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【連載版】数年前に亡くなったお祖母様が冷血侯爵との結婚を勧めてくる  作者: 秋色mai @コミカライズ企画進行中


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3/5

3. 高評価でイチオシ


「えぇ……」


 朝、目が覚めると、まだお祖母様が宙に浮いていた。しかしながら今日は平日。お見合いはなくとも、学園に行かなければならない。全てにおいて浮いているお祖母様付きで。

 ああ……私の休息日はいずこへ。


「はぁ……」


 そのうちにジェーンが入ってきて身支度をさせられ、朝食の間にはお父様に釘をさされた。昨日、野猿令嬢をもう一度広めればいいと言ったことをまだ怒っているらしい。もう娘の体裁とか諦めましょうよ。そんなもの最初からないのですから。


「では行って参ります」

「採集や狩りはしちゃダメよ」

「淑女らしい振る舞いをな」


 家を出る時まで言われてもう耳にタコができそう。私はそんなに信用ないですか、お母様お父様。

 野猿が駄目なら、本当に真面目に結婚活動をしなければならないことに……。

 めんどくささに白目を剥く。昨日に引き続き、お祖母様は学園にもついてくる気らしい。何? 足元、気をつけなさい?


「あだっ!」


 馬車の足場に膝をぶつけた。御者が笑いかけたのを誤魔化す。

 ……ああ嫌だ嫌だ。学園になんて行きたくない。

 私の気持ちとは裏腹に、馬車は学園へと向かった。もうヤケになって馬車の揺れに合わせてヘッドバンギングした。


 そんなこんなで着いて、学園の廊下を闊歩する。相変わらず周囲から遠巻きにされているけど、入学した時からそうだから、もう慣れた。すれ違いざまの男子生徒の近くに、何かが浮いている。これってまさか、スケッチブッ……。


 ──×

 すでに婚約者あり。


 お祖母様……。


「ちょっと天国に帰ってくださいませんか?」


 思わずそう漏らしてしまい、周りが少しざわつく。いや、貴方たちのことじゃなくてですね。

 このお祖母様、学園でも孫娘の結婚活動、略して婚活のサポートしようとしてる?

 ……とはいえ、あれだけ釘を刺されておかしなことはできず。いつでもお構いなしにスケッチブックを見せつけてくるお祖母様のせいで、授業に全く集中できなかった。透けた祖母越しに黒板をみる孫娘って字面だけでおかしい。今だって、ほら。


 ──△

 独身だけど三度の飯より研究が好き。


 先生まで評価してどうするんですか、お祖母様。昨日に比べたら最高ですけども、そもそも年齢差というものがですね。頭頂部が輝いている時点で中年だとわかるでしょう。


「今日の授業はここまで。予習してくるように」


 もうスケッチブックとバツは当分見たくない。いやもしかして明日もついてくるつもりじゃないですよね? 全校生徒判定しないと終われないみたいな?

 そんなことを考えつつ、帰りの馬車を待っていた時。突然、お祖母様が空中で暴れ始めた。



 ──◎ ☆5/5 高評価 お祖母様イチオシ

 お金持ち。ハンサム。相性も良し。


 思わずそちらを向くと、今日一度も見たことのない○どころか◎、イチオシとまできた。そんな稀有な人がいるなんて……ってお祖母様。

 この方だけはないでしょう。ふざけているのですか? それとも怒ってます?


「グ、グランウィル侯爵、本日はどのようなご用件で……」

「アポイントメントは取ったはずだが」


 容赦のない低い声。春風に揺れる濃紺の髪。

 ベネディクト・グランウィル侯爵様。通称、冷血侯爵。


 ああ、可哀想な門番。切れ長な金色の目に冷たい視線で見下ろされてひとたまりもないだろう。門番も小さくはない方だというのに、彼よりも十五センチは高い。地位も身長も高いなんて、天は二物を与えている。


 ──おかしいな。何か手違いでもあったのか? まあいい。


「早く案内してくれ」

「かしこまりましたっ!」


 ん?

 さすがの速筆ですねお祖母様……ってそうじゃなく。そのスケッチブックに書かれた言葉は誰のでしょうか。いや、まさかね。まさかまさかね。


「今、それ用の者を呼びますので」


 ──俺も卒業生、忙しいのなら


「不要だ。仕事に戻るといい」

「ご、ご不快に思わせてしまい大変申し訳ありません」


 ……幽霊のお祖母様が冷血侯爵の思考を暴露してくる。正確に言うなら、言葉足らずを補ってる。


  いや侯爵、コミュニケーション下手くそすぎませんか? 表情筋も仕事してください。私は山で培った観察眼で、0.01ミリだけ広角が上がってるのわかりますけども。

 勿論わからない門番は縮みあがり、なんなら震えている。対して侯爵はそれに全く気付かずさっさと行こうとしていた。

 逆方向です。改築したので学園長室は去年と違うところにありますよ。まったく、これがお祖母様の高評価だなんて……。

 チラリと懐中時計を見た。馬車がくるまで、まだ時間がある。

 

「私はアリス・ブランシェットと申します。無礼をお許しください。……昨年校舎を改築しまして、ご案内します」


 また衝動的に動いてしまった。侯爵が僅かに目を見開く。これでお祖母様がスケッチブックに書いているのが見えなかったら絶妙すぎる間に耐えられなかっただろう。会話のリズムが悪すぎる。


 ──そうだったのか。だが、手間をかけさせてはいけないし、


「結構だ」

「大丈夫です、まだ迎えまでかかりますので」

「……そうか」


 ──よろしく頼む。


 はぁ。

 見ていられないくらい門番が可哀想だったせいであって……お祖母様の言う通りにしているわけじゃなりませんからね。これ以上被害を出してはいけないだけです。

 だからお祖母様、イケイケゴーゴーじゃないんですよ。実体だったらそのスケッチブック引き裂いてますよ。

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