたから?」

「……うん。さくちゃん、よくなるの?」

「たまにね、っていってもあたしは何も覚えてないんだけどさ。姉ちゃんが言うには、姉ちゃんとか家族が誰もいないときに必ず魘されてるって。その時は姉ちゃんとか母さんが手を握ると良くなるらしくて、気が付いたときにやってたらしい」

「その、どんな夢だったとかは全く覚えてないの?」

「………内容は覚えてないけど、何となく怖いとか哀しいってのは感覚として残ってた。それ以外のことはわかんね」


 目が覚めると夢の内容は覚えてないけど、何となく体がだるいというか心がモヤモヤしていることがある。そういう時、家族に何かあったか聞くと必ずあたしが夢に魘されていると言われた。自分でもそうなる理由は分からない。学校で嫌なことがあった訳でも、特に疲れているわけでもない、思い当たることは家に人がいない、それだけ。

 ただ、今日はあの鏡に映った自分を視たせいで魘されるのではないかととにかく不安だった。


「えっとさ、のぞみが良ければなんだけど、今日こっちで寝ない?」

「………ぅえ!?」

「あ、いや、嫌ならいいんだけどさ!ただ、もしまたあたしが魘されて朝のぞみが隣にいたらまたびっくりしそうで。それだったら最初っから一緒だったらびっくりもしないかなって!」


 何言ってんだコイツってのは、今一番自分で思ってる。だってさ、朝起きたらいきなり顔がいい望が一緒に寝てたらびっくりするじゃん?知らないうちにだったらさらにびっくりするじゃん?だったら、最初から一緒だったら少しは緩和されるじゃん!


「いいよ。じゃあ、今日はそっちで寝るね?」

「う、うん、どうぞ」

「お邪魔しまーす」


 あたしが端によって一人分のスペースを作ってから、布団の片方を持ち上げて望を招き入れる。望は恐る恐るといった感じで、ゆっくりそのスペースに入ってくる。完全に入って寝転がったところで布団をかける。

 布団をかけたときの風にのって、ふわりと望の匂いが香る。今日は同じシャンプーを使っているはずなのに、何故だかとてもいい匂いに感じた。ってあたしは変態か!煩悩を振り払うように、軽く数回頭を振ると望から変な目で見られた。


「どうしたの?」

「何でもない!もう遅いし寝ちゃおう!」

「うん、おやすみさくちゃん」

「おやすみ、のぞみ」


 望に背を向けて体を丸める。あたしは寝るとき大概横向きだ。理由は、横向きの方が安心するから。今は望の方を向くと、眠れなそうだから向かい合わないようにしている。誰かが近くにいるってだけで安心するので、今はそれでいい。

 そう思っていると、背中にぬくもりと柔らかさを感じた。


「さくちゃん、今日はこうしてていい?」


 頭の真後ろから望の声が聞こえた。もしかしなくても、望さんに抱き着かれていますね~。

 いやなんで!?まあ、嫌じゃないからいいけど!?


「いっいいけど?」

「………嫌だったら言って」


 その声が何だか迷子の子供のようで、一瞬言葉に詰まってしまった。言葉に詰まったのはその一瞬だけで、返事はスルッと出てきた。


「嫌なわけないじゃん。むしろ安心するから、このままがいい」

「…………うん」


 安心したような望の声を聞いてから、目を閉じる。

 今日はぐっすり眠れそうだ。




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