2. お祖母様のレビュー
「何人でしたっけ……じゃない! アリス、どこが嫌だったんだ。普通の好青年だっただろう!?」
お客様が帰路についたであろうところで、お父様の悲痛な叫びが響く。
そこは家のために怒るところでは?
あと全然普通じゃなかったです。ド変態の元に娘が嫁ぐところでしたよ。幽霊のお祖母様が教えてくれただなんて言った日には、お父様が寝込んでしまうので言いませんけども。
「あと、我が家は特殊な宗派になんて入ってないぞ。異端だと思われたらどうするんだ!」
なんか適当に派生したやつってことにしておきましょうよ。というかお相手方も振られた理由なんて公言しないでしょう。同じく下級貴族の子爵家ですし。
なんて、ここで口答えをしてしまえばまた心労で倒れられるので我慢。少しズレた心配性のお父様は放っておいてお祖母様の方を見る。
いや、グッ! じゃなくてですね。
「……まあいい、もうそろそろ次のお客様がいらっしゃる」
待ってください私の朝ごはんは? 腹が減っては戦はできぬ。
「次こそは、ちゃんとしてくれよ」
……ごめんなさい、お父様。
すっかり暗くなった部屋で、親子二人して頭を抱えていた。でもこれは私のせいじゃない。断る以外の道がなかった。
二人目どころか、全員最悪だった。お祖母様情報以外は普通か優良物件だったのに。ああ思い出すだけで怖気がする。
──☆1/5
母親をママと呼んでいる。たまに赤ん坊のように泣き喚いては数分後には真顔になっている。
お、お祖母様冗談ですよね?
と思わず目を疑った。二人目……男爵家の嫡男はとても、それはもう真面目そうな人だった。服はどこにも皴なくピシッと、髪はしっかり一本の乱れもなく上げて、極めつけに眼鏡。真面目そうな人だったのに。
闇が深すぎて手に負えず、どうにかお帰りいただいた。眼鏡恐怖症と言っておいた。
──低評価
浮気性。物事を下半身でしか考えられない色狂い。二度婚約破棄されているため現在独身。最悪。
三人目の人は伯爵家の三男……学園でも一度はお付き合いしてみたい、美しき金髪の貴公子と噂されていた人だったのに。
評判とは一体何なのだろうと思考の海に沈む羽目になった。ニコニコと笑う三男をよそに、お祖母様はスケッチブックに女性遍歴を書いていった。泥沼だし一回刺されてるし、なんならそれを伯爵家の権力でもみ消してるし。全てを知った後には、汚れた麦わらのすけこましにしか見えなくなっていた。あなた人の心とかないんですか?
さすがに生理的に無理で、どうにかお帰りいただいた。あなた様の美貌には釣り合いませんと、どうにか持ち上げていい気分にさせてうやむやにした。なんか私の事美しいとかも言ってたけど、知らん。帰れ。
──あえて一言
この男はやめときなさい。
そして最後の隣国の子爵家よぉ……。分泌物好きから赤ちゃん返り、浮気性ときて最後の最後に言えないレベルってなんなんですか?
もう、どうにかお帰りいただいた。母国語とウンパシャヤット語しか喋れませんと伝えた。ちなみにウンパシャヤット語なんてものはこの世に存在しない。
「はぁ……」
「ため息をつきたいのはこっちだ。もう誰ならいいんだ……」
もう誰でも嫌です。結局朝昼ごはん抜きでしたし。騎士は食わねどナプキンで口を拭く、なんて嘘ですよ絶対。
「そもそもなんで、こんな弱小子爵家に縁談が押し寄せてきているのですか」
「私が知りたい。断りたくても、我が家には理由がないんだぞ」
お父様はなくなりかけている髪をかきむしり、お腹を鳴らした。私が食べていないということはお父様も食べていないということで。
これは、早めに手を打たなければならない。自分から結婚活動をするか、いっそ虫よけにペパーミントでも体にこすりつけるか。いやでもあれらはたかってくる蠅だけど人間だから効かない。ふむ……?
「……野猿令嬢の噂をもう一度流せばよいのでは?」
某言いふらされてしまった、あることないこと、の数少ないある方だ。
*
……ああ、悲しいかな。美醜をまったく気にしないブランシェット家の人間は理解していない。アリス・ブランシェット子爵令嬢は、とんでもない美少女なのに。
小さく華奢な体に、ふわふわとたなびくミルクティー色の髪、肌は白くつややかで、大きな瞳は青空をそのまま映したかのよう。その清らかさは他国の者が見れば姫と間違えるほどだった。
『こんな野猿みたいなやつと結婚できるか!!』
そんな美少女に最初に引き寄せられた男の子は、幼くして理想と現実を知った。初恋を奪った彼女は、姫とはほど遠かった。
『アリス、何をしたんだ。庭を歩いていたんじゃなかったのか』
『風に飛ばされて木に引っかかったハンカチーフを取って差し上げただけです。ついでに頭の周りを飛んでいた蜂を潰して、ちゃんと殺れたかどうか見せて確認を……』
『アリス……』
アリスは見た目詐欺も甚だしいほどの野生児であった。野山に混じりて草木を取りつつ、よろづのことに使っていた。それこそ傷薬にしたり、火を起こしたり、単にブンブン振ったり。これも祖母の英才教育の一環であった。
おかげでブランシェット家にお仕えする者たちまで、アリスの容姿を褒める前にドン引きすることになる。
子爵は「修道院に送るしかないのか……」と頭を抱え、夫人は「血は争えないわねぇ。お義母様そっくりだもの」と諦めの笑みを浮かべ、後継ぎである姉君は「学園を卒業したら嫁ぎ先がなくても追い出すわよ。穀潰しに用はない」とまで宣言していた。
『追い出されたときはもう、ノラニンジンを食べて過ごそうと思います』
本人までもこれでは、もうどうしようもなかった。
しかしながらこのままでは本当に宝の持ち腐れで、嫁ぎそびれる。そんな末の孫娘の元に、この野猿の元凶ともいえる祖母は降臨した。
そうしてこの国にもう一人、結婚のできなそうな男がいるのだが……。




