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魔犬士  作者: チョコ


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57/60

57 生への渇望

暗雲の立ち込める立之宮の空

今、邪神の全貌が明らかになる


各地の避難場所の地下。そこは、予言の通りに移された隠されし祭壇があった

マカルの分身が下級魔物を引き連れ、生贄の手引きを行うその場所は、ロウソクの灯火だけが光源となる薄暗い空間

「喜べ!!邪神様の復活はもうすぐだ」


その時はもう時期訪れる

下級魔物達の張り詰めた緊張感が部屋中に伝わる

「ようやく邪神様の全容をこの目に焼き付けることができるのか……」


「この世界は完全に俺らのものになるな…」

下級魔物は緊張の中に希望と高揚を秘めていた、その時だった


天井から聞こえる足音…

震える天井から落ちるホコリがゆっくりとロウソクの火をかすめた

「そう言っているうちに、また新たに生贄がやってきたようです。行きなさい」

  

分身は淡々と命令を下すと、下級魔物は目の色を変えて階段を駆け上がった



 ………………



逃げ込んできた人々は、ようやく見つけた安息の地に安撫の吐息をつく。異形が姿を消した後も新たな脅威が現れる可能性を考慮してここで休むことになる

 

なんの説明のないまま入ったのはいいが、思い出せば不可解な点があった。

建物の入り口には、雨風にさらされた様子もない真新しい「避難場所」の看板、この古い施設に後付けされたような違和感

だがその理由も見当たらず、不安ながらもその場に居座った




 ――その直後だった。びっしりと羅列された床のタイルの一部がゆっくりと開く

  

その不安は的中する 


「何だこの音…!」


怯える人々が振り返るより早く、暗がりの階段から魔物達が溢れ出した 

思考が回らずただ腕を前にして構える人達は格好の的、下級魔物達は襲い始めた

 

悲鳴が飛び交う喧騒の中、魔物達は冷静に人間達を拘束し始めた 

手首が拘束され、その場に投げ捨てられる。逃げ惑う人を捕まえるために魔物は拘束された人間を踏みながら歩く


「助け、…たずけてくれ…!」

扉に向かう人間の首を掴んで後ろに投げた

百人程の人達を室内の真ん中に追い込み、動けないように抑え込んだ。その様子はまるで家畜のようだった


その中で1人の男が小柄な男を掴んで叫んだ

「お前ら、こいつがどうなってもいいのか…!俺はナイフを持っているぞ!」

気の狂ったナイフを突き立て逆に魔物達を脅し始める


パニックは広がる。他の人達も震える手でナイフを取り出して振り始めた


しかし、その脅しは魔物達に効かない

分身が霧のように現れ、告げた

「まずは男を掴んでいる方の肩を打て」

「そしてあいつは脚を打て」


予告の通りに放つ下級の魔弾が各部位を貫いた

肉を貫く鈍い音と共に、肩を撃ち抜かれた男はナイフを落とし、脚を貫かれた者は崩れるように膝をついた


「ナイフ如きでな…我らを倒せると思ったら大間違いなんだよ!!」

分身は血のついた足で男を踏みつける


人間の足掻きは、無駄な抵抗に過ぎなかった

階段のタイルが静かに閉じられる




祭壇が見えてくる

一人一人が捧げられ、その身もろとも邪神に吸い取られる


拘束される男、生贄になるのを拒み身体を大きく揺らした

分身自ら出向いてその男の首根っこを掴む

「静かにしようか」

下級とのオーラの差、男は身体の震えで上手く立つことが出来なくなる

 

「気絶させたほうが楽か…」 

すると……

急に分身の動きが止まった。分身の足が砂のように落ちていく

「う、ぅが……そんなはずは…本体が攻撃を受けたということ…か…?何者かが……私のことを……」


「マカル様…身体が!」

下級が走って近づこうとする


「来るな!慌てずに事を進めよ」


マカル本体の分身を制御する力が一瞬途切れただけで、分身は再び立て直す



「がぁぁあっ!!」


「ぐぁぁぁあ!!」


その光景はあまりにも悲惨すぎた

しかし分身にとっては笑いの餌、口元を押さえながら、次の番だと男を祭壇に投げた


 

「なんで俺らが…なんで俺らがこんな目に遭わないといけないんだよ…!」


それが当然と応えるかのように、分身は他の生贄に顔を向けた


過呼吸になって叫び散らかす男

終わりを悟るその頃にはもう祭壇に吸い込まれてしまった



そうして、難なく生贄が済んだ頃…

再び分身の身体に痛みが走った 

「また…か…この身体はもうダメだ……生贄の用意は済んでいるはず…早くみんなで祈れ!」


下級魔物達はすぐに頭を下げて祈った


崩れ落ちていく身体、その最期まで喜びを噛み締めながら祈り…

「アアアァァァァ!!」

その生涯を終える 



 ………………



隠された祭壇、計6地点から放たれた光

それは天へ向かい、不穏に広がる雲を貫いた

 

だがそれは希望の光なんかではない。空に魔法陣を描くための終わりを示す。雲が切り裂かれ、そこから降臨する黒い影



竜輝が見たその姿

黒く染まったその強靭な身体、ゆうに50mを超えている。4本の腕に結合されたその翼を広げてゆっくりと飛来

横に開くその目は宇宙を彷彿させる無限の虚無を覗かせていた


「やっぱり…こうなるのか…」


邪神が降臨したその瞬間、世界から音が消えた

翼を広げると心臓に何か圧が伝わる

 

竜輝は、本能的に震えあがる身体を押さえながら、気合で魔剣を振る

放たれた斬撃は力強く向かっていった



しかし、邪神は自身の周りにシールドを張った

シールドに触れた斬撃はねじ曲がり、やがて無に変わる


生物というには程遠い

起きるすべての現象がこの世の理を壊しているかのよう、竜輝の額に一粒の汗



 ………………


 

  

一方で聖獣達も6つの光を見ていた

あの頃と変わらない邪神の姿が空から舞い降り、その光景に困惑と緊張が走った 


「何故邪神が現れた…?!祭壇は破壊したはずなのに…」

聖犬は唖然としながら立ち尽くす


「6つの光……祭壇はすでにあの6地点に移動されていたわけか…魔物のくせに生意気な真似しやがって!!」

眉間にシワを寄せ、鬼の形相で聖獣は向かっていく


光の速さで接近、邪神の目の前で制裁の光を放つ

 

「聖獣か…」

落ち着いた様子で静観

シールドがその全ての光を消し飛ばした

 

「あの時と同じシールド…」


「前の様に精鋭を引き連れていないお前が、このシールドを破ることは不可能だ」


「いや、仲間はまだ一人いる」


「聖犬か、1人如きの魔力で破れるとでも?舐められたものだ。仮に破られたとてその頃にはお前らの魔力はゼロ、もぬけの殻状態で負けなんだよ」


巨大な手の平を上に上げ、生成した闇の魔力を天に振り注ぐ

破裂した粒子が半径5キロの範囲に降り注がれる。それは死の雨と表現するのが正しいだろう


「いち早くこの世界に降臨したものの、私の復活は止めることが出来なかった様だ。お前に破壊は止められない」

腕の形を鋭い剣に変え、振り下ろした

 

聖獣は間一髪その攻撃を避ける

しかし、次の瞬間、聖獣の身体に大きな傷跡が残った


見えない斬撃が聖獣の血を噴き上がらせたのだ


そして、時間差で襲ってくる死の雨

あまりにも大き過ぎる規模、聖獣は自らに光のベールを纏わせる

真下にいる竜輝を無視して…


 

「このままじゃ死ぬ…嫌だ死にたくない…」

必死に逃げる竜輝の姿

その姿はからもう、マカルを倒す時の威勢など微塵も伺えない



空を飛んで向かう聖犬、死の雨が振り注ぐ絶望の光景に一瞬身体が止まった

範囲外に逃れようと後ろを振り返るその途中、リュウガ達を地上に置いていったことを思い出した

 

大まかな位置と、微かに感じる魔力を頼りに死の雨の範囲内へ向かっていく



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